掌編小説)夏よ
雨が降り続く中見上げれば空が灰色をしている
いつの間にか悲観的になり夜までの天気を思えば降る、という方を選ぶようになった
きっと降る
弱気に支配された洗濯物は部屋の中で風に揺らめく
外に出たい、と叫ぶ
もう大分笑っていない
いちいち数えてないから1ヶ月以上かもしれない
壁紙が黴臭くなって部屋と心中を試みてる
私は魚だったのか
天井まで溢れた水に浸かって泳ぐ
とうに退化したエラがいつの間にか再生していて、私は数ミリの陸でも優に呼吸できる
苦しくならない
背泳ぎって昔習った
どういう訳か直ぐに会得して、平べったい背中を水にたゆたわせて浮かび上がる事ができた
横になって空を眺める
焼けそうな太陽に目を背けた途端に頬に一滴の水が垂れ落ちた
気づくともはや水滴とは呼べぬ量の雨粒が一斉に顔にかかり、髪の毛は藻のように揺らめく
目をつぶると私は元の通り小さな四畳半にいてTシャツを握っていた
汗とも湿気ともつかないものがこめかみから流れる
黄色い光に誘われて窓を開ければ空は透き通るようで、慌てて洗濯物を竿に掛ける
梅雨はもう時期明ける
私の夏が近づいている
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