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【障害と表現】 障害者や家族を生きにくくさせる社会を変えるために 【久保田翠(クリエイティブサポ―トレッツ)】

クリエイティブサポートレッツは障害のある人の文化事業と障害福祉事業を運営する認定NPO法人です。理事長の久保田翠さんは、息子の壮(たけし)さんの存在をきっかけに団体を設立しました。「重度の知的障害のある息子や私たち家族がこんなにも生きづらいのは、私たちのせいではない。それは社会の側の問題。だから社会を変えていきたい」。連続講座スロージャーナリズム MOVE ON 2020。第3回は「表現未満、の思想」について伺います。

認定NPO法人クリエイティブサポートレッツ理事長の久保田翠です。静岡県浜松市にある「たけし文化センター連尺町」内の事務所からお話をさせていただきます。この建物は日本財団の後援をうけて2018年にオープンしました。JR浜松駅から歩いて10分くらい、街のど真ん中にあります。

私たちの活動は重度の知的障害の人たちとともにあります。浜松市には知的障害や発達障害の子どもが通う学校(拠点校)が少ないので、街中で知的障害のひとを見かけることはほとんどありません。もったいないですよね。だから駅から800メートルの街中につくりました。

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活動内容は多岐にわたりますが、大きく分けると「文化事業」と「障害福祉事業」の2つです。認定NPO法人として、現在は28名(常勤13名、非常勤15名)の職員と事業を運営しています。職員の多くが芸術や美術系大学の出身です。前職は多様でグラフィックデザイナーや建築家、編集者、カメラマン、映像作家、アーティスト、音楽関係など。障害福祉事業をやっているのに、福祉を専門に勉強してきたスタッフはいません。

20年前に活動をスタートしたとき、今のような形になるとは思ってもいませんでした。きっかけは私の息子、久保田壮(たけし)の存在です。彼は重度の知的障害と口唇口蓋裂、睡眠障害、てんかん、側弯症、多動、行動障害があります。すごくスペシャルな24歳です。

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障害者と家族、なぜこんなにも生きづらいのか

重度の知的障害のある息子の子育てを通して、社会とのさまざまな齟齬を経験してきました。私の根底にあるのは「怒り」です。息子や私たち家族がこんなにも生きづらいのは、どう考えても私たちのせいではない。障害のある人の家族の苦労って尋常ではありません。これは社会の側の問題です。社会が「こういうひともいるよね!」となれば何の問題もないのに、そうではないから施設に閉じ込めるようなことになります。

そもそも、みなさんは今の社会に対して「生きやすい」と感じていますか?「幸せだ」と感じているのでしょうか? 私にとってはそうではありませんでした。だから、私は社会を変えたいと思っています。知的障害のある彼らの持つ時間軸や価値観を理解することは、社会全体が生きやすくなることにつながります。それを福祉的な手法ではなく、アートの手法で取り組むのが私たちの団体です。私はもともと美術系の仕事をしていたので「価値観をひっくりかえす」や「そのまま見せる」などアートの手法でやってきました。


「表現未満、」の思想とは

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私たちが運営している障害福祉施設には作業やプログラムのメニューはありません。好きなことをやってもらうので、息子の壮は入れ物に石を入れて叩き続ける「石遊び」が好きです。寝ているとき以外はずっとやっています。

重度の自閉症の尾形くんは電化製品が好きです。電気屋にいくと6~7時間くらい長居して、閉店時間になっても帰ろうとしません。そして、自分の好きな電化製品を台車にのせて持ち歩いて散歩をします。

自閉症の土屋くんは水が好きでいつも濡れています。一日中、一年中、水を浴びようとします。冬の寒い日でも水をかぶろうとします。施設の中でもバシャーンと水をこぼします。

こうした行動について教育現場や他の福祉施設では問題行動だとみなしています。遠ざけるために石を取り上げたり、散歩をやめさせたり、水の蛇口を閉めたり水を触らせないようにするでしょう。けど、うちではまずは好きなことを100%やらせてみようというスタンスです。

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うちの施設には他の施設では預かってもらいにくいタイプのひとが集まっています。壮の石あそび、尾形くんの台車、土屋くんの水かぶり。彼らの行動を見ていると、彼らにしかできない表現のようなものではないかと思うようになりました。それが「表現未満、」の思想につながります。

表現未満とは誰もが持っている自分を表す方法としての「表現」を大切にしていこうとする活動です。作品ではなく表現です。障害のある人たちのやっていることは「取るに足らない」「無駄なこと」と思われがちですが、それを表現だとおもうと、どんな行動も愛おしく大切に思えます。誰かのやっている行為を「とるに足らない」と一方的に判断するのではなく、その人を表す表現として大切にしていく文化を育てていくことは、他者を認めて尊重する思想につながっていきます。


障害とは?アートとは?社会に問いかける

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障害にはいろいろな定義がありますよね。私が考える障害とは「あいだ=間」の問題だと思います。これは問題にもなるし、解決にもなる。「わたし」と「あなた」の関係性のことなんです。重度の知的障害のある人の場合には、相手がどう考えているかわかりません。その「わからない」ことがいいんです。わたしとあなたの関係性の「あいだ」を多様に考えて創造することができます。

そして、アートというのは既存の価値観を揺さぶるもの、変えるもの、感じたこともないものを見せてくれるものです。重度知的障害の人たちのそれはアートだなと思います。障害者と言われる人が与える違和感や不快感みたいなものをひっくるめて伝えていくこと。そのままの姿を社会に顕在化することで「あなたは何を感じますか?」と投げかけること。それが私たちの活動の根幹にあります。


ありのままを見せること

ホームページからも見ることができますが、私たちの活動の一部を紹介します。「タイムトラベル100時間ツアー」のプロモーションビデオです。


「GO!GO!たけぶん」は、観光事業から派生した活動です。地域の小学校4年生が社会科見学として私たちの施設に来ます。子ども達には”これやったシート”と”目撃シート”を渡して自由に過ごしてもらいます。小学生が重度の知的障害のあるひとに出会ってもらい「こういうひともいるんだ」と感じる機会をつくっています。

「かしだしたけし」は、障害のある人が出張するプログラムです。静岡文化芸術大学で講義をしたり、小中学校に行って生徒と一緒に過ごします。障害のある人について「こういうひとです」と説明するのではなく、生身の彼らと出会ってもらいます。

「のヴぁてれび」は週に1回、YouTubeで配信しています。いま191本アップしています。いろんなものがあって、ほとんどがどうしようもないものですけど、ぜひ見てください。隠さず見せることは大事なことかなって。


重度の知的障害者の暮らしを支える

2019年からは「たけしと生活研究会」をはじめました。障害のある人が親元を離れて、ヘルパーさんの助けを借りて生活をする場所です。特徴的なのは障害のある人が暮らす場所に一般のひとが泊まれるゲストハウスを併設していることです。

重度の知的障害のあるひとが親元を離れるにはグループホームか施設に入所するしか選択肢がありません。そして、その数は少ないので親は倒れるまで空きを待つような状態です。うちの夫が亡くなったときに壮が入所できる施設を探しましたが見つかりませんでした。それが現実でした。

障害のある人の人権についてはいろんなところで聞きますが、その家族の人権ってどこにいってしまったのでしょうか。メインで子育てや介護をする母親の人権なんて全く無視だという現実をまざまざと感じたし、障害のある子どもが生まれたことで人生がガラリとかわってしまうのは、言葉は悪いですが不幸だと思っています。

それを解決したいし変えていきたい。福祉というより社会活動的なのかもしれません。「たけしと生活研究会」を通して暮らしのことに踏み込んだので、障害のある人の暮らし方や暮らせる場所をつくっていきたいと思います。

<久保田翠氏プロフィール>
認定NPO法人クリエイティブサポートレッツ代表理事。東京芸術大学大学院 美術研究科修了後、環境デザインの仕事に従事。障害福祉サービス事務所アルス・ノヴァ、たけし文化センター連尺町も運営。2020年ヘルパー事業所ULTRA開設。2017年度芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。


受講生からの質問&講師の回答

Q:テレビやメディアが障害者をとりあげるときの「お涙ちょうだい」ストーリーになることが多いと思います。そういうメディアの取り上げ方について久保田さんはどう思いますか?

A:迷惑だなと思います。全員とは言いませんがメディアの人たちは「こういう映像を撮りたい」「こういうストーリーにしよう」という考えに当てはめてつくるので、お涙ちょうだいになりがちです。それもその人の表現かもしれませんが、いくら障害者の家族でも毎日毎日泣いているわけではないですよね。いいところも、嫌なところも、ぜんぶひっくるめて見せるようにしないと本当の姿はわからないと思います。

Q:今日のお話を聞いて感動しました。あえて聞きますが「障害者を見世物にしている」という批判はありますか?

A:言われているのかもしれないけど、私の耳には届いていません。ひとが批判するかどうかで動いていたら何もできなくなります。私たちのやっていることが全部正解でも、全部間違いでもないし、受け取る側にとって感じ方はさまざまなはずです。アートや芸術活動ってそういうものです。私は全てのひとに喜ばれるものをみたことはありません。そこは覚悟をきめないと。

Q:「とるにたらない行動」を表現と捉えるのはおもしろいと思いました。障害者のひとはありのままを表現できるけれど、私のような健常者は人の目を気にして自分を表現できません。誰もが自分を表現できる社会にしていくにはどうすればいいのでしょうか?

A:障害者をまちにつれていって違和感をなげかけて、社会を変えていってもらうのが一番いいと思います。道で寝っ転がったり、大きな声をだしたり、健常者ってできないですよね。重い障害のひとたちが社会に投げかけてやらかしてくれることが、社会を変えるきっかけになると思います。

【MOVE ON 2020】スロージャーナリズム講座とは

スロージャーナリズム講座は、SOCIAL WORKERS LABと野澤和弘⽒(ジャーナリスト・元毎日新聞論説委員)との共同企画です。2020年度は「コロナばかりではない 〜この国の危機と社会保障・司法」をテーマに6回のオンライン講座を行いました。

「⻑い時間軸でなければ⾒えないものがある」
「当事者や実践者として深く根を張らなければ聞こえない声がある」
「世情に流されず、⾝近な社会課題を成熟した⾔葉で伝えていこう」

現実を直視し、常識をアップデートし、未来に向かって動き出すために。
これからの時代を⽣きるための基礎教養講座です。


SOCIAL WORKERS TALK2020「福祉の周辺」

SOCIAL WORKERS LABはさまざまな分野・領域の第⼀線で活躍しているソーシャルワーカーをゲストに招いてトークイベントを企画しています。

「”家族”に押しつぶされそうで苦しい」
「家族だから、家族なのに、家族って…」
「岸田奈美さんと石山アンジュさんの話を聞いてみたい」

SOCIAL WORKERS TALK 2020 vol.3のテーマは「家族と福祉」。
家族ってなんなんだろう。「拡張家族」という新たな家族観を 掲げて100⼈もの家族との⽣活実験を⾏ってきた石山アンジュさんと、愛とユーモアのある⾔葉にファン続出の作家 岸田奈美さんを迎えてトークイベントを開催します。申し込みは以下のリンクから。


SOCIAL WORKERS LABで知る・学ぶ・考える

私たちSOCIAL WORKERS LABは、ソーシャルワーカーを医療・福祉の世界から、生活にもっと身近なものにひらいていこうと2019年に活動をスタートしました。

正解がない今という時代。私たちはいかに生き、いかに働き、いかに他者や世界と関わっていくのか。同じ時代にいきる者として、その問いを探究し、ともに歩んでいければと思います。




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ソーシャルワーカーズラボは、これからの社会をつくろうとするソーシャルワーカーどうしが出会い、関わり合い、問い、学び合う社会実験プロジェクトです。noteでは、人口減少社会を生きるわたしたちに必要な社会観や働き方の先駆的な探求と実践についての記事を掲載しています。