繋ぎ合わせ、夏(短編)
溶けないアイスクリームがあるという噂を聞いて、君と過ごす5回目の夏に、わざわざアイスクリームを食べにいく予定を立てた。
「溶けないアイスなんてすごいよね!」僕がそう声高にはしゃぐと、君は冷静な口調で「溶けないわけがないじゃない」と言った。
君という人間は、魔法使いである僕と一緒に暮らしているというのに、未だに科学で説明できないものを嫌う節がある。
でもそんな頑固なところが、僕は好きなのかもしれない。
「本物かどうか確かめにいこう」そう言って君の手を取り、家の前の長い坂道を歩いていくのも、だんだんと当たり前の光景になってきた。
道すがら「黒猫だ!」とはしゃいだり、照り付ける夏の日差しに「あつ~い」と文句を言ったり、僕らの散歩はいつも大忙し。それもこれも全部「ただの魔法なんだよな」と僕はつぶやいてみるけど、たぶん君は聞いていない。
そんな気だるい夏の午後を抜けてアイス屋さんに着くと、やはり店は大人気のようだった。
僕たちも窓辺の席に座り、さっそく溶けないアイスクリームを注文するも、出てきたのは何の変哲もないバニラアイスクリームだった。
「騙されたかな」と君。
「でも美味しそうじゃない?」と僕。
「溶けるまで待つ?」と君。
「せっかくだから食べようよ」と僕。
「そうだね」、ぽつりと君。
目の前でアイスクリームを頬張る君の姿はとても綺麗だった。空になっていくガラスの容器も眩しかった。
結局、本当に溶けないアイスクリームだったのかどうかは分からないけれど、僕たちは満足げに、来た道を帰った。
ただひとつ、僕は少し魔法を使うのを抑えようと思った。
新曲、リリースされました。
"Summer Montage"
Song: Hiroi Gen
Lyric: Katayanagi Hirotaka
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?