武蔵野美術大学大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコースクリエイティブリーダーシップ特論 第16回 藤森泰司 氏

20191023 藤森泰司氏

家具デザイナー。1967年埼玉県出身。1991年 東京造形大学卒業後、家具デザイナー大橋晃朗に師事。1999年 藤森泰司アトリエ設立。関東学院大学、前橋工科大学、東京造形大学、日本工業大学で非常勤講師を経験。現在も、桑沢デザイン研究所、武蔵野美術大学、多摩美術大学、東京大学、東京藝術大学で非常勤講師を務める。グッドデザイン賞審査員。家具デザインを中心に据え、建築家とのコラボレーション、プロダクト・空間デザインを手がける。近年は図書館などの公共施設への特注家具をはじめ、ハイブランドの製品から、オフィス、小中学校の学童家具まで幅広く手がけ、スケールや領域を超えた家具デザインの新しい在り方を目指して活動している。2016年毎日デザイン賞ノミネート、グッドデザイン特別賞など受賞多数。(公式HPhttp://www.taiji-fujimori.com/ja/about/を参考に作成)


1 家具のデザイン

家具のデザインには、3つの視点があるという。1つ目は、商品としての家具。2つ目は、大学や図書館、店舗など特定の場所に置かれる特注の家具。3つ目は、その家具が置かれる空間を造り、演出するインテリア・デザイン。特に、藤森氏は椅子のデザインに力を入れており、「Flat Chair』(2002年)や「DILL 」(2006年)、「RINN」(2011年)、「RUCA」(2013年)など多くの作品を作ってこられた。初めはの頃は、「人と違った作品を作る」という思いでいたが、より広い視野に立ち、要望をすべて受け入れることに挑戦していく中で、「誰にどういう用途で使われるのか」を徹底的に研究するようになったという。


2 デザインは接着剤

その椅子作りの姿勢から見えてきたことが、「デザインが接着になる」ということだ。例えば、本棚を作る際に、本を入れる棚としての使い方だけでなく、どのように使ったら面白いかという視点を提示して使い手に使い方を考えてもらう余白を与えるということである。使い手の体験を、どのように作るかとステークホルダーが考え抜くことで単に「モノを作る」のではなく、「体験までを意識したモノづくり」ができるということである。そうすることで、製図をする人の想いやパーツを創る人の想い、木を切る人の想いが「接着」していき、1つの体験になる。デザインは、誰かに何かを与えるということだけでなく、それぞれの想いをつなぐものであるということである。


3 デザインはしつこい

藤森氏が語った一言だ。確かに藤森氏の作品には、「しつこさ」がある。使い手を想像し、しつこくこれでもかと突き詰めたデザインがあるのだ。「神は細部に宿る」という言葉があるが、作り手としての徹底的にストイックな姿勢の重要性をあらためて感じつことができた。私自身は、もともと美大出身ではなく、どちらかというと使い手側の視点でいることが多いのだが、あるモノのデザインができる裏側には、「しつこさ」があって生み出されているということを忘れてはいけないと痛感した。


まとめ

藤森氏の、ものづくり・デザインに対するストイックな姿勢は、まさに職人・プロフェッショナルだ。高校時代の書道の先生が、「もっと職人が評価される社会でなければならない。」とおっしゃっていた。一見すると、今の時代の方が技術が発展していて「良いモノ」が生み出されていると思うが、実は違う。昔のものづくりのほうが、本当に使いやすいものが多い。例えば、半紙でも、現代の半紙は数十年するとボロボロになってしまうが、昔の紙は何百年とたった今での残っているものもある。大量生産・大量消費が主流という視点では現代の技術は高いが、「質」を見たときの技術は昔の方が高いというのだ。伝統文化や伝統産業が衰退している日本社会で、使い手がただものを消費するのではなく、その背景への視点をもっていくことが大切だと感じた。

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