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“好きな人が好きな人”のことを話す顔がとてもよかった。
多忙な中、ホワイトデー当日に家に来てくれたRくん。
ここに来た目的を玄関で果たしたので早々にすることがなくなって、ソファーに寄りかかってあくびをしていた。
バレンタインに少し聞いてからうやむやになっていた、Rくんの好きな人の話。
今日こそ聞こう、丁度ホワイトデーだし。(何の丁度?)
「Rくん。好きな人の話、中途半端だった。」
『…今?』
疲れているRくんに今日聞く話ではない。
けれど、Rくんが忙しくない日などいつ来るかわからない。
「好きな人、誰?」
『誰…個人情報よ。』
「どんな人?何で好き?今は?どうなったの?」
…………
畳み掛ける私にドン引きのRくん。
『んー。可愛い!』
男性って好きになる相手は見た目が8割、いや9割?
普段のRくんは言語化するのが上手で賢い人なのだけれど、この手の話をすると本当に短絡的なことしか言わなくなる。
いつもの語彙力、どこにいったの?
私の目が口ほどに物を言ったのか、彼はしっかり座り直してこう言った。
『今は、人として好きだよ。』
女の子として好きだと言われる方がまだよかった。
“人として好き” は、彼らしい最上級の好きと言っているようなもの。
先月も話した通り、どうこうなることはないと。相手は彼を同性としか見れない、そんな様な事を彼は端的に言った。
努力でどうにもならないことが理由になるのは、彼にとって最も辛いことだったのではないだろうか。
すると彼は、『いやーめっちゃ反省してるよ。』と苦笑いで言った。
?
『おれ、好きになると好き!なのね、もう可愛い!好き!大好き!って。結論急ぐ性格だし。相手のことなんてまるで考えてない。
なのにちゃんと向き合って、ちゃんと本音で答えてくれたんだよね。それってすごいよな。
本来どんなことでも断るのは労力がいることだよ。
興味ない相手に好かれるのは疲れるし、時に怖いし。
好意を伝えてくる相手にはっきり断るのって、想像以上にめんどくさい。
ましてFtMとかよくわかんない人にとっては、どこに地雷があるかわかんないって神経使ったと思う。
それをやってくれたんだよね。
長い付き合いでもないのに。
なのにおれはその時にそれに気付けなくて。
いや、多分気付いてたくせに、余裕なくて酷い言葉をぶつけたんだよ。
自分の未熟さに辟易する。
でもその人は、これからも友達でいたいって言ってくれた。
そんな人いる?すごいよ。
だから本当に感謝してる。申し訳ないとも思ってる。
もう贅沢なことは思ってないよ。
人として好きだよ。
女の子としてとか、もうそんな次元の低い目で見てないんだ。』
もっといいことをたくさん言っていたかもしれない。
どれも素直な彼の本心がふんだんに詰め込まれた、究極のラブレターのような言葉に溢れていた。
好きだという気持ちが受け入れられなかったことに彼がショックを受けているのではないか、などと考えていた自分を、なんて浅はかなんだろうと思った。
穏やかだが真っ直ぐな目で話す彼は、潔くてかっこよかった。
そういえば彼は、過去の恋人たちのことも悪く言ったことがない。
一人一人のいいところを、今でも聞いたらたくさん言うのではないかとさえ思う。
『おれって女の子見る目だけはあるよな!
おれがいいなと思う人は、みんな人としてめちゃくちゃ魅力的だよ。
恋人として女性としてどうかより、人間としてどうかの方がずっと重要じゃないかな?』
元々モテるから女性に恨みも固執することもないのか、それらがないからモテるのかはわからない。
『おれが好きになる女の子は最高だろ。
明るくて優しくて性格がいい。何かを頑張ってて。
あと顔が超かわいい!』
そう言って笑う彼。
彼はわざわざ魅力的じゃない女と付き合ってまで “恋人がいる自分” を捻出したりはしないし、性格が悪い女を彼女だと言うくらいなら独りがいいと思っているタイプ。
だから、彼と仲のいい女性は信じられないくらい性格がいい。見た目までいい。
女に好かれる女しかいない。女にも男にも、人に好かれる人、か。
彼がそうだから、類は友を呼ぶのか。
私がこの数ヶ月ずっと悶々としていた “好きな人の好きな人” の話が、やっと聞けた。
適当にごまかすこともできたと思うけれど、Rくんはきちんと教えてくれた。
なんでそんなに食い気味で…と苦笑いだったけれど。
こんなに疲れていても私の真剣さを汲んで面倒くさがらず話してくれる彼は、優しくて真っ直ぐで。
個人情報だから、と名前や年齢等、具体的なことは何も教えてくれなかった。
(勿論、そこまで聞く気は私もなかった)
容姿や出会った経緯さえも言わないから、私はぼんやりとも想像できなかった。
自分の気持ちは具体的に開示してくれるのに、相手の特定に繋がる情報は何ひとつ言わない口が堅いところも、とてもいい。
聞けば言うが、自分からは言わない。
しつこく聞いても言わないことは絶対に言わない、そういう人。
少なからずショックだったけれど、私はRくんのことがもっと好きになってしまった。
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