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地方にある日本再生のヒント〈後編〉

※この記事は過去にシン・エナジーの公式ブログ「ミラトモ!」に公開された2019年4月の記事の再掲です。内容はすべて当時のものです

前編で紹介した高知県の経営者の話は、ビジネスにおいてONとOFFを切り分けることの大事さを示しているが、同時に仕事に自分が支配されるのではなく、仕事以外の面にも大きく視野を広げることが人生を生き生きとさせ、ビジネスにもいい効果をもたらすことを教えてくれたのかもしれない。

▽山形県最上町 得意分野の地域貢献で高齢者に生きがい

一般社団法人日本サステイナブルコミュニティ協会(JSC-A)が2月に東京で開催した講演会に登壇した山形県最上町の髙橋重美町長の話に魅せられた。
最上町は山形県の北東部にあり、町内の権現山には日本有数といわれる推定樹齢600年の大カツラ(桂)の樹があることでも知られる。

画像1■山形県最上町の高橋重美町長

画像2■推定樹齢600年の大カツラ(桂)の樹

現在の人口は約8,800人と1950年代のピーク時の半分にまで減少したが、「皆さん、人口は減っていますが心配することはありません。この町の魅力を前面に押し出して、エネルギーや産業を創る努力をすることが町を元気にするのです」と、人口減に肩を落とすことなく新しい政策を次々打ち出している。
「若い人は都会にとられても高齢者がいます。町に来てくれた人に道案内でも美味しい野菜の作り方でもそれぞれが得意な分野で町のためになることをやってくれれば、町も良くなるし、健康で生きがいを持った高齢者が増える。実際、医療費だって1,000万円ほど削減できた」と笑顔で話す。
若い人の定住も諦めたわけではない。林業の効率化と魅力を高めるため間伐などに威力を発揮する高性能林業機械「ハーベスタ」を導入し、防災協定を結ぶ板橋区の若者を招き森林の間伐体験をしてもらうイベントでデモンストレーションしている。こうした都市部の若者と地元の若者を交流させる事業でカップルも誕生したという。
さらに同町出身者で都会の学校に行ってもちゃんと戻ってきてくれた若者には、貸し付けた奨学金をタダにする政策も始めた。

▽段階を踏んだ移住促進策

一番重要な定住政策についても、定住を一足飛びに求めることはせず、①ふるさと納税でまず最上町のファンを増やす②体験型交流と研修を重ねることで地域に馴染んでもらう③都市部の家は残していていいから別に最上町にも住む2地域居住制度を進める――といった段階を踏んだ移住促進政策も編み出した。この事業と並行して住まいの支援策を打ち出し、「若者定住環境モデルタウン」として分譲住宅6棟、土地分譲7区画、集合住宅10世帯の整備を進めている。
地元資源を生かすため、再生可能エネルギーの活用にも早くから乗り出し、現在町内には合計5,000kWの出力を持つ太陽光発電所が3カ所あり、木質チップ焚きボイラーを使った熱供給施設もある。2020年を目標に年間エネルギー消費量の20%を地元の再生可能エネルギーで賄えるようにする計画だ。髙橋町長の発想の柔軟さと、町の将来に懸ける思いの強さに驚かされた。
前編で紹介した群馬県上野村の黒澤八郎村長と最上町の高橋重美町長の共通点は逆境を逆境と思わず、常に前向きに新しい政策を考えている点だ。村長や町長に人間的な魅力があると、それに魅かれて別な能力を持った人が集まってくる。会いに来てくれるだけでも違った視点を持っているから、やり取りの中から自分たち地域の魅力を新しい角度から発見してくれる。
地域資源という言葉を未利用木材のようなモノからだけ見ていたが、住民や首長の人間的な魅力や人脈というもう一つの大きな資源があることに気が付いた。

画像3■前森高原

(2019/4/8 シン・エナジー広報/元日本経済新聞記者 府川浩・記)