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いつかあなたに会えたら


「プロのエキストラさんなんですか!他はどんな作品のエキストラやったことあるんですか?」


通っている高校で映画の撮影があり、エキストラとして撮影に参加した日のこと。一言もセリフはなくとも、かつて女優になることを夢見た私にとってこの機会は夢のようだった。

そして、撮影の合間の時間。
たまたま近くにいた方とお話していたときのこと。40代くらいの女性であるその方はエキストラ事務所に所属し、これまでも数々の作品に出演してきたというので、冒頭のような質問をする運びとなった。

すると、彼女は数々の有名作品の名を口にしたのちに言った。


「でも一番は99.9のときかな。」

「え!!松潤に会ったんですか!!松潤どうでした?!輝いてましたでしょう??!?」



小2のときに一目ぼれし、そこから一途に思い続けているその名を口にされ、人生1の興奮を隠しきれていない私に向かって彼女は言った。


「もうね、オーラから違った。しかも、私たちみたいな下っ端のエキストラにまで丁寧に挨拶してくれてね。人としてもかっこよかったあ。」



さすが松潤!!最高ですね!!などと言っているうちに出番が訪れ、その方とはそれっきりとなってしまったけれど、余韻がスゴイ。


そうか、エキストラになればそんな機会もあるんだな、なるほど。

などとよくわからない納得の仕方をしつつも、もし松潤に会うようなことがあるのなら、私は彼になんと声をかけるのだろう、と考えた。


「小2でTroublemakerのジャケ写で一目惚れしてからずっと松潤の大ファンでした。」

…いや、こんなに時間あるか?

「好きです。結婚してください。」

…いやいやいやいや、ファンに殺されるわ。身の程弁えろ、自分。


「ずっと応援してます」

…いやいやいやいや、こんなんじゃ長年の思いは伝えきれないだろう。


まあ、色々考えたけど、そもそも松潤に会えるような奇跡なんて起こらないだろう。


そう気づいたときには時計の針が0:00をさしていたので、目を閉じた。



それから1年後。

嵐は活動を休止し、松潤はメディア露出がめっきり減ってしまったので、インターネットで「松本潤」と検索するのが日課になっていた。出てくる画像を眺めては『美しい…』と独り言を呟き、コンサートのDVDを止めずに見られるほどの時間があれば繰り返しみて寂しさを感じる、かなりヤバい奴になっていた。



ある夏の日。

その日は陸上の大会だった。


今日のレースは散々だったと汗と悔し涙を流しながらトボトボと歩いていた



そのときだった。



前から帽子を被り、透明のレンズのサングラスにマスク姿なのにオーラが溢れ出ている松潤が歩いて来た。



……松潤が…?
………マツジュン…?


いやいやいや、こんなとこいるわけないだろ。
しっかりしろ、自分。


もう1回…


いや、どうみても松本潤だ

と気づいた時には「あの!!」と声をかけてしまっていた。


ん?と言いたげな松潤の瞳。


そこで気づいた。


よく考えたら髪はボサボサ、ジャージ姿に泣き腫らした目。最悪のコンディション。


「あの…松本潤様ですか…」

と聞けば、「様って…」と笑いつつ、

「はい、松本です」と一言。



ポロポロポロポロ


自然と涙が溢れ出てきた私の顔を見て、

「え、え、落ち着いて!泣かないでー」と困ったように笑う松潤。


…あまりの幸せに泣いてしまった!!松潤の前で!

なんたることを…!!



松潤に会ったらなんて言うつもりだったんだっけ!



大好きです!
VSもしやがれも毎週録画してリアルタイムでも見て、松潤が出てる作品は生まれる前のものも全部見て、ファンクラブにも入ってコンサートにも当選した時は足を運び、ツアーのグッズは毎回買い、DVDとCDはシングルもアルバムも毎回初回と通常両方買って、毎日登下校は嵐の曲を聴いて生きてきました!


と言いそうになって、お忙しい松潤の足をこれ以上止めちゃいけない!となり


「これからもずっと応援してます…」

とヒックヒック言いながら伝えた。


なんて情けない…!


でもさすがの松潤。

スマートに「ありがとう」と笑顔を見せたのち、
「部活の大会終わりかな…?お疲れ様!」といって去っていった。


「ありがとう"ござい"ま"す…」

と後ろ姿にいうと、ヒョイと手を挙げてくれた。


ああ、会ってしまった。大好きな松潤に。
会えてしまった。こんな奇跡があるなんて。



その後しばらくは、あまりの幸せに脳内では常にLove so sweetが流れ、ホワホワしていたけど、あることに気づいた。


…あれ?私何も伝えてなくない?
しかもただでさえ最悪のコンディションな上に泣いてたとか史上最悪では?


きったない顔の女に、
これからもずっと応援してます…とだけ泣きながら言われた松潤の心中、計り知れない。


でもさでもさ、東京でもないこんなところ、ましてや陸上競技場周辺に、松潤がいるだなんてことある?


そりゃさ、東京の街歩くならさ、松潤会うかもって思って、メイクもおしゃれもばっちりで歩くよ?でもさ、違うじゃん。


そういやなんであんなところいたんだろ…
聴けばよかった…と次々と後悔は募る。


だから、いつかまた松潤に会えることがあるなら、これを伝えよう!と決めた。


「小2の頃からこれまでもこれからもずっと大好きです。」


もちろん、次は、笑顔で。









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