ショートショート11 『  1』


僕から見た彼らは、少し怠け者に見える、し臆病で凶暴だ。

せっせと動き回り、汗水流しながら働いている姿をよく見るが、それはその場しのぎの「やっています感」を出しているだけであって、演技くさい演技に見えてならない。

途方もなく遥か彼方の、遠い社会に属する方々なので、僕には関係のない世界の話だと言い切ってしまってもいいが、そうとも言えないのだ。

僕の兄弟、働き者で僕らの社会にたくさん貢献のしてくれていた二人は、今は亡き者であった。

事故。僕らはそう言って片づけているが、内心思っているのだ、彼ら、巨人のように大きく、臆病で凶暴な怠け者によって、そうさせられたのだ、と。

僕の世界では、そういった事故が頻繁では無いものの、時々起こる。

僕たちの社会では、まいにち何十キロと歩く。

僕も例外ではなく、陽射しが差してる暑い日だろうと、雨が降り道が湖みたいになっていたとしても、とにかく歩く、遠回りしてでもどこか道を探して歩き続ける。

そんな毎日の中で、彼らと出会った時は、もう必死だ。
必死になって逃げる、とにかく全力で走る。

僕の特技はとにかく足が速いことだ、秒間何十回と高速に足を回転させて、地面からの跳ね返りで力をもらって、通り風のようにすぅーといくのだ。

一方で彼らはそんなに早くはない、いや速いんだろうけどそこまで高速に動いている姿をあまり見たことがない。怠け者だ、そう言われてもおかしくない所以である。

しかし、彼らは一歩一歩のストライドが僕らよりもはるかに大きく、ノソノソと、ドスンドスンとその大きな歩幅を生かして、追いかけてくる。

その場合の僕は、もう死に物狂いで、足を高速回転させ、遮二無二走り回る。

時には右に左に行ったり来たり、岩陰に隠れて身を潜めたり、切れ味ある鋭いターンなんかで、その手から逃れる。

そんなことでヘトヘトになりながらも、一日中歩き回り走り回り、ようやく家に帰った時は、ほっと胸をなでおろす。

家の近くまで行くと、僕の気配を感じてか、可愛い弟や妹、僕よりも早く帰宅していた兄や姉なんかが、僕を出迎えてくれる。

あぁ、僕は彼らの姿を見るだけでいい。彼らが元気で過ごしてくれるのなら、僕は頑張れる、帰宅して、兄弟姉妹たちを見た時は、いつもそう思えて、何だか泣きそうにもなる。

家に入ると父さんがいた。

「おかえり。また今日もこんな遅くまでか。お前は本当に働き者だな、もうすぐ飯だ、風呂でも入るか」

微笑んだ顔でそう僕につぶやくと、ずずーと椅子から立ち上がり、奥の方へ消えていった。

あとでかあさんにも「帰りました」と伝えに行こう。

その前に風呂に夜ご飯だ、今日もよく働けた、かあさんもきっと喜んでくれるはずだ。


奥の部屋からは、楽しそうに鼻歌を歌っている父の姿があった、そしていい香りが向こうから漂ってきて、僕の腹はぐぅーっと、力なく鳴った。

              

                〜 続く 〜








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