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自選集

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誰かの懐かしさにふれたい。
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記事一覧

夏の続きを話そう

表参道の人混みを、魚みたいにすり抜けて歩いて来た彼女に信号待ちで声をかけた。 「あの、す…

旅田百子
3年前
76

私の手が、好きですか?

いつの間にかできていた小さな切り傷みたいな恋に悩まされた春休みだった。 いったん気がつい…

旅田百子
3年前
97

彼女まで50cm、ロードムービーみたいな夜に

早田が、俺の隣で泣いている。 量販店が建ち並ぶ国道。 県をまたいでも特段の変化はない。 利…

旅田百子
3年前
80

【小説】 懐かしい声

着信画面を凝視しすぎて、電話に出るタイミングを逃した。指が画面に触れるのとほぼ同時に、切…

旅田百子
3年前
87

短編小説 「欲しいものはどこにあるの」

正直な気持ちを気が済むまで話せる場所はどこだろうと考えると、そこはもう、自分の中にしかな…

旅田百子
3年前
73

カノンさえ弾けなかった

夕飯の場が、緊急家族会議に食われた。 バラエティー番組から拍手が沸き起こった瞬間、父はリ…

旅田百子
2年前
94

【小説】うたかたも続けば同じ夢

終電間近の心斎橋で境田爽とすれ違った。 四年ぶりだった。 ビルの煌めきが本当は果てしないはずの暗闇に勝っていて、その谷間を土曜の開放感たちが行き交う。 なんとなく視界に入ってきた。三度目のチラ見で確信した。咄嗟に「爽ちゃん!」と呼びたくなって、蓬莱夏樹は閉口する。あの頃の境田が身に付けていたものなど、もうどこにも残っていないように見えた。キミの知らない時間を生きてきました、と言わんばかりに前を向いて笑う境田の隣には、やたらシュッとした男がいた。 上品な嫌味でも言いそうな顔をし

いつかの江ノ電に揺られて

あの日、トンビにハンバーガーを奪い去られていた者です。 堤防に座っていました。 包装紙をち…

旅田百子
1年前
115

昨日の星と夢の中

誰かに理解されたいけれど、全員に理解されるのはシャク。 それって、みんなもそうなのかな。 …

旅田百子
6か月前
91

【ショートショート】 僕たちは売れない靴だった

コトさんは、かつて靴でした。 今は駅のそばの路地裏で、小さな靴屋を営んでいます。 コトさ…

旅田百子
5か月前
85