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no.7 マイクロバイオーム研究の最新論文紹介(微生物、腸内細菌の最前線)

今回は「マイクロバイオームを浮き彫りにする」という特集がイチオシです。
さくっと読めるものでは到底ないですが、さまざまな論文が掲載されていて、本を一冊以上読むに匹敵するボリューム。
ほかに個人的に面白かったのが、FMTに関する論文。(★をつけています。)

ゲノム解析技術が手軽に使えるようになり、目に見えないマイクロバイオーム、腸内細菌に関する論文は、この10年あまりで指数関数的に増えています。

ここでは、PubMedで'gut microbiome' 'FMT'などのキーワードで集めた論文を定期的に紹介します。

新しい論文はまだ評価が定まっていないこともあり、鵜呑みにするのは危険な一面、研究の最前線に触れることができます。
要点だけでも、興味のある内容をぜひ読んでみてください!


異なる疾患同士で腸内細菌の似ている兆候や異なっている兆候をメタ解析する

[Regular Article]
(タイトル)Meta-analysis of the human gut microbiome uncovers shared and distinct microbial signatures between diseases
(タイトル訳)異なる疾患同士で腸内細菌の似ている兆候や異なっている兆候をメタ解析する
(概要)代謝系、消化器系、神経系などの11の疾患同士で、腸内細菌の特徴がどれほど共有できるかなどを、複数の研究(18の研究2091サンプル)をもとに検証している。たとえばクローン病と大腸がんは似通った腸内細菌の特徴を持ち、アルツハイマー病とIBDは逆相関にあり、これまで以上に代謝系の違いがあることがわかった。
(著者)Dong-Min Jinら
Center for Genomics and Systems Biology, New York University, New York, NY, USA
(雑誌名・出版社名)プレプリント
(出版日時)2024 Feb 29
(コメント)アルツハイマー病とIBDはどちらも腸内細菌との関連が示されていたが、どうやら「逆の方向に乱れている」可能性が指摘された。詳しくは論文内のディスカッションに掲載されている。

高純度のウイルスサンプルを使用した、ヒトの腸ウイルスの隠された多様性の発見と探索

[Regular Article]
(タイトル)Discovering and exploring the hidden diversity of human gut viruses using highly enriched virome samples
(タイトル訳)高純度のウイルスサンプルを使用した、ヒトの腸ウイルスの隠された多様性の発見と探索
(概要)ウイルスのゲノム解析は、現在レファレンス不足で難航している。研究者らは、高純度のウィルスを活用した、新しいウイルスゲノムのデータベースの提供を目指している。
(著者)イタリア、日本のメタジェンセラピューティクス株式会社などの共同研究
(雑誌名・出版社名)プレプリント
(出版日時)2024 Feb 19

早産児における子宮外発育遅延と早期に住み着く腸内細菌の兆候

[Regular Article]
(タイトル)Gut microbial network signatures of early colonizers in preterm neonates with extrauterine growth restriction
(タイトル訳)早産児における子宮外発育遅延と早期に住み着く腸内細菌の兆候
(概要)15人の早産児と14人の健常児を対象に、胎便、生後28日、退院1ヶ月後の便を解析した。その結果、それぞれの採取ポイントで両者の短鎖脂肪酸産生菌などの組成に大きな違いが見られた。
(著者)Yumei Liangら
Affiliated Hospital of Youjiang Medical University for Nationalities, Baise, Guangxi Zhuang Autonomous Region, 533000, China
(雑誌名・出版社名)BMC Microbiology
(出版日時)09 March 2024

腸内細菌の安定性における宿主の物理的ニッチの重要性

https://doi.org/10.1098/rstb.2023.0066

[Opinion Article]
(タイトル)The importance of host physical niches for the stability of gut microbiome composition
(タイトル訳)腸内細菌の安定性における宿主の物理的ニッチの重要性
(URL)https://doi.org/10.1098/rstb.2023.0066
(概要)宿主と腸内細菌は特定の関係を結び共進化することがあり、栄養源のニッチ、生態学的ニッチの他に、その一部が宿主の物理的ニッチによる選択によるものである証拠を検討している。
(著者)William B. Ludington
Department of Biology, Johns Hopkins University, Baltimore, MD 21218, USA
(雑誌名・出版社名)THE ROYAL SOCIETY
(出版日時)18 March 2024
(コメント)物理的ニッチによる共進化は、イカ、魚、昆虫などに見られる。
こちらの記事を含む特集のトップページを次に示します。

【特集】マイクロバイオームを浮き彫りにする:宿主の因子がどのようにマイクロバイオームを決定し、また応答するか

https://royalsocietypublishing.org/doi/full/10.1098/rstb.2023.0057#d1e311

[Special Issue]
(タイトル)Sculpting the microbiome: how host factors determine and respond to microbial colonization
(タイトル訳)マイクロバイオームを浮き彫りにする:宿主の因子がどのようにマイクロバイオームを決定し、また応答するか
(URL)https://royalsocietypublishing.org/doi/full/10.1098/rstb.2023.0057#d1e311
(概要)Summary of articlesのところで、かなりたくさんの論文を案内しています。興味のあるものだけ読んでも面白いと思います。
(著者)Mark A. Hansonら
Centre for Ecology and Conservation, University of Exeter, Penryn Campus, Penryn Cornwall TR10 9FE, UK
(雑誌名・出版社名)THE ROYAL SOCIETY
(出版日時)18 March 2024
(コメント)THE ROYAL SOCIETYの特集で、面白いのがありました。

環境毒素への暴露は、腸マイクロバイオームの乱れ、インスリン抵抗性、肥満に関係する

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0160412024001557?via%3Dihub

[Regular Article]
(タイトル)Exposure to environmental toxicants is associated with gut microbiome dysbiosis, insulin resistance and obesity
(タイトル訳)環境毒素への暴露は、腸マイクロバイオームの乱れ、インスリン抵抗性、肥満に関係する
(URL)https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0160412024001557?via%3Dihub
(概要)環境毒素が腸内細菌叢と二次胆汁酸を通して肥満とインスリン抵抗性と関連しているかどうかを検証するため、264名のデンマーク人を対象に血清中の二次胆汁酸、その他28種類の環境毒素を測定した。
12種類の環境毒素は肥満とインスリン抵抗性と関連があり、さらに特に男性でいくつかの腸内細菌の増加と関連していた。(Anaerotruncus、Alistipes、Bacteroides、Bifidobacterium、Clostridium、Dorea、Eubacterium、Escherichia、Prevotella、Ruminococcus、Roseburia、Subdoligranulum、およびVeillonella)
女性の場合はPrevotella copriが減少していた。さらにこれらの結果は、マウス実験によって裏付けられた。
(著者)Partho Senら
Turku Bioscience Centre, University of Turku and Åbo Akademi University, 20520, Turku, Finland
(その他、スウェーデンやデンマーク、イギリス、アメリカの研究者らも参加)
(雑誌名・出版社名)Environment International(ELSEVIER)
(出版日時)April 2024
(コメント)食べ物だけではなく、環境中のさまざまな毒素も腸内細菌叢の乱れと関係しているらしい。

国際宇宙ステーションでの多剤耐性Enterobacter bugandensisの持続性と推移を促進するゲノム、機能、および代謝の強化

[Regular Article]
(タイトル)Genomic, functional, and metabolic enhancements in multidrug-resistant Enterobacter bugandensis facilitating its persistence and succession in the International Space Station
(タイトル訳)国際宇宙ステーションでの多剤耐性Enterobacter bugandensisの持続性と推移を促進するゲノム、機能、および代謝の強化
(URL)https://microbiomejournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40168-024-01777-1
(概要)病原性を持つとされるEnterobacter bugandensisに注目し、宇宙ステーションでの生態を経時的に時間軸で解析した研究。地球から離れた特殊な環境で、E. bugandensisの13株が多剤耐性を示した。乗組員の安全を確保するほか、極端な環境での微生物の進化のモデルになりうる。
(著者)Pratyay Senguptaら
Department of Biotechnology, Bhupat and Jyoti Mehta School of Biosciences, Indian Institute of Technology Madras, Chennai, 600036, Tamil Nadu, India
(雑誌名・出版社名)Microbe (BMC)
(出版日時)23 March 2024
(コメント)論文内に動画の要約もあります。

★ヒト由来の微生物がマウスの腸内微生物を整え、腸バリアを修復することで、マウスの大腸炎を軽減する

☆[Regular Article]
(タイトル)Human-derived bacterial strains mitigate colitis via modulating gut microbiota and repairing intestinal barrier function in mice
(タイトル訳)ヒト由来の微生物がマウスの腸内微生物を整え、腸バリアを修復することで、マウスの大腸炎を軽減する
(URL)https://bmcmicrobiol.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12866-024-03216-5
(概要)微生物が大腸炎を緩和するメカニズム解明のため、ヒト由来の微生物をマウスに移植する実験を行った。ヒトのドナーは、4ヶ月半の乳児と48歳の潰瘍性大腸炎の患者(寛解期)で、そこから単離した3種(P. acidilactici、E. faecium、およびE. coli)が大腸炎の緩和に有効だった。これらの種は腸管バリアと顕著に正の相関があるFaecalibaculumおよびL. murinusに属する内因性細菌の相対豊度を増加させ、炎症と正の相関があるOdoribacter、Rikenella、OscillibacterおよびParasutterellaからの内因性細菌の相対豊度を減少させた。
非常に興味深いことに、これらの治療効果は、事前に抗生物質を与えたマウスでは見られなかった。
(著者)Juanjuan Daiら
Department of Intensive Care Unit, State Key Laboratory of Oncology in South China, Collaborative Innovation Center for Cancer Medicine, Sun Yat-sen University Cancer Center, Guangzhou, 510060, P.R. China
(雑誌名・出版社名)BMC Microbiology
(出版日時)23 March 2024
(コメント)ドナー選定の根拠が非常にユニーク。また、抗生物質で事前処理する現在のFMTの方法に一石を投じる論文でもある。FMTに興味のある人は必読です。

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