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戦慄迷宮。
「メリーゴーランドで大人があんなに楽しめるなんて知らなかったよ!」と言う私に、
『え。だいぶ遊園地を損してきたね。』
と真顔で答える王子さ…Rくん。(下記参照)
『苦手なのに付き合ってくれてありがとう!次は姉さんの乗りたい物に乗ろう!』
……。
まだメリーゴーランドが嫌だったと思ってる…。
「それじゃ…戦慄迷宮行きたい。」
『え…』
「お化け屋敷。ギネスの。」
『……』
「いい?」
『…なんかあっちにおもしろいのありそう。水がなんかバシャーってなるやつ。』
「Rくん
『濡れたりするかな?濡れないよね?』
「Rく
『とりあえずむこう行ったほうがいいよな。うん。むこう行こうよ。ね。』
これは…。
聞こえないふりだ。
私に話す隙を与えないようにしている。
「…もしかして…こわ
『こわいとかはないけど。』
あっ。察し。(笑)
「絶対に行きたい!私、最近死生観ぶっ壊れてるの知ってるよね!?本物出るとか噂!?本当なら見てみたいわ!ねぇRくん!行こうよ!怖くないんでしょ?男の子だもんねぇ!?Rくんが怖がってるとは思ってないよ!?一緒に行ってくれないのかなぁって。行きたいなぁ。」(色々最低)
『………任せろ。』
物凄く嫌そう。(笑)
全身原色の金髪が来たら、従業員さんの方が キャー だろうよ。と言いたい気持ちを抑えて、
「ありがとう。(ニッコリ)」
Rくんはそれから一言も喋らなかった。
一度だけぼそっと、情緒やべぇな…と聞こえた。
たまに小さい溜息を吐いて、終始眉毛を触っていた。
怖いなら怖いって言えばいいのに。(笑)
とうとう言えずに、情緒がヤバい女に戦慄迷宮などというこれまた名前からしてヤバい所に連れ込まれようとしている彼が不憫で、笑いを堪えた。
更に最低な私は、怖いと言えない男子のプライドが垣間見えた事に喜び、お化け屋敷で彼の意外な男らしい姿が見れるかも、などと邪な事を思った。
が、そんな憧れは一瞬にして打ち砕かれ、私はどのアトラクションより大爆笑する事になる。
戦慄迷宮は、出てしまえば一瞬だがさすがギネス、といった長さそして怖さだった。
とはいえ、私は結構楽しかった。
死生観がガラッと変わり、死んでいるのか生きているのかわからない状態の当時の私にとって、変に落ち着く様な、言い様のない場所だった。
元々お化け屋敷は苦手ではないが。
一方Rくんはというと、一歩目にしてもう無理だと聞こえ、5メートルでリタイア出口を探し始めた。
やはり怖いんやん。
「Rくん、怖いんやろ?」
『…怖くないよ?』
「ふーん。手繋いであげようか?」
『…怖いなら繋いであげる。』
こうして私は、まんまと手を繋ぐ事に成功した。
楽しい。遊園地、楽しいぞ。
その後は
わあっ!!
うおぉぉぉ!!
うわぁぁぁ!!
ぎゃぁぁぁ!!
無理!!
無理ーー!!
わぁぁぁ無理だぁーーーーわぁぁぁ!!!!!!!!
というバンドマン(ボーカル)のよく通る声が響き渡って、オバケはオバケ冥利に尽きるのか、はたまた迷惑なのか苦笑いなのかと、そればかり気になってしまった。
彼は最終的に、
降参!!
もう降参だってば!!
降参してるのにー!!
などと叫び出し、私がうっかり「しっかりしてよ(笑)」と声に出しても耳に入っておらず、
突然すごい勢いで走り出したり、ただでさえ暗闇の中手で目隠しをしたり、私を四方八方の盾にしたりしながら、なんとか生還した。
明るい所で見た彼は、シャワーを浴びて来たかのように汗でびしょ濡れで、変声期特有の声が更にガラガラになっていた。
どこが白馬に乗った王子様やねん。
王子、随分と私を盾にしてたなぁ。
やつれた彼を見て、半笑いで「怖かった?」と聞くと、『全然!あれは人だよ。』と真顔で言った。
自分に言い聞かせるような一言と、今更男を出してくる彼に、声を出して笑ってしまった。
彼は不満そうにしながらも、『楽しかったならよかった!』と言った。
最後まで怖いとは言わなかった。
彼は帰りの車内で、魂が抜けたように寝ていた。
よほど疲れたのだろう。(お化け屋敷が)
皆んなも寝ていたけれど、初めて見る彼の無防備な寝顔に、私は寝れなかった。
優しくて、可愛くて、カッコ悪くて(笑)騒がしくて、愛おしかった。
Rくんの前だと大泣きして大笑いして自然体でいられる自分に気が付いて、私はこのまま家に着かなければいいのにと思った。
家が近所の数人で近くに降ろしてもらって、歩いて帰った。
私だけ別方向だったけれど、Rくんは自然に平然と、私の家まで一緒に歩いてくれた。
逆方向だからいいよと言ったけれど、「おれの散歩に付き合ってよ」と言って。
独特のRくん語。今でも変わらずそう。
人のためにすることを、自分がそうしたいからと言う。優しい人。
童顔で無邪気で、下手すると実年齢よりひと回りくらい若く見られているけれど、なんだかんだ面倒見もいい。長男気質。
家に着きお礼を言って、またねと別れた。
あっと声がして振り返ると、駆け寄ってきて「忘れてた!はいこれ!」と言って袋を渡された。
えっお土産?一緒に行ったのに?いつの間に!と驚く私を置き去りに、「はやく入んな!オバケより生きてる人間の方が怖いんだからな!」と彼は言って、来た道を歩き出した。
去っていく後ろ姿にありがとうと言うと、振り返って手を振って笑った。
爽やか。こういう気配りもできるのか。嬉しい。優しいなぁ。
対して気の利かない自分を反省しながら、帰って中を見ると、ホラーTシャツだった。
いつ着るねん。
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