武蔵野美術大学大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコースクリエイティブリーダーシップ特論2 第7回 井登友一 氏

20200629 井登友一 氏

株式会社インフォバーン取締役、京都支社長/IDL部門 部門長、日本プロジェクトマネジメント協会認定プロジェクトマネジメントスペシャリスト、人間中心設計推進機構 評議委員 認定人間中心設計スペシャリスト

1972年
奈良市生まれ。鹿と大仏に見守られて少年時代を過ごす。
1995年
同志社大学文学部社会学科新聞学専攻 卒業。
同年4月 デザインコンサルティング会社入社。
2000年代
初頭にデザインリサーチの専門部署立ち上げに参画し、プロジェクト現場にて定性的なユーザーインサイトを起点とした「ユーザー中心発想」によるコミュニケーションデザインと、Webサイトの企画・プロデュース・ 設計に従事。
大手住宅メーカー、ウェディングプロデュース企業、大手製薬企業など、数多くの企業のマーケティングコミュニケーションを支援。
2011年
株式会社インフォバーン入社。京都支社の立ち上げを担当し責任者を務める。
同年 執行役員京都支社長に就任。
2014年
7月 取締役執行役員に就任。現在に至る。(https://www.infobahn.co.jp/about/directorより引用)


1 株式会社インフォバーン

井登氏の株式会社インフォバーンは、企業のデジタルマーケティング戦略を支援するデジタルエージェンシー。ユーザーエクスペリエンス起点で潜在ニーズを理解し、プロダクト開発や戦略の課題設定、実行までをサポートしている。

井登氏は、ここ数年、顧客からの依頼テーマが変わってきたと話す。これまでは、潜在的なニーズ理解のためのデザインリサーチやユーザー中心発想での既存製品の改良、インターフェースやUXデザインなど、今あるものを進化させる「連続的な価値をつくる」ものだったが、今は、未来の姿をデザインすることや自社のデザインプリンシプルを定義・可視化するなど、まだないものをつくる「攪乱的な価値を生み出し未来をつくる」デザインが求められると言う。このように変化したのは、ユーザーがだいたいのモノやサービスに対して満足しており、目に見える困りごとや問題が見つからなくなってきたからである。


2 経験のデザイン

「快適・便利・簡単・使いやすい・心地よい…」こういったことが、よいユーザー体験と考えられ、デザインされる。しかし、井登氏は「経験する文脈(ルール)」のデザインが重要だと語る。それは場合によっては、一見不便なことだが実はそれがユーザーが求めていた体験であることがあるということである。具体例として、有名な高級寿司店の話があった。大将の親父がいて緊張した雰囲気の中、高い金を出して黙々と寿司を食べる。便利な回転寿司と比較して、落ち着いて寿司が食べられるという状況ではないにも関わらず、店から出て緊張から解き放たれた瞬間、また行きたいと思うようになる。人間は、簡単なクイズを解きたくないと思うのと同じく、不全さに価値が生じるということである。

製品そのもののデザインだけでなく、その製品を手に取ることで起こるユーザーの体験や経験までもデザインする上で、状況や立場、文脈が変わるとデザインの方法も変わることを理解し、場合によっては、不便さや不快感を利用するという視点をもってデザインする大切さを学んだ。


3 これからのデザイン:意味のデザイン

問題を解決するデザインから、今後は、新たな問いを提供するデザインが求められる。つまり、新たな意味を見出し、解釈し、かたちを与え、未来の当たり前をつくる。意味とは文脈によって変化するものであるため、変化の予兆を掴むことが大切なのである。「デザインとは”愛”である」というように、愛することができる意味を提案していくことが重要なのである。そして意味のデザインによって人々の生活が変わっていくことが、イノベーションなのである。


まとめ

今回は、デザインの核心的な部分について理解できる講義だった。「不便益」の話があったが、これは教員として授業や学級経営をデザインする際にも重要なポイントである。例えば、わざと意見が対立するような問いを設定したり、課題解決までにわざと遠回りをするようなプロセスを生むことによって、新たな発見があったり、子どもたちの成長があったりすることは多々ある。使いやすいドリルや分かりやすいワークシート、便利な教材などがあるが、教師側は学びの体験全体を俯瞰する視点をもって選択する必要があるということである。何もかもが便利になっているからこそ、不便さにも目を向けたり、文脈を意識する大切さを痛感した。

 

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