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クラフトビールという快楽。

大手が造る大量生産ビールと一線を画す形態で、成長してきた企業(醸造家)が造るビールをクラフトビールと呼ぶ。小型醸造所が小さなバッチ単位で醸造するビールのことで、一昔前に流行した「地ビール」の延長線上にあるもの。当初もてはやされた地ビールだが、観光目的で設立されたモノがほとんどであるため、ノンポリシー・美味しくない・採算が取れない等の理由で、多くの醸造所が消えていった。

しかし2000年代初頭から、ビールを醸造文化として捉え、その本質を追求するクラフトマンが数多く現れる。世界の最前線は現在アメリカだが、日本も多くの小型醸造所が切磋琢磨し、とても個性的なビールを造っており、個々のレベルも非常に高い。

僕がクラフトビールにハマったのが、「伊勢角屋麦酒(三重県)のペールエール」。3年前に飲んだのだが、世の中にこんな旨いビールがあるのかという衝撃。香りも豊かで複雑な味。機会があったらぜひ。僕は定期購入するレベルまでハマってしまっている。

ビールは多くの種類があるが、発酵の形態からざっくり大別すると、3種。
①ラガービール(下面発酵ビール)→ドイツ
②エールビール(上面発酵ビール)→イギリス
③ランビックビール(自然発酵ビール)→ベルギー
僕たちが通常飲んでいるアサヒドライ、クラシック等は、①のラガー。世界のビールシェアはこのラガーが9割を占める。残りの1割が②。③に至ってはほぼ0に近い。特徴としては以下の通り。

①下面発酵とは、ビール酵母が発酵した後下面に沈むため。発酵温度は10度前後。低温発酵が必要のため、冷蔵技術が発達した18世紀頃に誕生。冷やしてのど越しで飲むのが定番。まさしく今のビールそのもの。日本のビールはチェコのそれを手本としたモノで、細別すると「ピルスナー」に分類される。

②上面発酵は、①の逆で酵母が浮く。発酵温度は20~30度。冷蔵技術がなくとも発酵が可能なので、歴史が古く紀元前のエジプトまで遡る。冷やしても美味しいが、複雑な香りを楽しむため、少し常温に近づけて飲むと、味が際立ちもっと美味しく飲める。のど越しというより、味や香りを楽しむイメージ。クラフトビールの多くは、この上面発酵で勝負している所が多い。

③酵母を投入するのではなく、醸造所に浮遊する野生酵母を取り込んで発酵させる。その後2年以上木の樽で熟成させる。乳酸菌も介入するため、独特の酸味を持つ。

そもそも、クラフトビールが世界的流行となったのは、アメリカで造られた「IPA(インディア・ペールエール)というホップ(苦み成分)を大量につぎ込んだ香り豊かなビールがヒットしたのがきっかけである。

IPAの発祥は、イギリスのインド植民地支配に遡る。その状況下で、イギリスは自国で人気の高いエールビールをインドに船便輸送する。しかし、相当な日数がかかることから、船内でビールが腐敗する問題が勃発した。その対応策として、殺菌作用のあるホップを大量に投入した、アルコール分を高めたビールを開発する。その結果、風味豊かで腐りにくいビールが誕生した。それがIPAの源流である。

今は、その苦みも調整され、美味しく飲むことができる。ただ、中には、昔のIPAスタイルを頑なに守る醸造所もあり、それはそれで強烈な味わいなので、飲んでみるのも一興だ。世界中で、IPAのホップの苦みにハマる人が続出しており、しばらくはこのIPA人気は続くと見られる。機会があれば、ぜひ。枝豆と一緒に飲むと、枝豆の甘さが際立ち、最高の食中酒となる。

ちなみに、人気のあるギネスも②のエールビールに分類される。これものど越しではなく、冷やさず味わうタイプである。ちなみに発祥であるアイルランドでは、パブで、屈強な男達が、このギネスをちびちび飲みながら、長時間おしゃべりを楽しむ。ビールの楽しみ方はお国柄で違うということ。

この多様性もビールの魅力でもある。余談だが、ギネスの漆黒色の理由は、ローストされた大麦が10%配合されている。これが黒さと独特のコクを造っている。また、大麦は麦芽と異なり課税されないことから、節税対策の意味合いもあり追加されたとも言われている。この辺がビールと政治(税金)が密接に絡んでくる部分で興味深い。

写真のクラフトは、ラオホビール。モルトを焙燥する際に、ブナの木のチップでスモークする。燻製麦芽を発酵させるので、独特な風味がする。勿論合わせるのは、燻製料理。このペアリングは快楽以外の何物でもないw

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