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デコから陰茎を生やした葉緑体

 酒を飲むと未だ幻覚を目にする。本日の幻覚は、おでこの辺りから二本の陰茎を生やした緑色の肌の人間、通称ピッコロ大魔王が「酒ばっかり飲んでないでしっかりしろ」と、説教を噛ましてきた。ンマァー、偉そうなこと言っちゃってこの葉緑体が!と思ったが、グッと堪えて会社でもらった泡盛を呷った。美味い。
 大抵の幻覚は僕を気にすることはせず、ユラユラ踊ったりヘラヘラと笑ったりを繰り返した末に消え去ってゆくのだが、今日の幻覚は一味違った。なにせ話かけてきたのだ。幻覚が話しかけてくる、この状態は夢想が現実世界に顕現したような不思議な感覚がある。先のピッコロ大魔王だって、僕に対してなにか一言あるが故に話しかけてきたのだろう。あぁ、おとろしい。
 幻覚如きがこの僕に対して一家言あるとは何事だろうか。幻覚に尋ねてみるが返答はない。むっつりした顔で僕を見下ろしているだけである。うむ、なんと自分勝手な幻覚だろうが。自身の言いたいことだけを言い放ち、言いたいこと以外は口にしない。うむ、なんと都合の良いやつであろうか。あぁ、なんかだんだん腹たってきた。ここいらでいっちょ暴れてやろうかな。と思ったが、現カウの目を見て考え直した。いあ、都合がいいと言うより、僕を批判するための芯をしっかり持っていると言ってもいいかもしれない。それ故に僕を見下ろしながら批判的な目を向けているのだろう。なんと高潔な幻覚であろうか。
 しかし、そんな高潔な存在も付き合っていると鬱陶しくなってくる。さらに、酒に酔っている状態だとさらに面倒臭いものだと感じるようになり、幻覚に説教を受けている最中、頭の中では早く終わってくれないかなと思うようになる。幻覚が話しかけてきた驚きより、早く説教が終わってくれないかなというダルさが勝つのは、些か現実味があり、幻覚という非現実の世界に靄がかかってしまう。いいのだろうか、このピッコロ大魔王は。
 しかし、幻覚の成すことに一々反応する僕はかなり優しいのではと思う。遠くでヘラヘラ笑いフラフラ浮かんだ羽を生やした豚に笑いかけたり、玄関にある水の溜まった桶に映り込む剥げた老人に挨拶をかわすなど、幻覚に対する行動は多岐にわたる。そんあものんだから、幻覚は僕に気を良くして話しかけたりしてきたのだろう。あぁ、なんと僕はお人好し、もとい夢想家であろうか。
 して、このピッコロ大魔王だが、終焉はどうなるのだろうかと眺めていたところ、人形を保っていた容姿はいつの間にか一箇所に集結していき拳大ほどの大きさの塊に凝縮されていった。一塊になった後、ゴトンと大きな音を立てて我が家の床に大きな大穴を開けて消え去った。周りにはピッコロ大魔王が巻き上げた粉塵だけが残った。あぁ、酒を飲むのはこれだから辞められない。

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