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no.9 腸内細菌、FMT研究の最新論文紹介

今回は、がんやクローン病などの疾患とマイクロバイオームの関係、都市と地方の生活とマイクロバイオーム、FMTの方法論など、多様な論文が集まりました。

ゲノム解析技術が手軽に使えるようになり、目に見えないマイクロバイオーム、腸内細菌に関する論文は、この15年あまりで指数関数的に増えています。

ここでは、PubMedで'gut microbiome' 'FMT'などのキーワードで集めた論文を定期的に紹介します。

新しい論文はまだ評価が定まっていないこともあり、鵜呑みにするのは危険な一面、研究の最前線に触れることができます。
要点だけでも、興味のある内容をぜひ読んでみてください!


がん免疫療法における微生物の影響

[Review Article]
(タイトル)Influence of Microbiota on Tumor Immunotherapy
(タイトル訳)がん免疫療法における微生物の影響
(URL)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC11008264/
(概要)がん免疫療法の近況に触れ、体のさまざまな部位においてどの免疫機能が微生物に影響を受けるのかを、腸や腸壁バリア、がん組織内環境などを含めて掘り下げている。さらに、プロバイオティクス、プレバイオティクス、FMTなどの微生物代替療法についても議論する。
(著者)Shengrong Sunら
1Department of Breast and Thyroid Surgery, Renmin Hospital of Wuhan University, Wuhan, Hubei, P. R. China.
(雑誌名・出版社名)International Journal of Biological Sciences
(出版日時)2024 Mar 31

クローン病とウォッシュド便移植(WMT):メタゲノム、メタトランスクリプトーム、メタボロミクス解析に基づく研究

[Regular Article]
(タイトル)Washed microbiota transplantation for Crohn’s disease: A metagenomic, metatranscriptomic, and metabolomic-based study
(タイトル訳)クローン病とウォッシュド便移植(WMT):メタゲノム、メタトランスクリプトーム、メタボロミクス解析に基づく研究
(URL)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC11008410/
(概要)多くの研究が臨床的な観察に焦点を当てている一方で、本研究ではそのメカニズムに踏み込むためにマルチオミクス解析を実施している。
11人のクローン病患者に対してオープンラベルでWMTを行ったところ、移植に3ヶ月後に63.6%にあたる7名が良い臨床症状を示した。腸マイクロバイオームの多様性はWMT後に顕著に上がり、それは臨床症状の改善とも一致した。
メタゲノム解析、メタトランスクリプトーム解析からは、Faecalibacterium prausnitzii, Roseburia intestinalis, and Escherichia coliなどの増加が見られた。
一方でメタボロミクス解析では移植前後でアミノ酸の数値にも変化があった。
(著者)Fei-Hu Baiら
Department of Gastroenterology, The Second Affiliated Hospital of Hainan Medical University, Haikou 570216, Hainan Province, China.
(雑誌名・出版社名)World Journal of Gastroenterology
(出版日時)2024 Mar 21
(コメント)ウォッシュド便移植とは、中国の標準法ともいえる糞便微生物移植の方法。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)患者における気分障害(MD)とマイクロバイオーム

[Regular Article]
(タイトル)Gut bacteriome and mood disorders in women with PCOS
(タイトル訳)多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)患者における気分障害(MD)とマイクロバイオーム
(URL)https://academic.oup.com/humrep/advance-article/doi/10.1093/humrep/deae073/7645435
(概要)PCOSとMD、そして腸内マイクロバイオームの関係を探るため、1966年生まれの北フィンランド出生コホートに参加する人々からデータを集めた。
102名のPCOS患者(うち18名はMDあり、84名はなし)、205名の非PCOS患者(うち25名はMDあり、180名はなし)の4つのカテゴリに分けて、それぞれの腸内細菌叢を16S rRNA解析を実施した。
結果、PCOSとMD両方ある人はPCOSのみの人に比べてα多様性が低く、Butyricicoccusという細菌が少ないことがわかった。一方で、PCOS陰性の人では、MDと腸内細菌に有意な差は見られなかった。
(著者)T T Piltonenら
Department of Obstetrics and Gynecology, Research Unit of Clinical Medicine, Medical Research Center, Oulu University Hospital, University of Oulu, Oulu, Finland
(雑誌名・出版社名)Human Reproduction | Oxford Academic

シンプルさの勝利:単純繊維構造にも、特定のニッチをもつ腸内細菌がいる

[Regular Article]
(タイトル)When simplicity triumphs: niche specialization of gut bacteria exists even for simple fiber structures
(タイトル日本語訳)シンプルさの勝利:単純繊維構造にも、特定のニッチをもつ腸内細菌がいる
(URL)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC11032216/
(概要)複雑な構造を持つトウモロコシふすまとその分解断片、単純な構造を持つ糖を使って、8種類のバクテロイデス属の細菌に成長の競争をさせた研究。
その結果、複雑な繊維構造を好む細菌もいれば、その反対の細菌もおり、同じ属内でも増殖のためのニッチ栄養源が異なることがわかった。
(著者,所属)Bruce R Hamakerら
Whistler Center for Carbohydrate Research, Department of Food Science, 745 Agriculture Mall Drive, Purdue University, West Lafayette, IN 47907, United States
(雑誌名・出版社名)ISME Commun
(出版日時)2024 Apr 11
(コメント)腸内細菌のために食物繊維を摂りましょうとよく聞くが、食物繊維にもいろんな構造があり、それぞれ好きな細菌が異なることを科学的にはっきり示してくれた論文。

南アフリカの都市化による食生活の変化は、欧米化と大腸がんのマイクロバイオームと代謝の指標とリンクしている

[Regular Article]
(タイトル)Diet changes due to urbanization in South Africa are linked to microbiome and metabolome signatures of Westernization and colorectal cancer
(タイトル訳)南アフリカの都市化による食生活の変化は、欧米化と大腸がんのマイクロバイオームと代謝の指標とリンクしている
(URL)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC11032404/
(概要)南アフリカ(サブサハラアフリカ)では、伝統的な食物繊維中心の食生活から欧米型の食生活に遷移しており、それが大腸がんなどの非感染性の疾患のリスク増加につながっていることが知られている。この事実とマイクロバイオームの変化を調べるため、都市生活者20 名、地方生活者24名において食事、細菌叢、ウイルス叢、代謝を調べた。
都市生活者はカロリー摂取が多く、脂肪やタンパク質の摂取も多かった。さらに複雑糖質を分解するPrevotellaなどの細菌が少なく、大腸がんや胆汁酸の代謝に関連の深い細菌が増えていた。また、細菌叢の多様性も低かった。
ウイルス叢も都市化の影響を受けており、南アフリカにおける食の欧米化がマイクロバイオームに影響していることがわかった。
(著者)S. J. D. O’Keefeら
1African Microbiome Institute, Department of Biomedical Sciences, Faculty of Medicine and Health Sciences, Stellenbosch University, Cape Town, South Africa
(雑誌名・出版社名)Nature Communications
(出版日時)2024 Apr 20
(コメント)細菌だけではなく、それに伴うウイルス叢も解析している。

極端な寒さや暑さへの寛容さはマイクロバイオームが誘導する

[Regular Article]
(タイトル)The gut microbiota facilitate their host tolerance to extreme temperatures
(タイトル訳)極端な寒さや暑さへの寛容さはマイクロバイオームが誘導する
(URL)https://bmcmicrobiol.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12866-024-03277-6
(概要)寒さや暑さへの寛容さは、腸内マイクロバイオームが関連することが知られている。本研究では、マウス実験を通してこの現象の一般則を見出そうとしている。
マウスは、-10度や37度などの環境にいると、3日後までの致死率がかなりあがる。これを利用し、-5度から35度の間の環境にマウスを置き、実験を実施した。
その結果、マウスは温度変化4時間後には直腸の体温が変化したが、8時間後には室温(25度)に置かれたマウスと同程度の体温を維持した。しかし、抗生物質を投与されたマウスでは体温が戻らなかったことから、腸内細菌が体温維持に貢献していることが示された。
また、気温変化により細菌の構成も変わっており、それぞれ高温と低温に適応したマウスの腸微生物叢を移植すると、温度寛容さが高められた。
(著者)Wei Liuら
School of Plant Protection, Anhui Province Key Laboratory of Crop Integrated Pest Management, Anhui Province Engineering Laboratory for Green Pesticide Development and Application, Anhui Agricultural University, Hefei, China
(雑誌名・出版社名)BMC Microbiology
(出版日時)20 April 2024
(コメント)気温が変わるとマウスの腸内細菌の構成が変わっていることは非常に興味深く、FMTをする際にドナー便が採取された季節をも考慮する必要性を示唆している。

高齢者における腸マイクロバイオームの役割と健康と疾患

[Review Article]
(タイトル)The Role of the Gut Microbiome in Health and Disease in the Elderly
(タイトル訳)高齢者における腸マイクロバイオームの役割と健康と疾患
(URL)https://link.springer.com/article/10.1007/s11894-024-00932-w
(概要)健やかな加齢や長寿に腸マイクロバイオームが関連していることが明らかになってきており、Butyricimonas, Akkermansia, Odoribacterなどの細菌が健やかな加齢に関わると注目されている。
さらには、FMTや食事療法などの介入によって腸マイクロバイオームを整える試みも出てきている。
それにもかかわらず加齢と腸マイクロバイオームの関係はまだまだ発展途上の分野であり、さらなる大規模な研究が待たれる。
(著者)Lea Ann Chenら
Division of Gastroenterology and Hepatology, Department of Medicine, Rutgers, New Brunswick, NJ, USA
(雑誌名・出版社名)Current Gastroenterology Reports(SpringerLink)
(出版日時)20 April 2024
(コメント)最近公開した加齢とマイクロバイオームのシリーズも同時に参照してください。
マイクロバイオームの「老化」を読み解く

難消化性炭水化物(NDCs)の腸内細菌によるリアルタイムな発酵が宿主の腸のバリア機能に与える影響を調べるためのモデル

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2665927124000625

[Regular Article]
(タイトル)A novel "microbiota-host interaction model" to study the real-time effects of fermentation of non-digestible carbohydrate (NDCs) on gut barrier function
(タイトル訳)難消化性炭水化物(NDCs)の腸内細菌によるリアルタイムな発酵が宿主の腸のバリア機能に与える影響を調べるためのモデル
(URL)https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2665927124000625
(概要)この研究では、難消化性炭水化物(NDCs)の腸内細菌によるリアルタイムな発酵が腸のバリア機能に与える影響を調べるために、電気細胞基板インピーダンス測定システム(ECIS)を使用したin vitro共培養モデルを作成した。モデル腸内細菌としてLactobacillus plantarumが選ばれ、アルギン酸ゲルにカプセル化されて測定した。
この実験モデルにより、細菌由来の発酵による代謝物質の研究や、難消化性食物繊維の腸バリアへの直接的な影響を調べられる可能性もある。
(著者)Paul de Vosら
Immunoendocrinology, Department of Pathology and Medical Biology, University of Groningen, University Medical Center Groningen, Groningen, the Netherlands
(雑誌名・出版社名)Current Research in Food Science(ELSEVIER)
(出版日時)2024 Apr 16

都市と地方のクローン病発生コホート研究(SOURCE)における食事omics解析

[Regular Article]
(タイトル)Diet-omics in the Study of Urban and Rural Crohn disease Evolution (SOURCE) cohort
(タイトル訳)都市と地方のクローン病発生コホート研究(SOURCE)における食事omics解析
(URL)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC11069498/
(概要)中国とイスラエルにおける、最近クローン病と診断を受けた地方生活者と都市生活者380名に対するコホート研究。解析因子は外的環境への暴露、食事、回腸のトランスクリプトーム解析、メタボロミクス解析、マイクロバイオーム解析。
その結果、地方出身者が都市生活を送る年数の多さとクローン病の発症に相関があった。また、コーヒーやマンガン、ビタミンDなどの摂取との関連性、便の代謝物質やマイクロバイオームにも関連を見出した。
(著者)Yael Habermanら
1Sheba Medical Center, Tel-Hashomer, Affiliated with the Tel Aviv University, Tel Aviv, Israel
(雑誌名・出版社名)Nature Communications
(出版日時)2024 May 4

腸内細菌叢の免疫療法における有効性と規制戦略:レビュー

[Review Article]
(タイトル)Efficacy and regulatory strategies of gut microbiota in immunotherapy: a narrative review
(タイトル訳)腸内細菌叢の免疫療法における有効性と規制戦略:レビュー
(URL)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC11082673/
(概要)1984年から2023年までに出版された“gut microbiology” and “tumor” or “immunotherapy”などのキーワードを含む論文を網羅的にレビューしている。
腸内細菌の働きが炎症や腫瘍の形成にどのようにかかわるか、様々な角度からまとめている。
(著者)Leping Liら
1Department of Gastrointestinal Surgery, Shandong Provincial Hospital Affiliated to Shandong First Medical University, Jinan, China
(雑誌名・出版社名)Transl Cancer Res
(出版日時)2024 Apr 15

オスのマイクロバイオームの乱れが子どもに影響する

[Regular Article]
(タイトル)Paternal microbiome perturbations impact offspring fitness
(タイトル訳)オスのマイクロバイオームの乱れが子どもに影響する
(URL)https://www.nature.com/articles/s41586-024-07336-w
(概要)宿主の腸内微生物生態系のバランスを乱す環境因子は、宿主内の生理的応答と疾患関連応答を形成することが知られている。しかし、父マウスの腸内マイクロバイオームが仔に及ぼす影響は解明されていない。
今回、Jamie Hackettらは、雄マウスの腸内微生物相の乱れがその仔に及ぼす影響を評価するため、雄マウスに抗生物質を6週間投与したところ、腸内微生物の多様性、存在量、種の豊かさが減少した。これらのマウスの仔は、出生時低体重、重度の発育不全と早期死亡の確率が高くなることが分かった。Hackettらは、こうした影響が、雄の生殖系における微生物のバランスの乱れに対する応答(ホルモンシグナル伝達不全や精巣の代謝プロファイルの変化など)に関連しているという考えを示している。この応答は、胎盤機能不全のリスクを増大させる引き金となり得る。これに対して、受精までに父マウスの微生物相の乱れを回復させると、仔の健康不良リスクが低減した。この知見は、父マウスのマイクロバイオームの乱れに関連した仔の適応度の低下が、遺伝的影響ではなくエピジェネティックな影響であることを示している。
Hackettらは、腸内微生物相が、父マウスの受精前環境と仔の健康との重要な橋渡し役として作用しているという見解を示している。今回の知見は、環境因子が、複雑な生物システム(直接的な分子応答から複数世代にわたる疾患感受性まで)にどのように影響するかを理解することの重要性を強調している。
(引用:微生物学:マウスにおけるマイクロバイオームと仔の健康との関連 | Nature | Nature Portfolio
(著者)Jamie A. Hackettら
European Molecular Biology Laboratory (EMBL), Epigenetics & Neurobiology Unit, Rome, Italy
(雑誌名・出版社名)Nature
(出版日時)01 May 2024
(コメント)これまでは母親から子どもへの垂直伝播的なマイクロバイオームの影響に関する研究が多かったが、父親のマイクロバイオームも精子を通して影響することがわかった貴重な論文。

★ 直接糞便検査を含むFMTのドナー選別枠組み:前向きコホート研究

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1286457924000716

[Regular Article]
(タイトル)Donor screening for fecal microbiota transplantation with a direct stool testing-based strategy: a prospective cohort study
(タイトル訳)直接糞便検査を含むFMTのドナー選別枠組み:前向きコホート研究
(URL)https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1286457924000716
(概要)FMTのドナー選定は、現在は隔離ベースのアプローチ(あるポイントとあるポイントでドナーの検査を行い、その間の便を使用する方法)が主流であるが、今回は採取した糞便を直接検査する方法を採ることにより、安全性をさらに高めることを目指す枠組みを示した。
採用となったドナーの便であっても、直接糞便検査では廃棄となることもあり(36%)、特に病原性E.coliやBlastocystis hominisなどの病原体が含まれる場合があることがわかった。
(著者)Gianluca Ianiro
Department of Translational Medicine and Surgery, Università Cattolica del Sacro Cuore, Rome, Italy
(雑誌名・出版社名)Microbes and Infection(ELSEVIER)
(出版日時)2024 Apr 26
(コメント)FMTにおけるドナー検査は費用がかかりすぎることがネックとされているが、一方で安全性を高めるために毎回便の提供ごとに便の直接糞便検査を実施する意義も主張され始めている。
弊社がかかわる一般財団法人腸内フローラ移植臨床研究会所属の便バンクJapanbiomeでも、隔離ベースの検査と直接糞便検査ベースのアプローチを組み合わせてバランスを図っている。

論文紹介ニュース記事など

ビタミンDが腸内細菌を変えてがんを抑える、驚きの関係、研究 | ナショナル ジオグラフィック日本版サイト
原文:Vitamin D regulates microbiome-dependent cancer immunity | Science

口腔マイクロバイオームから胃がん前段階の患者を特定?小規模での検討結果 - QLifePro 医療ニュース

微生物学:食事療法に関連した腸内マイクロバイオームの変化を調べる | Nature Communications | Nature Portfolio

【慶應義塾】十分な水分摂取は腸内細菌叢と免疫系の恒常性を維持し腸管感染症に対する防御能を高める | 慶應義塾のプレスリリース


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