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夏至の日の不思議な体験

「時を紡ぐ蝶」 

深い森に囲まれた小さな村、エターナルグローブ。ここでは、時間が通常とは違う流れ方をすると言われていた。

村の中心には、巨大な樹齢千年のヤマモモの木があり、その幹には複雑な模様が刻まれていた。村人たちは、この木を「時の樹」と呼び、大切に守り続けてきた。

2023年6月21日、夏至の日。16歳のリナは、祖母から言い伝えられた不思議な儀式を行おうとしていた。

「時の樹の前で、蝶の形をした古い懐中時計を開くのよ。そうすれば、きっと素晴らしいことが起こるはずだわ」

そう言い残して、祖母は5年前に他界していた。リナは、祖母の言葉を信じ、ずっとこの日を待ち望んでいたのだ。

深夜0時、月明かりに照らされた「時の樹」の前に立つリナ。震える手で蝶の懐中時計を開く。

すると、驚くべきことが起こった。

時計の中から、まばゆい光を放つ蝶が現れたのだ。それは、まるで宝石で出来ているかのように美しく輝いていた。

蝶は、ゆっくりと「時の樹」に向かって飛んでいく。そして樹の幹に刻まれた模様の一つに止まった瞬間、強烈な光が辺りを包み込んだ。

目を覚ますと、リナは見知らぬ場所にいた。

まわりを見回すと、そこはかつて「時の樹」があった場所のようだ。しかし、樹はまだ若く、村の様子も明らかに違っていた。

「まさか、過去にタイムスリップしてしまったの…?」

リナの推測は正しかった。彼女は300年前にタイムスリップしていたのだ。

混乱するリナの前に、一人の少年が現れる。

「君は誰だい?見たことない顔だけど」

少年の名前はトム。リナは状況を説明しようとしたが、突然、激しい頭痛に襲われた。

気がつくと、リナは再び現代に戻っていた。しかし、村の様子が明らかに変わっていた。

建物は近代的になり、「時の樹」は影も形もない。代わりに、巨大な時計塔が建っていた。

唖然とするリナの元に、一通の手紙が風に乗って飛んできた。差出人は「トム」となっていた。

手紙には、こう書かれていた。

「リナへ
300年もの間、君を待ち続けたよ。
時の蝶は、私たちに大切な使命を与えたんだ。
これから起こることに、驚かないでほしい。
全てには理由があるんだ。
トムより」

手紙を読み終えた瞬間、リナの周りの世界が再び歪み始めた。

彼女は、再び時空を超える旅に出ようとしていた。

そして、リナはこの不思議な現象の謎を解く鍵が、自分自身の中にあることに気づき始めていた。

リナの意識が戻ったとき、彼女は見知らぬ未来の世界に立っていた。

空には、巨大な浮遊都市が浮かび、地上では人々がホログラムのような装置を操作している。年号は2323年。リナがタイムスリップしてから、ちょうど300年後の世界だった。

困惑するリナの前に、一人の老人が現れる。

「やあ、リナ。300年ぶりだね」

その声に聞き覚えがあった。リナは息を呑む。

「まさか...トム?」

老人は微笑んだ。「そう、僕だよ。君を待っていたんだ」

トムは、リナに衝撃の事実を告げる。

時の蝶は、1000年に一度目覚める神秘的な存在で、世界の歴史を正しい方向に導く力を持っているという。そして、その力を使いこなせる「時の守護者」を選ぶのだ。

リナとトムは、その守護者に選ばれたのだった。

「でも、どうして私たち?」リナが尋ねる。

トムは深刻な表情で答えた。「この2323年の世界は、時間を操作する技術を手に入れてしまったんだ。その結果、歴史が乱れ、世界は崩壊の危機に瀕している」

彼は続けた。「僕たちの使命は、過去に戻り、この技術が生まれるのを阻止すること。そして、時の流れを正しい方向に導くことなんだ」

リナは、自分たちに課せられた重大な使命に身が引き締まる思いだった。

しかし、それは容易な任務ではなかった。

リナとトムは、時の蝶の力を借りて何度も過去と未来を行き来した。彼らは歴史の重要な転換点に介入し、時には小さな変化を、時には大きな決断を下していった。

そのたびに、2323年の世界は少しずつ変化していった。

しかし、彼らの行動は時空を大きく揺るがし、予期せぬ結果をもたらすこともあった。一度は、彼ら自身の存在さえも消えかけてしまう危機に陥った。

任務の終盤、リナとトムは、時を操作する技術が開発される直前の時代にたどり着いた。

そこで彼らは、その技術を開発しようとしている科学者が、実は未来からやってきた自分たち自身の子孫だということを知る。

リナとトムは、究極の選択を迫られた。自分たちの血筋を絶やすのか、それとも世界の運命を危険に晒すのか。

二人は長い議論の末、苦渋の決断を下す。彼らは、科学者を説得し、研究を断念させることに成功した。

そして最後の時間跳躍。2023年6月21日、夏至の日。

リナとトムは、任務を終えて現代に帰還した。しかし、彼らの記憶は徐々に薄れていき、やがて全てを忘れてしまう。これも、時の摂理の一つだった。

目覚めると、リナは「時の樹」の前に立っていた。手には蝶の懐中時計。

そこに、一人の少年が駆け寄ってきた。

「あ、リナ。何してるの?」

少年の名は、トム。幼なじみで、いつもリナのことを気にかけている男の子だ。

リナは、懐中時計を見つめながら言った。

「ねえトム、なんだか不思議な夢を見たような気がするの。私たちが、大切な何かを成し遂げたような...」

トムは首を傾げた。「へぇ、どんな夢だったの?」

リナは微笑む。「よく覚えてないの。でも、とってもいい夢だったわ」

二人は肩を寄せ合いながら、夕暮れの村を歩いて帰っていった。

彼らの背後で、「時の樹」がそよ風に揺れる。その枝に、一匹の蝶が静かに羽を休めていた。

蝶は、かすかに光を放ちながら、ゆっくりと飛び立つ。

時の流れは正常に戻り、世界は平和な未来へと歩み始めていた。

リナとトムの大いなる冒険は、誰にも知られることなく、静かに幕を閉じたのだった。

しかし、彼らの勇気と決断は、確かにこの世界を救ったのだ。

時を紡ぐ蝶は、次の1000年後の目覚めに向けて、再び長い眠りにつくのだった。


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