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【子どもの発達障害】 その支援は本人のためになっているか? 【福岡寿(日本相談支援専門員協会 顧問)】

発達障害だと診断される子どもが増えている。早期発見・早期支援を目指した発達障害者支援法だが、現実は早期分離をするばかり。適切な関わりによって子どもは変わる。社会も変わる。連続講座スロージャーナリズム第5回は「間違いだらけの発達障害」をテーマに日本相談支援専門員協会顧問の福岡寿(ふくおかひさし)さんにお話をうかがいます。

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こんにちは、福岡です。僕は長野県の北部に住んでいまして、障害のある人のケアマネジメントや地域生活支援の体制づくりの仕事などをしてきました。高齢者が介護保険サービスを使うときにケアマネジャー(介護支援専門員)という人が登場しますが、障害福祉版のケアマネジャーのような仕事です。肩書きとしては日本相談支援専門員協会の顧問ということになっています。

僕は最初から障害福祉の仕事をしていたわけではありません。気がついたら障害福祉の仕事がすっかり自分の仕事になっていたので「なんで、こうなっちゃったのかな?」という話をします。

高校生のころ、僕は新聞記者になりたいと思っていました。出身地は長野県北部と新潟との県境に近い村で、豪雪地帯だから冬になると仕事がありません。家は貧しかったし、親父は酒ばかり飲んで働かないし、生活保護をうけて暮らしていました。村から出るために中学~高校時代はずいぶん勉強したので、1年間の浪人生活を経て東京大学に合格することができました。

新聞記者になることを目指して東大での学生生活が始まりましたが、あるドラマに影響されて進路を変更します。僕が大学生だった昭和50年代後半はドラマ「金八先生」が大流行していたんです。このドラマに影響を受けて中学校の教師に進路を変更しました。振り返ると、これこそが人生のしくじり!!

僕の話を聞いている学生さんに伝えたいのは、「若いうちから狭い価値観をもたないほうがいいぞ!」ということです。イヤじゃない仕事ならやってみたほうがいい。お客さんのニーズにこたえようと一生懸命やっていれば天職になりますから。

金八先生のような教師をめざして4年ほど働きましたが、求めている評価に現実の自分が追いつかず、最後は不登校症状のようになって潰れてしまいました。教職を辞めたあとは建築現場で働いて、何も考えないで汗をかいて、飯を食べて、疲れて寝る。そんな生活でした。

障害者施設の求人を見つけたのは全くの偶然です。自分とは無縁だったけれど、資格や経験は何もいらないと書いてあったので、知的障害者の入所施設である長峯学園で職員として拾ってもらいました。


子どもの発達障害とグレイゾーン

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長峯学園は50人くらいの知的障害者が暮らす施設です。その頃の福祉施設は閉鎖的で、生活のすべてが施設内で完結する特殊な小宇宙のようでした。そうした施設の在り方が変わったきっかけは平成2年に始まった「地域療育拠点施設事業」です。職員が施設の外に出て障害者や家族とかかわりをもつ「コーディネーター」という役割を担うことになり、僕は長野県で最初のコーディネーターとして仕事を任されることになりました。

コーディネーターになってからは施設の外に出て、養護学校(現:特別支援学校)に出かけたり、自宅で暮らす障害者の家庭を訪問したり、障害児の親の会に顔を出したり、学習会に参加したりするようになりました。その仕事はすでにリタイアしていますが、コーディネーターとしての経験をもとに相談支援専門員として保育園や幼稚園、放課後等デイサービス、児童発達支援施設などへの助言・相談・指導を続けています。前置きが長くなりましたが、今日のメインはその話です。

平成8年から保育園などを回って障害児への対応を助言・指導するようになりました。最初の頃はダウン症や自閉症のカナータイプなどの子どもが中心でしたが、途中からは発達障害のグレイゾーンの子どもを含むようになりました。

グレイゾーンの子どもとは、「じっとしていられない」「保育士さんの指示を聞いていない」「立ち歩いて教室から出ていってしまう」という行動が目立つ子どもです。国が調査したところ6.3%の発達障害グレイゾーンの子どもが教室にいることがわかりました。養護学校の子どもを合わせると全体の10%はなにかしらの発達障害のある子どもだといえます。


発達特性を踏まえた保育のコツ

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教室を見渡すとさまざまなタイプの子どもがいます。程度の差はありますが、どの子にも発達の特性があります。この講義を聞いているみなさん自身はどうですか?

「なんとなく場の空気を読むのが苦手だ」
「自分自身の心のコントロールが得意ではない」
「感覚過敏なのかもしれない」

発達の特性からくる得意や不得意は誰にでもあります。僕自身もあります。自分のなかで上手く対処したり、ごまかしたりしながら社会生活を送っているのだと思いますが、周囲が配慮をしなければ上手くやれない子もいます。周囲とは、お母さんや家族であり、同年齢のお友達であり、先生や保育士さんです。そうした周囲のかかわり方のミスマッチが適応障害にさせてしまいます。

発達に特性のある子どもに対して、保育士さんからよく聞くのが「この子に手を取られてクラスをまとめることができていない。手が足りないから加配の保育士が必要です」ということです。マンツーマンで対応する大人の手を増やそうとします。

加配保育士はその子との1対1の関係をつくるので、子ども側からすればヘルパーのように付き添ってくれる存在です。苦手な集団行動をするより加配保育士とセラピーボールや遊具で遊ぶようになるでしょう。

その対応を続けるとどうなるか。いざ教室に連れ込もうとすると「ギャー!!!」と泣いてパニックを起こします。専属で付き添う人がいないと集団のなかで持ちこたえられない子にしてしまったわけです。

講義のなかで紹介があった福岡さんの著書『気になる子が活きるクラスづくり 発達特性を踏まえた保育のコツ』は、具体的なエピソードを交えながら発達特性のある子が適応できるクラスづくりが書かれています。


放課後等デイサービスにありがちなこと

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保育園から小学校にあがるとどうなるか。発達障害の診断をうけて放課後等デイサービスに通うようになります。みなさんの家の近くにも放課後等デイサービスがあるはずです。3時から4時くらいになると小学校にお迎えの車が来て、施設で数時間すごして、夕方に自宅まで送り届ける福祉サービスです。平成24年以降に急増して、いまは23万人くらいの子どもが利用しています。

保育園で適応障害になり、小学校で発達障害の診断をうけて、学校が終わった後は放課後等デイサービスに通う子どもたち。保育園の段階で人間関係の誤学習をしたため、自分の思い通りにならないと癇癪を起こして「わかった!わかった!」と言うことを聞かせるやり方を覚えて小学校に上がるわけです。児童館や学童ではトラブルメーカーになるので放課後等デイサービスに通うようになります。


本人のための福祉サービスになっているか

僕は放課後等デイサービスをコンサルティングする立場でたくさん見てきましたが、多くの放課後等デイサービスは2次障害を太らせています。子どもを喜ばせよう、楽しませようとしてスタッフが属人的にがんばってしまうので、子どもは「おんぶ」「だっこ」と甘えて、刺激反応を求めます。そのことが人間関係の誤学習を強化してしまうのです。

必要なのは「おんぶ」「だっこ」の要求に応えることではなく、ひとり遊びを形にしていくような関わりです。ボールを蹴るだけの遊びから、ゴールをつくってそこを狙う遊びへ。フリスビーを投げるだけの遊びから、リングのなかに投げ込む遊びへ。

本人が何気なくはじめた遊びを形にしていくことや、ワークシステム化していく関わりに意識を変えてもらうよう伝えています。そして、放課後等デイサービスで子どもが力をつけたあとは児童館に戻せるようにアウトリーチをするべきだと思います。

障害福祉サービスの本来のミッションとは本人を社会に戻すことです。本人のための福祉サービスであり、本人のためになるサービスを事業所は提供すべきですが、事業所や施設の経営のために利用者を抱え込もうとする事業所もあります。社会に戻すよりも、長く利用してくれる利用者でいてもらうほうが経営が安定するからでしょう。

本人のための福祉サービスを提供するカギは"自立支援協議会"です。「自立支援協議会ってなに?」と思った人はぜひ調べてみてください。福祉サービスの事業所を含めた地域の多職種連携をするための場です。みなさんが住んでいる地域で障害福祉サービスがうまく機能しているかどうかは自立支援協議会が活発に活動しているかどうかを見ればわかりますから。

福岡寿(日本相談支援専門員協会 顧問)
1981 年東京大学文学部卒。長野県内の中学校教師を経て、知的障害者施設で働く。障害児者の地域生活を進めるコーディネーターとして先駆的な役割を果たす。保育・教育・福祉のチーム作りを通して発達障害の子どもの支援につとめている。全国から引っ張りだこの人気講師。


【MOVE ON 2020】 スロージャーナリズム講座とは

スロージャーナリズム講座は、SOCIAL WORKERS LABと野澤和弘⽒(ジャーナリスト・元毎日新聞論説委員)との共同企画です。2020年度は「コロナばかりではない 〜この国の危機と社会保障・司法」をテーマに6回のオンライン講座を行いました。

「⻑い時間軸でなければ⾒えないものがある」
「当事者や実践者として深く根を張らなければ聞こえない声がある」
「世情に流されず、⾝近な社会課題を成熟した⾔葉で伝えていこう」

現実を直視し、常識をアップデートし、未来に向かって動き出すために。
これからの時代を⽣きるための基礎教養講座です。



SOCIAL WORKERS LABで知る・学ぶ・考える

私たちSOCIAL WORKERS LABは、ソーシャルワーカーを医療・福祉の世界から、生活にもっと身近なものにひらいていこうと2019年に活動をスタートしました。正解がない今という時代。私たちはいかに生き、いかに働き、いかに他者や世界と関わっていくのか。同じ時代にいきる者として、その問いを探究し、ともに歩んでいければと思います。


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ソーシャルワーカーズラボは、これからの社会をつくろうとするソーシャルワーカーどうしが出会い、関わり合い、問い、学び合う社会実験プロジェクトです。noteでは、人口減少社会を生きるわたしたちに必要な社会観や働き方の先駆的な探求と実践についての記事を掲載しています。