見出し画像

文章を書く人なら押さえたい、日本語文法の要点メモ

長年、取材記者・編集者・ライターとして仕事をこなしてきたが、実は、日本語の文法について体系的に勉強する機会は、50歳の声が聞こえてくる最近まで一度もなかった。

国語の時間など義務教育課程で勉強したのかもしれないが、日本語の文法を丁寧に、かつ体系に理解できるような授業があれば、それはそれで何らかの印象として残っているはずだ。

そんな自分に危機感を抱いて読み下したのが、『日本人のための日本語文法入門』(講談社現代新書、著者は原沢伊都夫氏)だ。前書きによれば、日本語の文法には日本人の考え方がよく表出されており、それを伝えたいとの思いから書き上げたとのこと。こうした文化的な観点で読んでももちろん面白いが、「様々な生活のシーンにおいて、そこに適した日本語を書く」という実務的な観点から読んでも興味深い。

以下、私が個人的に「日本語スキルの度合いをセルフチェックする」ことと、「仕事で活用する」という視点で、私の編集者・取材記者・ライターとしての経験と見解を踏まえつつ要点を押さえたものである。ご参考になれば幸いだ。

商業ライターに限らず、何らかの形で整った文章が求められている職業人であれば、この書籍は手元に置いておくことをおすすめする。書籍に書かれている日本語文法の要点を押さえ、その要点に基づいて文章表現ができることは、仕事の場面はもちろん、気のおけない仲間、家族との対話など、人生の各所において役に立つことは間違いない。

■『日本人のための日本語文法入門』要点

1)日本語文は述語だけでも成り立ちうる。また、それに対して成分(=言葉の要素)が複数付与されることで文章が成り立つ。

述語は3つのみ。動詞、形容詞、名詞。これだけでも日本語文は成立する。例:「食べたい」、「きれいだ」、「猫」。

この述語に対して複数の成分が付与されて、より明確な日本語文が出来上がる。
例:「私は」「肉が」「食べたい」。「はらはらと」「舞い降りてくる」「花びらが」「陽の光に照らされていて」「とても」「きれいだ」。「ずいぶん」「太った」「猫」「が」「居眠りしている」。

2)日本語文は「主題」と「解説」で構成されている。主題は取り上げたい対象を明示した成分であり、解説はその叙述をするための複数の成分で構成している。

主題を示す副助詞「は」は、「が」の代わりにどう使うのか。主題をより明確にするために「は」を使う。
例:父親は(主題)、台所でカレーを作った(解説)/台所では(主題)、父親がカレーを作っている(解説)

3)日本語文の要素を組み合わせるための格助詞は、日本語を運用するにあたって極めて重要性が高い要素である。

格助詞の例:で、が、を、と、に、へ、から、より、まで

格助詞でしばしばプロでも混同しがちな、「へ」格と「に」格の違いをおさえておくべき。「へ」は方向、「に」は場所や到達点や時を指す。

例えば「東京へ行く」ではなく「東京に行く」が本来的には正しい。ただし、ニュアンスとして方向を強調したい場合は、「へ」を使う(例を挙げるとすれば、関西出身者が慣れない関東に移り住むことになったという雰囲気を伝えたい場合)。

4)文法現象の「ボイス」、特にボイスに関係した能動態・受動態の違いを理解しており、場合に応じて文章に日本語的な表現を施すことができるのが望ましい。

ボイスとは言語学の用語で、文の中で誰を主語(=主題)にするかによって、助詞や動詞が変化することを指す。

ボイスとは例えば「田中さんが佐藤さんをなぐった(=田中さんが主役)」「佐藤さんが田中さんになぐられた(=佐藤さんが主役)」の違いを指す。

日本語ではしばしば自然現象を受動的に示すことにより、自然により避けられない影響をうまく表現する。ビジネス文章では適切ではないことが多いが、効果的に使うことでより魅力的な日本語文章に仕上げることができる。

例:雨に降られてびしょ濡れだ(受動的な表現を通じて、自然による避けられない影響を示唆している)

5)文法表現の「アスペクト」に対する理解が大切である。

アスペクトとは、事象の時間における変化とその段階を表現する形式を指す。

例えば、文章を書くという動作について、①書くところだ、②書き始める、③書いている、④書き終わる、⑤書いてある、といったように複数のアスペクトがある。

状況説明でこれを意図的に使い分けることが必要。ひいては対話においてもこれを明確に確認することが必要。

例:新しい取り組みは、すでに着手しているのか、それともこれから着手する予定なのか、など。

このアスペクトの存在を意識しておくことで、例えば取材時に、取材先が回答した取り組みがいつの時点から始まるのか(あるいは始まったのか)を意識的に確認できる。

取材現場でよくあるのが「取材先による『~という取り組みを進めています』といったコメントをそのまま受け止めて聞き流してしまう」こと。文法表現のアスペクトの存在が頭に入っていると、取材時に相手に「それはいつから取り組んでいますか?それともこれからの予定や計画ですか?」などと時制表現(次の項目を参照)時点を確認するクセが身につく。

6)文法表現の「テンス」(時制表現)に対する理解が大切である。

食べる(現在形、未来形)、食べた(過去形、完了形)、食べている(現在進行形)

こちらも先のアスペクトと同じく、状況説明において意図的に使い分けることが必要。

テンスは対話(取材)においてこれを明確に確認することが必要となる。その理由は、文法表現のテンスに対する理解があると、対話で常にそれを確認しようとする行動が習慣化するため。

7)「~ている」「~てある」による中立的な表現の使い方について理解があり、意図的に使える必要がある。

例:「来客用に柄付きのカップソーサーを用意している」「このビルには雨の日用に傘が置いてある」「先日入手したチケットには日付が印刷されている」

■言語運用能力のベースとなるもの

補足だが、私は「言語運用能力」について自分なりに整理・体系化する活動を進めている。言語運用能力とは、単純な「読み書きの能力」にはとどまらない。「ことばを使って物事を深く理解したり、他者との良質な対話を可能にする能力」である。

なお文科省は言語運用能力について、「音声言語・文字言語を問わず,相手や目的・場面に応じて自らの意思を言語によって適切に表現・伝達し,かつ言語を通して相手の意思を的確に理解し得る能力のことであり,端的には,聞くこと,話すこと,読むこと,書くことのすべてにわたって総合的に運用する能力として位置付けられる」と説明している※。

※ 文化庁 | 国語施策・日本語教育 | 国語施策情報 | 第20期国語審議会 | 新しい時代に応じた国語施策について(審議経過報告) | Ⅲ 国際社会への対応に関すること (bunka.go.jp)

私の実感としては、この言語運用能力は、情報が行き交う現代の日本において、その社会要請に反するかのように軽視されている印象だ。一方、この言語運用能力は、他人の意見や社会の空気感に惑わされず、「自分の力で思考し、自分の力で人生を選択すること」のベースになっていると実感している。

こうした私の問題意識が、言語運用能力をあらためて整理するという活動のモチベーションになっている。

今回のnote記事で取り上げた日本語文法の基礎は、言語運用能力の前提となる知識であり、それに加えて言語運用能力との間で相互に補完する関係にあると考えられる。その理由は、文法の知識をあらためて体系的に理解することで、先に触れた「ことばを使って物事を深く理解したり、他者との良質な対話を可能にする能力」の向上が見込めるためだ。

■お知らせ:瞑想情報サイト「ActiveRest」について

なお、私が運営しております瞑想情報サイト「ActiveRest」もぜひご覧ください。こちらでも、瞑想体験会を随時開催しています。ぜひ下記をご覧の上、Facebookページに「いいね!」ご登録ください。なお、1on1(1対1)の個人瞑想セッションも受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせください。

瞑想コミュニティ「ActiveRest」Facebookページ
瞑想情報サイト「ActiveRest」Webサイト

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?