推される?それとも推す?
カメは図書館の学習席で、いつも通りペンをササッと動かしてた。彼は「うーん」と小さく唸った。普段は集中モード全開の彼だったが、その日はちょっとペースが狂っていた。
「あのさ、ウサギさん、なんかこっち見てニヤニヤしてるけど、どうしたの?」カメは我慢できなくなって、隣にいるウサギに声をかけた。
「えっ、マジで聞きたい? めっちゃ聞きたい? カメくんが、ど、う、し、て、もって言うなら聞かせてあげるけど?」ウサギがそう言うので、二人は中庭に移動した。
「ほら、私のやってる『ウサギのティースプーン』ってラジオ番組があるじゃん。そこのリスナーから手紙来てて、めっちゃ推してくれてるって。マジで嬉しいんだけど」ウサギは待ってましたとばかりに、ひたすら話し続けた。
「推し活かぁ。僕にはあんまり縁ないなぁ。CDめっちゃ買ったり、握手会に行ったりはするけど…」とカメが言うと、ウサギはビックリして、「それって、めっちゃ推し活じゃん! 誰のファンなのよ? 教えてよ!」って言うなりカメに迫ってきた。
カメはウサギをかわし、「それは内緒だよ」と言うと、恥ずかしさのあまり一目散に走り始めた。まるで重力を忘れたかのように図書館の入口をくぐり抜ける彼の後ろ姿を、ウサギはぽかんと口を開けたまま見送っていた。