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母の匂い

カーテン越しに薄い光が差し込む、日曜の朝。ふと目が覚めると、隣で眠る母の匂いがする。ぼやけた輪郭を纏った母の顔を見ていると、今どんな夢を見ているのだろう。もしかして母はもう目を覚まさなかったりするのかもしれない、なんて思えてくる。不安になって身を捩り、その体にしがみつくと、「もう少し寝てなさい」と母の声。安心した私はもう一度、眠りの闇の中に落ちていく。


疫病の影響で長く実家に帰れていないせいか、幼かった頃の記憶を思い出し、なぞってしまうことが最近よくある。以前はそんなことはしていなかったのに、自覚していないだけで家族に会えないことがストレスになっているようだ。

私は昔のことをほぼ覚えていない。だが、寝起きのだるさや、母以外の家族の寝息、シーツのざらざらとした質感、そして母の匂いまで、些細なことのはずなのに覚えているのはなぜだろう。

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