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パニックは進化の証?

深いため息をついて図書館に足を踏み入れたウサギは、今日のラジオのお仕事「ウサギのティースプーン」を思い出していた。静かな閲覧室でゆっくりとページをめくっていたカメは、彼女の姿に気づくと、椅子を引いて「お疲れさま」と声をかけた。

「ラジオで話すとき、こんなに緊張するのは私だけかしら。イメージトレーニングもしているのに、スタジオに入るともうパニックなの。私、この仕事向いていないのかな」彼女は、自分に自信が持てないと呟いた。

カメは優しく微笑みながら、「ウサギさんが悪いわけではないよ。パニックは、僕たちを危険から守ろうとする、脳の進化の結果だからね」と説明した。

「どういうことなの?」ウサギは少し驚いた顔で、瞳をカメに向けた。

「昔は、人前で話すことはグループから追い出されるリスクがあった。だから脳は話す時は危険と判断し、警告するように進化した。その結果、人は話す時に緊張するようになった、というわけだね。アンデシュ・ハンセンの『ストレス脳』という本に書いてあった」と、彼は持っていた本をウサギに見せた。

「つまり、私が緊張するのは、私のせいではなくて、人として進化した証という事ね?」ウサギの顔は心配顔から笑顔に変わった。「そうなのね。私は進化した人類なのね」と、満足げにカメをみた。

カメは一瞬沈黙し「脳は生き残るために、様々な危険に対して警告を発するように進化しているのだけれど……」

「けれど?」とウサギが迫ると、「スタジオに行ったことがない僕は、ウサギさんが緊張する姿を見たことがないんだよね。だから、ウサギさんの進化は特別なものなのかもしれないね」と、カメは静かに言葉を選んだ。

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