見出し画像

「とっかかりは早いけどすぐ飽きるよね」とよく人に言われる。

確かに周囲を見渡すと、飛びつく早さ以上に辞める判断も早いのかもしれない。

個人的には誉め言葉だと捉えているが、継続は力なりという言葉はいまだに根強い。

「すぐ飽きる、物事が続かない」と悩んでいる方に「三日坊主のススメ」をお伝えしたい。

私の三日坊主トップ5

①「日本の心を知ろう」と申し込んだ茶道。

型、作法、日本人の心を会得したいと謙虚な気持ちで申し込む。
その殊勝な気持ちに嘘偽りはない。

初日、長時間の正座に身体が対応せず足が痺れて動けなくなった。
慣れれば何時間でも座っていられるようになるのだと先生に言われ素直に従う。
しかし、慣れるまでというのを信じたいが、肉体的な悲鳴と苦痛はおさまらない。

当面の間、例外として足が痺れないよう師匠着座の椅子を希望するも「原則師匠しか座れない」とのこと。
まったく茶道に注意を向けられる状態ではないが、どうにも融通が効かない世界らしい。
伝統文化特有の師弟関係に身体的な限界を感じる。

今や足の激痛しか記憶にない。

伝統への敬意が生まれる以前に、お金だけ払って退散。

②エンターテイナーになりたくて、中年を過ぎてから申し込んだ楽器サックス講座。

大人になってからはじめる楽器というこじゃれたネーミングに飛びつく。
その動機の軽さに嘘偽りはない。

まず音符が読めない。
音符を譜面に書いていいか尋ねるが、今後のこともあるからまず音符を覚えた方がいいよとの助言あり。
単に皆で使う練習用の楽譜にドとかミとか音を書き入れてほしくないのだと推察。

次に、音が出ない。
ただ空気が漏れるだけで、たくさんの風船を膨らませた後のように頸部リンパ節が痛む。

初心者用のカエルの歌を練習。
練習とは分かっているが、選曲が非常に冴えない。
もうリコーダーで吹いた方が早いのでないかとすら思う。

何かしら希望を持たせたいのか、音楽自体には触れず「肺活量はサックスに向いているよ」と慰労。
肺活量を褒められてもいまいち嬉しくない。

お試しの段階で退会。

③陽気な性格が合うと思い立ち、ダンスのサルサ教室に入会。

絶対楽しいよ、との踊り好きの友人からの太鼓判。今度こそはと意気込む。
ラテンのノリが合うはずだ、という性格適性からの手堅い選択に嘘偽りはない。

初対面の見知らぬ異性でも積極的に手をつなぎ踊る練習に参加。
初めて会うものの、相手は次々にリレーされる形式のようだ。

誰と手をつないだのかも定かでない状態を延々と繰り返す。
合わない相手とずっと組む面倒さを配慮してくれているのかもしれない。

段々リードしてくれようとする男性を少し煩わしく感じ始める。
上手ならともかく、相手が下手でも「男性がリードする」という決まりは絶対らしい。
下手同士だと、どこで何をすればいいのかダンス迷子。

自分が下手なことは棚に上げて、男性の不甲斐なさばかり目につく。

仲良さそうな身内感に溶け込む努力をすることもなく、足が遠のく。

④泳ぐのが好きだからと申し込んだダイビングスクール。

泳ぐのは好きなため、水中はもっとおもしろいだろうと申し込み。
好きなことをやろう!という最近の風潮に乗ったことに嘘偽りはない。

まずは講座の前にスクール主催者が水中で撮影した写真やダイビングのおもしろさを説く。
既にいいと思っているから申し込んでいるのだが、主催者からダイビングの素晴らしさを直接聴くことが講座受講前の必須事項らしい。
他人が経験した綺麗な海の思い出話と写真の数々に既にお腹いっぱい。

このスクールでは素晴らしさを語る仲間の集まりへの参加がお決まりらしい。
若干の窮屈さを感じるが海の素晴らしさに思いを馳せ、眼前の疑問は飲み込む。

実技当日。台風後の日本海へ。
実際潜ってみると思っていたのと何か違う。

トロピカルな海をあれほど力説していたのに、あえて例えるなら汚れた水槽の中にいるかのようだ。
自力で動けるほどの力量がないため、スクール主催者と紐で繋がれ、ただ引っ張られながら水中を進む。

事前のイメージが美しすぎて現実との乖離に打ちのめされる。

仲間とともに水中に潜るのでなく、自力で自由に動ける水泳への回帰を即決意。

⑤強くなりたいと勇んで申し込んだ合気道。
精神を鍛え、単なる武道でなく相手の力を利用するというところに惹かれて入部。
学生時代に一度体験で挫折していたのに、それすら記憶になく人生半ばで再挑戦。
挑戦することが優先され、過去から学ぶ姿勢が疎いことに嘘偽りはない。

達人である師匠の動きを真似ながら学ぶのが王道だと言う。
皆の前で実演するというので師匠と初対峙。

大きな体で攻撃されても小柄な師匠は動かず、逆に反動で大きな人が飛ぶというのを見せたいらしい。
いかにも合気道っぽい。

遠慮せずに押してみろと挑発する師匠。
言葉を信じて思いっきり押す私。

押されて後ろに飛んだのは師匠の方だった。
何度やっても同じ感じ。

あげく「相手が大きいから動かない」と言い始めた師匠。
自分の技よりも私の体格の問題なのだという。

達人と呼ばれる大御所の言い訳を前に、いたたまれない気持ちになる。
気を遣って飛んであげたらよかったのだろうか?!

悶々とする中、違う意味で精神が鍛えられた。
師弟関係から逃げるように退会。

ざっと主なものだけあげてもこんな感じである。
もちろん実際にはもっとたくさんある。

すぐやめたことだけでも本一冊書けそうな気がしてきた。
身近な人からすると、すぐ飛びついては続かずに辞めているように見えると言う(笑)

私が言いたいのはなぜ辞めたかというこぼれ話ではもちろんない。
個人的には人からどう見えているかは別として、三日坊主的生き方は非常に満足している。

今度は三日坊主が素晴らしいと思える理由トップ5を列挙していくこととする。

①いいなと思ったら即行動、大事なのはまず始めること

飽きる人ほど、興味を持った時の飛びつき方は早い。
おもしろそうだけど我慢とか、やってみたいけど先延ばしということは圧倒的に少ない。
そのため「やっておけばよかった」という後悔も少ない。
亡くなる時に「あれしておけば良かった」と悔やむ人生にならないよう日々実践を重ねていると言えるのではないか。

注※もっと続けておけばよかった…と悔やむことは想定外とする

②向いていないことに生命時間を取られない。

せっかく始めたんだからもったいない、という躊躇が微塵もない。
自分に何が向いているか分からないというのは、多くの場合、失敗を恐れて数打っていないからだ。
頭で想像していた分にはものすごく格好よくできそうなのに、意外と体はまったくついてこない分野というのは往々にして存在する。

それとは逆に、何も期待していなかったのに、人より上手にできることの発見は行動してみて初めて分かる。

何に生命時間をかけるかは、有限の人生の中で最もプライオリティの高い事項である。

動物的嗅覚で即座に取捨選択していくことが現代社会を生き残る鍵である。

③知識よりも経験が財産となる

本で読んだことある、雑誌で見たことある、という人は意外といる。
流行りものならなおさらである。

でも例え三日間だとしても実際に体験したことある、というのは大きなアドバンテージである。
なんなら私の場合、見切りが早すぎて、三日も続いていないことがほとんどである。

ほぼ初日で結論を出すため、三日のハードルを越えられるなら、長期に取り組む可能性すらある。

多彩な人には憧れるのに、すぐ飽きる人に冷たいのは矛盾している。
いつも一つのことに長期間集中できるなら、限りある人生時間の中で職人とは言われても多彩にはなり得ない。

すぐ飽きて目移りできるから幅が広がり多彩でもいられるのである。

④飽きるのも早い分、ハマると深い

飽きる方にばかり目が向きがちだが、結構長いことはまって専門性を高めている分野は見落とされている場合が多い。
ネガティブ側面ばかりフォーカスされがちなことの極みであろう。

そう。なんでも飽きているわけではない。
10個飛びつけば、1くらいは残るわけで。

飽きっぽいからこそ「いまだ飽きていない分野の貴重さたるや」言葉にならないのは言うまでもない。

⑤その美学は誰のものか

小さいころからこれがいいという判断基準は、少なからず親や身近な他人の影響を受けている。
となると本当に好きなものと言いつつ、外野から刷り込まれていることは結構ある。

自分の趣味嗜好、得手不得手が幼少期に尊重されていない場合、大人になって試しながら試行錯誤する道草的余裕は決して悪いことではないと思う。

初志貫徹、始めたら達成するまでやらないといけないというのは誰の美学なのだろうか。

辞めてもいい、逃げてもいいという許可を自分に出せてから初めて、心置きなくなんでも始められるスタート地点に立てるのではないか。

その美学は誰のものか、この言葉は常に思い出したい自らの人生への問いである。

つらつらと書いてきたが、立派なことよりも失敗談の方が自分の中で思い入れがあるというのが正直な所感(笑)

ワクワクと期待して飛びついたことが、自分の予想とは裏腹な違和感で満たされていくあの感覚を共有できる人がいればさぞかしおもしろいだろうなと思う。

他人から面倒だと思われるくらいの変なこだわりや違和感こそが愛すべきアイデンティティの片鱗。

この記事を書きながら「和太鼓って格好いいな、始めてみようかな」と家族に告げてみた。

「またか…」という諦めにも似た家族の反応を乗り越えながら「三日坊主的」人生の探求は続く。


最後まで読んでいただきありがとうございます。サポートはキャリアコンサルティングの普及活動に活用させて頂きます。