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暗幕のゲルニカ

ウサギとカメが図書館に入ると、正面のフリースペースに東京大空襲の資料が展示されていた。資料に目を留めたウサギの手には、原田マハさんの「暗幕のゲルニカ」があった。

閲覧席に移動すると、ウサギはその本の表紙を、ゆっくりと指でなぞった。「この本を読むまで、アートと戦争がこんなに深くつながっているとは知らなかったわ」と彼女は言った。

パブロ・ピカソの絵を観るのが好きなウサギだったが、ピカソが生きた時代のことや、彼が「ゲルニカ」を描いた背景については知らなかった。そのことを深く考察した物語に、彼女は大きな衝撃を受けていた。

「ピカソは身近に迫る戦争に対する怒りを感じるとともに、戦争の犠牲者に対する悲しみを心に溜めていた。だからこそ、ファシズムと戦うために、自分の作品を武器にしようとしたんだね」カメが静かに言葉をつないだ。

ピカソが活動していた1940年前後のパリと、2001年の同時多発テロ後のニューヨークが交差しながら、この物語は進んでいく。ナチスによるゲルニカ空爆をきっかけに描かれた「ゲルニカ」は、その時と同じように、2001年の世界でも、「戦争」に対する戦いのシンボルになるのだった。

「ゲルニカに込めらているメッセージは、今でも必要なんじゃないかしら。世界中から『戦争』の文字がなくなるまで、反戦のシンボルとして」ウサギの目は遠くを見つめていた。まるでピカソが生きた時代を思い浮かべるかのように。

3月10日は東京都平和の日。「芸術は飾りではない。それは敵に立ち向かうための武器だ」ピカソのその言葉が、二人の心の中には重く深く響いていた。


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