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バッグは589.2の書架に

冬の日差しが眩しい図書館の中で、分類番号589.2の書架にあるバッグの本を手に取っていたウサギは、隣にいたカメの方を向いて突然立ち上がり、「行くわよ」と一言だけ言い残し、本を書架に戻して出口へ急いだ。

慌てて後を追うカメとともに、彼女は都会のざわめきの中にあるバッグショップの前に立っていた。その店は落ち着いた雰囲気で、美術品のように丁寧にバッグが置かれていた。彼女はその中の一つのバッグを長く見つめ、心を奪われていた。

店内を何度も行き来しながら、「買おうかしら、どうしようかしら」と、ぶつぶつ言っているウサギの横顔を、カメは黙って見守っていた。 「このバッグ、とても気に入っているのだけれど、いつも走っている私が、こんなバッグを持つ意味があるのかな」と、彼女は大きなため息をついた。

そんなウサギの様子を見ていたカメは、しばらく考えた後、彼女に向き合い、「時には、ゆっくり移動するのもいいかもしれないよ。速さだけがすべてじゃないから」と話しかけた。それを聞いたウサギは、少しの間黙ったあと、「そうね、時にはゆっくり歩くのもいいかもしれないわ」と言い、バッグを手に取った。

いつもとは少し違った選択をすることで、新しい景色が見えるかもしれない。そう考えたウサギは、隣にいる彼に心の中で感謝していた。

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