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招き猫と福をつかめ

猫電車を降りて、豪徳寺の境内に辿り着いたウサギとカメは、ひときわ目立つ三重塔を見上げていた。塔をぐるりと一周したウサギが呟いた。「この三重塔の十二支の中には猫がいるのね。さすが猫寺だわ」

三重塔にはネズミより大きく猫が彫られている。

塔に背を向けると、招福殿は目の前だった。そこは招き猫で埋め尽くされ、まるで別世界だった。ピタリと足が止まったウサギが、「覚悟はしていたけれど、この招き猫の数は圧巻だわ」と声を弾ませると、カメも彼女の隣で、猫づくしの光景に言葉を失っていた。

「招き猫はみんな右の前足をあげているね。右の前足をあげると金運を招くと言われているんだ」と、カメは招き猫から目を離さずにウサギに説明した。「左の前脚をあげるとどうなるの?」とウサギが尋ねると、「人を招くと言われているね」とカメは続けた。

「それなら両方の前足をあげれば、お金も人も一挙両得ね!」と前のめりになったウサギに対し、「両前足をあげるということは、招き猫にとってはお手上げ、いや、お足上げ?ということだと思うけどね」と、カメはジト目でウサギを見つめた。

「そもそも招福猫は『縁』をもたらしてくれるけれど、『福』そのものを直接くれるわけではないんだ。『縁』をどう生かすかはその人次第。つまり、頑張りなさい!ということだね」と、カメはじっくりと彼女に言い聞かせた。

ちょっぴりバツが悪くなったウサギは急に話題を変えた。「十二支に猫がいないのは、ネズミに騙されたっていう説もあるけれど、ここでは猫とネズミはとても仲良しだわ。やっぱり仲良しが一番よね。ねっ、カメくん?」ウサギは逃げようとするカメの袖を、素早い動きで捕まえた。

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