つながりつながる連続講座 Vol.4 多様性とデザイン
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つながりつながる連続講座 Vol.4 多様性とデザイン

SOCIAL WORKERS LAB

「つながりつながる連続講座」はSOCIAL WORKERS LAB(以下、SWLAB)が主催する全4回の連続講座です。SWLABの活動で生まれてきたつながりが、これからへとつながることで「つながりつながる関係」をつくりたいと考えています。第4回目のゲストは認定NPO法人 クリエイティブサポートレッツの久保田翠さん。静岡県浜松市を拠点とする活動から「コミュニティは弱いひとを中心につくる方がいい」と話す久保田さんに、SWLABディレクターの今津新之助がお話をうかがいます。

久保田 翠(くぼた みどり)
認定NPO法人クリエイティブサポートレッツ代表理事。東京芸術大学大学院 美術研究科修了後、環境デザインの仕事に従事。障害福祉サービス事務所アルス・ノヴァ、たけし文化センター連尺町、ヘルパー事業所ULTRAを運営。2017年度芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。レッツの世界を旅する本『ただ、そこにいる人たちー小松理虔さん「表現未満、」の旅』(現代書館)も好評発売中。

知的障害者と家族、なぜ生きづらいのか

今津:SWLABディレクターの今津です。久保田さんには2020年秋冬に開催した連続講座「スロージャーナリズム MOVE ON」でもお話をしていただきました。その時の話もnoteに掲載していますが、今日はさらに深いお話を伺えるのではないかと楽しみにしています。よろしくお願いいたします。

久保田:クリエイティブサポートレッツの久保田翠です。2度も呼んでいただいてありがとうございます。前回は、「表現未満、」について話をしました。

久保田:私は重度の知的障害のある息子の子育てを通して、社会とのさまざまな齟齬を経験してきました。みなさんは今の社会に対して「生きやすい」と感じていますか?「幸せだ」と感じていますか? 私にとってはそうではありませんでした。だから、私は社会を変えたいと思っています。

知的障害のある彼らの持つ時間軸や価値観を理解することは、社会全体が生きやすくなることにつながります。それを福祉的な手法ではなく、アートの手法で取り組んできたのが私たちの団体です。

今津:今日はSWLABのメンバー4名が「たけし文化センター連尺町」の事務所にお邪魔しています。

SWLABのメンバーが久保田さんに質問をする様子

メンバー大森:慶應義塾大学4年の大森です。JR浜松駅から歩いて10分くらいのところ、駅からも商店街からも近くて驚いています。

メンバー中野:日本福祉大学3年の中野です。ここは私がイメージしていた障害福祉の作業所とは違いました。端的に言うと、作業をしていないんです!じゃあ、なにをしているかというと…好きなことをやっている感じです。半日いるだけで驚かされることがたくさんあります。

今津:たくさん驚いているようで良かったです(笑) 前回はレッツの活動と成り立ちについて伺ったので、今回は「まちづくり」「場をひらく」「多様なひとを受け入れる」ことについて伺いたいと思います。久保田さん、よろしくお願いいたします。

観光とは自分で光を見つけに行くこと

久保田:先ほどもお話にありましたが、レッツの事務所は浜松駅から徒歩10分という、まちのど真ん中にあります。この建物は2018年にオープンしました。レッツができる前、浜松市には知的障害や発達障害の子どもが通う学校(拠点校)が少ないので、まちなかで知的障害のひとを見かけることはほとんどありませんでした。障害のあるひとと出会うチャンスがないのはもったいないですよね。だから駅から800メートルの場所につくりました。

浜松のまちを散歩

浜松市の小学校4年生は、校外学習として私たちのところに歩いてやってきます。1校あたり90から120人くらい。3-4校を受け入れています。先生達にお願いしているのは事前になにも指導しないことです。「障害のあるひとはこうだ」とか「こういう対応をしましょう」とか学んでしまうと、素直な疑問を感じる前に色眼鏡をかけることになります。それではプログラムが台無しになってしまうので、私たちに全部任せてほしいとお願いしています。

子ども達には「これやったシート」「これ見たシート」を書いてもらうだけです。いつも通りの活動を見学して、1~2時間ほど一緒に遊んで、ぶらぶらしてもらいます。もじもじしている子もいるし、居心地が悪そうにしている子もいますし、いろいろです。最後にシートを回収すると、

「大人なのに、なんで寝てるの?」
「大人なのに、なんでよだれ垂らしてるの?」

大人は昼間は仕事をしたり、家事をしたり、何かやっているはずだと思っているんですね。「こういう大人もいる」ということは、はじめての出会いなんでしょう。ここにきて何かを感じてもらえればいいと思っています。

今津:「あなたはどう思いますか?」という問いを投げかけているんですね。

久保田:なにを思い、なにを感じ、どんな答えを見つけるかは自分次第です。「観光」という言葉の語源について、「光を観る」という意味なんだと以前に教えてもらいました。私たちが光を与えて観てもらうのではなく、自分で光をみつけてもらうのがレッツの観光です。

「まちづくり」についても想いは同じかもしれません。ニューヨークのソーホーやハーレムもそうでしたが、雑多なひとが集まることでまちに新しい文化が生まれます。そこにひととひとの出会うまちのよさがあるように思います。私はこのまちに障害者だけを集めたいわけではなく、障害者もふくめた雑多なひとがいられる場所をまちにつくると面白い化学反応が起きるのではないかと期待しています。

世の中には「障害者とは○○だ」といった観念的なものが出回りすぎていますが、障害者というひとはひとりもいません。ひとりひとりに名前があって、個性があります。出会ってみると「きらい」「気持ち悪い」と思うひともいるかもしれないけど、それはそれでいいと思うんです。でも、出会わない限りその感覚すらわかりません。

フッと風を通す共事者《 きょうじしゃ》の存在とは

今津:障害者の施設や作業所に対するイメージは、外からのひとの出入りが少ない、どちらかというと閉鎖的な場所を想像してしまいます。レッツの場合はまちのど真ん中にあって、場をひらいて、そこに来たひとに問いかけるアプローチをしている。そうなった背景を教えてもらえますか?

久保田:これは、ある意味アートへのアンチテーゼなんです。本来のアートは既存の価値観を変える、崩すということが含まれています。けれど一般には、絵画や造形をつくることがアートだと思われています。最近は障害者アートが注目されるようになって、それも悪くはないけど、アートというと「作品をつくっているんですね!」と言われてしまいます。作品づくりをしているわけではないけれど、伝わりにくい。そのため、「観光」へと体験を置き換えたり、「表現未満、」という見方を提示したりしています。

きっかけは東浩紀さんの『観光客の哲学』(2017)を読んだことです。福島のことに触れて「物見遊山に傍観者としてそこにいるひとが必要だ」ということが書いてあって、それは障害者と支援者のことにもつながると思いました。

「障害のことをわかってないんだから」
「当事者じゃないんだから何も言うな」
「あなたは障害者の家族じゃないんだから」

そんな風に言われることで場が閉じてしまう。無責任にかかわるひと、見つめるひと、ただそこにいるひとが必要だと思っていました。そして、ローカル・アクティビストの小松理虔さんにつながってて『ただ、そこにいる人たち――小松理虔さん「表現未満、」の旅』(2019)という本ができました。

みんなが思い思いに過ごす

そういう存在のひとがすごく必要です。障害者と支援者の2つの関係だけだと煮詰まってしまうことがある。親子もそうです。2つの関係だけは怖いものがあって、そこに親でも当事者でもないひとがいて、無責任にそこで楽しんでしまうひとがいると、煮詰まっている関係にフッと風が吹いて楽になることがあります。そういう存在を小松さんは「共事者(きょうじしゃ)」と表現してくれました。そしてご自身が共事者だとして本を書いてくれた。

障害のあるひとは自分で車が運転できないから、車で運ばれてしまうひとたちなんです。私たちが「まち」にこだわるのは、障害のあるひとがまちで歩いている姿をみるのが当たり前になってほしいからです。理解者にならなくてもいいから面白がってほしい。そこからちょっと関心を持ったり、関わったり、友達になることもあるでしょう。

本人と家族、ときどき現れる支援者だけでは逃げ道がない関係に追い込まれます。「助けて」と言えない閉塞感がさまざまな悲劇につながります。ちょっと声かけてくれるひと、気軽な感じで傍にいてくれるひと、そんな共事者をどれだけつくっていけるか。さらけ出して見てもらうことが大事だと、少しずつわかってきました。

「たけし、金髪にしたらかっこいいんじゃね?」

今津:本人と家族と支援者以外の第三者が関わることで風通しがよくなるし、ひいては虐待のような悲劇が起きにくくなると思いました。

久保田:たけし文化センター連尺町の3階はシェアハウス兼ゲストハウスになっていて、息子はそこで暮らしています。重度の知的障害のある息子には自己決定ができないことも多いので、どこで暮らすか、誰と暮らすか、どうしたいのかは親が代わりに決めることになります。

親である私のフィルターで彼の人生を狭めている気がして「これでいいんだろうか」ってわからなくなるし、難しい問題です。けど、彼に関する責任をわたしひとりではなく、彼の友達を含めた関係でつくっていくことに変えました。

今津:それによって、どんな変化がありましたか?

久保田:金髪事件というのがありました(笑) 「たけし、金髪にしたらかっこいいんじゃね?」と誰かがいって、一応わたしにも確認はあったのですが「不良少年みたい…」と内心思っていました。けど、たけしは楽しそうだったんです。

たけしさんの散髪

親はダメだなあ~と思いましたね。みんなが「お!たけし!金髪じゃん!」と注目してくれるのがうれしかったようです。そうやって、息子を愛しているひと、彼を快く思っているひとがみんなで決めていったら、彼の人生ってとても豊かなものになると思いました。

コミュニティは弱いひとを中心につくる方がいい

久保田:重度障害のひとほど、たくさんの支援を必要とするので人間関係の輪ができていきます。そのコミュニティから学んだのは、コミュニティは弱いひとを中心につくる方がいいということです。弱いひとが核になるコミュニティにはさまざまな可能性があって、いろんな関わり方ができます。その実験するなら「まち」のなかの方がいい。だからレッツには観光がしっくりきました。

メンバー大森:こうして観光させてもらって、レッツの雰囲気を感じられてうれしいです。レッツのあり方を目の当たりにして、閉鎖的な福祉は不健全だと思いました。

たけし文化センター連尺町

久保田:非常にわけわかんない活動だと思うので混乱されたと思いますが、来てくれてありがとうございます。最後に、レッツではスタッフを募集しています!3ヶ月くらい寝泊まりしながら「こんな場所か~」とやってみるのもありです。学歴・職歴を問いません。私たちに関わって面白がってくれるひとを増やしたいと思っています。

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SOCIAL WORKERS LABで知る・学ぶ・考える

私たちSOCIAL WORKERS LABは、ソーシャルワーカーを医療・福祉の世界から、生活にもっと身近なものにひらいていこうと2019年に活動をスタートしました。

正解がない今という時代。私たちはいかに生き、いかに働き、いかに他者や世界と関わっていくのか。同じ時代にいきる者として、その問いを探究し、ともに歩んでいければと思います。

 

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ソーシャルワーカーズラボは、これからの社会をつくろうとするソーシャルワーカーどうしが出会い、関わり合い、問い、学び合う社会実験プロジェクトです。noteでは、人口減少社会を生きるわたしたちに必要な社会観や働き方の先駆的な探求と実践についての記事を掲載しています。