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大七酒造、圧巻の酒蔵見学。

福島県二本松市にある大七酒造という酒蔵を見学した。創業1751年という長い歴史を持つ蔵で、ここの日本酒「大七」は、日本で「生酛(きもと)」という醸造方法を用いた、日本を代表する銘酒である。

念願の大七酒造。奥に杉玉。

生酛は、米を発酵させる酵母菌を純粋培養する手法の一つ。その酵母の個体数を増やす際、強い外敵(野生酵母・産膜酵母)に駆逐される危険性がある。そのため、ボディガードとして、人工的に乳酸を添加して酸性環境を作り、悪玉菌を駆逐させ、安全に酵母を増やす。これを速醸方式と言い、これが日本酒の9割を占める。

しかしその一方で、空気中から乳酸菌を取り込み、乳酸菌自体に乳酸を作ってもらう、超ナチュラルな手法がある。これを「生酛方式」と言い、江戸時代は100%シェアを誇ったが、前述の速醸が発明されて以来、減少の一途を辿っている。今では1割程度の酒蔵しか採用していない。技術・時間・労力・衛生管理…全て大変。生酛で醸せる杜氏が、一体日本に何人いるのか。そんな超ハイレベルな醸造法だ。

さて、その大七は、我が家の冷蔵庫に常に常備している日常酒である。柔らかな旨味、穏やかな酸味、キレのある後味と言う絶妙なバランス、とにかく飲み飽きない酒だ。夏場は常温で、冬場は超熱燗でいただく。特に中華との相性は抜群だ。僕が好むペアリングは、熱燗×回鍋肉、常温×麻婆豆腐&餃子だ。是非試してほしい。

自社の精米工場。ここで超扁平精米が施される。

あ、そうそう酒蔵見学だ。平日だったので見学者は僕1人だったにも関わらず、何と2時間もレクチャーをしてくれた。大勢の見学者がいたら、相応の利益が出るだろうに。僕1人なのだ。最後の試飲混みで、たった3500円。何とアンビリーバブルな酒蔵見学。

大七酒造は生酛という伝統的な醸造を綿々と続けてきた歴史を持つが、効率的な精米歩合を追求した超扁平精米、瓶内酸化を長期間防止する窒素充填というテクノロジーを積極的に採用する蔵でもある。美味しいお酒を造るための新しい技術を採用するのに、何の躊躇もない。これは僕たち技術者にも言えるコモンセンスであり、大きな学びであった。

見学場所は多岐にわたる。蒸米のための甑、発酵タンク、醪を搾る槽、生酛を進める酒母室、熟成木樽といった施設をじっくり説明してくれる。僕1人のために2時間を費やし、醸造プロセスをレクしてくれた。見るモノ全てが新鮮だ。ここまで濃密な見学・試飲を提供できる蔵は、全国にもそうそうないのではなかろうか。

生酛で酒母が作られる部屋。感動の一言。


最後は7種類の大七を飲む。グラスは日本酒専用に開発されたリーデルである。手が震えるわw ノーマル大七、大七皆伝、箕輪門、楽天命、そして究極の熟成酒の妙花蘭曲、デザート酒として大七梅酒などのラインナップ。おそらくこれらのお酒の同量を日本酒バーで飲んだ場合、1万円を超えるのではないか。それくらい贅沢なテイスティングだった。

圧巻の大七ラインナップ。ゴージャス!

土産酒は、「大七 生酛本醸造」。1000円ちょっとで買える酒だ。実はこのチープな銘酒、北海道に出回っていない。出回るのは純米酒だ。これは醸造アルコールを添加している分、味わいを少しドライにしている。おお、これは飲んでみたいと思った。そして灼熱の今、コクのある純米より、むしろこのドライな酒の方が合う。冷や奴とキュウリに合わせてみた。むむむ、これは無敵のお酒だ。福島で購入可能。皆様、是非二本松へ!

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