見出し画像

リーゼントと50年代アメリカ(+ドローイング#1,2,3)


このマガジンで発表するシリーズは、「火事の家」をいろんなスタイルとテーマで描いてみようというもので、今のところ「油彩画」「立体物」「ドローイング」があります。シリーズのスタートは油彩画でしたが、今は並行してドローイングも制作しています。

制作ノートとして書いているテキストも、このドローイングにまつわる内容なので、まずはドローイングから発表を開始したいと思います。

ドローイングのテーマは「リーゼントと50年代アメリカ」。

題材である”火事”の炎を、リーゼントに見立てて描き出したのは、ちょうどエルヴィス・プレスリー(の1st)を聴いていたからで、50年代のアメリカを想像しながらドローイングを描くのが楽しい状況です。

(*最初の投稿なので全文公開にします。よければ最後までお読みください。)


リーゼントと50年代アメリカ


[リーゼントの起源って]

なんとなくそんな気もしていたが、リーゼントという名前は和製英語で、アメリカでは「Pompadour(ポンパドール)」と言うのだそう。

しかしポンパドールというと、貴族の時代から今に至るまで、”前髪を大きく膨らませた”ヘアスタイル全般を指す髪型で、”リーゼント”のようにそのものずばりを表す言葉が見当たらない。

定義的には、前髪がポンパドール、後頭部がダックテールの組み合わせで、日本で言うところのリーゼントになるそうだ。

日本で”リーゼント”といえばヤンキーの定番、不良のシンボルという印象だが、イギリスでも似たように、独自の強いポリシーを感じさせる不良集団、テディボーイズ(テッズ)がいて、自分たちのリーゼントスタイルを”クイッフ”と名づけている。どちらも時代を超えた、不良のプライドのようなものを象徴して存在感がある。

当地では特定の名前を持たないヘアスタイルが、海を渡りその地で固有の名前を持ち、一つのサブカルチャーを象徴する髪型として根づく。ちょっぴり不思議感がある。リーゼント(ポンパドール)は1950年代アメリカでどんな風に生まれたのか。気になってくる。

調べてみると、第二次世界大戦の終結後、その帰還兵たちが始めたバイカー・クラブ(バイク乗り/暴走族)あたりに辿り着くのだった。


[バイカーズとリーゼント]

1953年にアメリカで公開されたマーロン・ブランド主演の映画「乱暴者(あばれもの)[THE WILD ONE]」は、1947年に実際起こった、バイカーたちによる大騒動をヒントに作られた作品で、登場するバイカーの多くが、ポンパドールにライダースジャケット姿でバイクに跨っている。(この映画タイトル「THE WILD ONE」がこのドローイングシリーズの副題になっている。)

映画のヒントになった”ホリスターの騒動”は、当時の写真がネットでも確認できる。↓


確かにポンパドールにダックテイルスタイルが見受けられる。ライダースジャケットにロールアップしたジーンズ姿も映画どおり。

事件は、小さな田舎町で開かれたバイクレースに、不良バイカーたちが押し寄せて酒に酔い、街中で大暴れするという騒動で、怪我人の多くは酔っ払ったバイカーたち本人だったりして、他愛もない感じではあるものの、第二次大戦後のアメリカに現れた不良バイカーたちの存在を悪名高く知らしめるものであったらしい。

当時流行したバイカー・クラブは、元は第二次世界大戦の帰還兵で、戦闘体験により平常の生活や社会に適応できなくなった鬱憤のはけ口をバイクに求めたのだという。
それは単に走ること、バイクを改造すること以上に、”戦友たちと共に走る連帯感”が、不安定な精神に必要だったから。

それでたくさんのバイカー・クラブが生まれ、中にはアウトロー・バイカーと呼べるような無法なクラブも生まれ、同時にバイカー・ギャングも生まれた。かのバイカー・ギャング、”ヘルズ・エンジェルス”は1948年には結成され、また、ホリスターで騒動を起こしたチンピラたちも特定のバイカー・クラブだった。

ヘルズ・エンジェルスのようなバイカー・ギャングたちはバイカー・クラブのごく少数だが、組織的なマフィアで、殺人まで請け負ったというので、戦地で任務として遂行した行為の闇の深さを想像してしまう。


[リーゼントを育てたサブカルチャー]

50年代、彼ら不良バイカーたちの所作、文化は、”グリーサーズ(Greasers)”と呼ばれるサブカルチャーを生み出していく。

グリーサーズとは、整髪料の代わりにグリース(バイクなどの潤滑油)を使用したのが呼び名の起源のようで、後の50sリバイバルに乗って公開された映画「グリース」やコッポラの映画「アウトサイダー」などで描かれてもいる。

50年代のはじめまで、ポマードは発売されておらず、また、低所得者層で金のないグリーサーは、バイクに使う潤滑油=グリースを使って整髪していたようで、ヘルメット着用の習慣がない当時、リーゼントは、むしろルックス上、必須だったのかもしれない。

このグリーサーズにおいて、リーゼントも進化・発展したようだ。↓


バイカーといっても、殺人まで犯すギャングから、チンピラ程度のアウトロー・バイカー、一般人バイカーまでいろいろで、”グリーサーズ”は基本、アウトロー・バイカーだが、画像で見る限り、彼らの多くは10代の若者=ティーンネイジャーと思われる。

ミュージカル仕立てのポップな映画「グリース」(1978)に対して、コッポラの映画「アウトサイダー」(1983)では、社会から逸脱したティーンネイジャー=アウトサイダーたちの不安定な内面を描いた映画で、50年代オンタイムで上映されたジェームス・ディーン主演の「理由なき反抗」(1955)の描いた影のあるティーンネイジャー像に近いものだった。グリーサーズといってもいろいろ、バイカーズ・クラブといってもいろいろあるんだろう。

ところで、この”ティーンネイジャー”という存在は、1950年代のアメリカの光と影を眺めるうえで大事なファクターになるようだ。戦後の好景気によって、10代の若者が新たな所得者層、購買層となってアメリカ文化を大きく特徴づける若者文化の隆盛と大量消費社会の到来を告げる一因となり、また、それに伴った社会の急激な変容から起こる矛盾や軋轢の被害者、当事者でもあったのだ。

エルヴィスがブレイクした1955年と同年に公開された映画「理由なき反抗」の、タイトルが示すとおり、当時のティーンネイジャーが葛藤したものは、それまでの時代にはなかった矛盾や軋轢であり、そのため”理由なき(理由がわからない)反抗”として親世代から理解されなかった。

時代の鏡としてアウトロー(アウトサイダー)的雰囲気をまとったティーンネイジャーたち。そして、彼らのマストアイテムは、バイクやライダースジャケットだけでなく、当然エルヴィスのレコードも含まれていた。


[エルヴィスとロックのはじまり]

映画「理由なき反抗」主演のジェームス・ディーンとエルヴィスは、件の映画「乱暴者」の主演であるマーロン・ブランドに憧れていたという共通点がある。

(三人は、メソッド演技法に傾倒していた。それまでにない、役柄に没頭して演技するメソッド演技法といえば、「理由なき反抗」の冒頭のジェームス・ディーンの道端に転がった半泣き顔シーンとか分かりやすい気がする。たぶんあんなふうに主人公(男)が泣き顔を見せる映画はなかったのでは。)

そして、ジェームス・ディーンもリーゼント。オールバックみたいに見えるが、あれもリーゼントスタイル(オールバックリーゼント)になるらしい。

バイクを所有していたことも共通していて、やはりバイク文化からリーゼントの影響を受けたのだろうか。そんな二人の感性は、そのまま当時のティーンネイジャーの感性でもあったろう。リーゼントはそんな感性を端的に表していたと言えるかもしれない。

ところで、映画「乱暴者(あばれもの)」(1953年)の劇中、主人公のブランドはじめバイカーズたちがたむろするバーで、何度かジュークボックスから音楽が流れるシーンがある。

昔、観たときは気にも留めなかったが、リーゼントとロックンロール、バイカーの繋がり方が気になり、もう一度見直して観てみると、劇中音楽として流れるのはすべてビバップ(ジャズ)なのだった。

映画の話ではあるんだが、1953年当時、バイカーズはまだロックンロールを聴いてはいなかったのかもしれない。カントリーなんかはあっても、不良が聴く音楽といえば(白人ではなく)黒人の演奏する(ロックンロールの直接的な起源であるR&Bでもなく)ビバップ(ジャズ)が主流だったのだろうか。

エルヴィスのデビュー曲「ザッツ・オールライト」は公開翌年の1954年に発表されている。もしもエルヴィスのデビューがこの映画の前であったら、もしも当時、白人音楽であるロカビリーか広まっていたら、劇中のジュークボックスからは、彼らの音楽が流れていたに違いない。

そう考えると、少なくとも1953年頃はまだ、リーゼントとロックンロール、そしてバイカーズとロックンロールは、まだはっきりと繋がってはいなかったのかもしれない。

そんなロックンロール前夜、はじめて”白人によるロックンロール”を奏でるエルヴィスが登場する。

↑エルヴィスのデビュー曲「ザッツ・オールライト」


エルヴィスのインパクト、影響力は大きくて、ジョンレノンが「Before Elvis, there was nothing.」と言ったように、それまでの音楽的風景をがらりと変えるような出来事として広く語られている。

もう少し具体的に言い換えると、エルヴィスが登場するまで、白人(主に労働者階級やティーンネイジャー)が聴く、白人による不良音楽がなかった、ということだ。

1953年公開の映画「乱暴者」で流れる音楽はビバップだが、ロックンロールのスタイルは1940年代末には生まれていたようなので、後々のバイカーズ(グリーサーズ)とロカビリーの親和性を思うと、劇中のジュークボックスからもロックンロールやR&Bが流れても良さそうだけれど、流れない。

ところがその一年後、エルヴィスの登場によって、ロックンロールはロカビリーとなって全米中を席巻した。

(それほどに白人による不良音楽(ロカビリー)が社会にインパクトを与え、広まったのは、裏を返せば、それだけの需要があったということで、その需要とは戦後の未曾有の好景気によって生まれた新たな働き手(労働者+10〜20代前半の若者)がそのまま巨大な購買層となってエルヴィスの商業的成功を助けた。)

エルヴィスの音楽は、当時のティーンネイジャーや若年労働者に広く受け入れられた。ジョン・レノンが言った「何もなかった」というのは、「自分たち白人の労働者や若者が聴く(演奏する)不良音楽がなかった」という意味に受け取ることもできる。(ジョン・レノンはイギリスの労働者階級出身)

かっこいいと思える音楽はいつも黒人音楽だったのが、自分たち白人にも演奏できるんだという”大きな発見”がエルヴィスの音楽にあった。それがロックの生まれるきっかけとなった。

音楽的に言えば、ロックンロールの誕生には、チャック・ベリーやファッツ・ドミノ、リトル・リチャード、カール・パーキンス、ジェリー・リー・ルイスなど多数のミュージシャンが関係しており、エルヴィスはその一人に過ぎない。

しかし、その中でエルヴィスは音楽以上の影響力をもった存在だ。ダンスにおいてルックスにおいて、そして白人であることにおいて。

そんな特別な存在エルヴィスからやっぱりロックは生まれたと思える。

ネットで画像を見渡す限り、50年代当時、リーゼントが最も明確に、美しく整っているスターはエルヴィスだ。その明確さ、美しさというリーゼントにおける”正義”は、やはりエルヴィスが特別な存在だという裏付けにも思えてくる。


次回は、そんなエルヴィスやロックについて調べたことや思ったことをまとめてみる。


-


最後に、ドローイング「THEWILDONE」画像。こちらも多めに三枚アップ。

画像1

thewildone001_colored pencil on paper, 162×162mm, 2021_6,000pt

画像2

thewildone002_colored pencil on paper, 162×162mm, 2021_6,000pt

画像3

thewildone003_colored pencil on paper, 162×162mm, 2021_6,000pt




文献・参照:

https://ja.wikipedia.org/wiki/リーゼント
https://www.tokoyanori.com/6233/
https://ja.wikipedia.org/wiki/ヘルズ・エンジェルス
https://kurashiyoriyoku.com/hellsangeles/
https://gigazine.net/news/20090921-mc-gangs/
https://hairsalon-active.amebaownd.com/posts/6509390/
http://www.ポマード.net/ポマードで作る1950年代風オールバックリーゼント/
https://ja.wikipedia.org/wiki/メソッド演技法
「カウンターカルチャー前夜 ―アメリカの 1950 年代についての一考察― 」佐藤成男 (玉川大学観光学部紀要 第 2 号 2014 年,pp. 83~92 )
https://en.wikipedia.org/wiki/Hipster_(contemporary_subculture)
*9
https://en.wikipedia.org/wiki/Hepcat
https://ja.wikipedia.org/wiki/エルヴィス・プレスリー
https://ja.wikipedia.org/wiki/ドゥーワップ
https://heapsmag.com/teddy-boys-50s-rebellious-subculture-london-first-last-generation-teds-rock-n-roll
https://blues-power.jp/?p=1595
https://therake.com/stories/icons/style-heroes-elvis-before-he-was-king/
https://popdeep.com/rubbersoledshoes-teddyboy
https://popdeep.com/rockers-caferacer
https://www.slickedbackhair.com/best-hair-products-1950s-biker-greaser-hairstyles/
https://ja.wikipedia.org/wiki/ビリー_ライト_(アーティスト)
https://pulse.rs/john-lennon-before-elvis-there-was-nothing/
http://www.tapthepop.net/extra/81983


ここから先は

0字
ご購読いただくと、その購入額をポイントに換算し、等価の発表作品と交換していただけます。 たとえば一年間の購読で、定価6,000円の作品が手に入ります。

THE SKYSCRAPER

¥500 / 月 初月無料

”火事の家”をモチーフにしたシリーズ作品とその制作ノートを発表します。 作品画像は一日一点、ノートは週一度のペースを想定していますが、不定…

よろしければご支援よろしくお願いいたします。 購入金はポイントとして換算させていただき、作品と交換していただけます。