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白馬に乗った王子様。

Rくんと顔を合わせないまま、ひと月が過ぎた。
日に日に彼の忙しさはピークを更新し続け、私も似たようなものだ。

最近はリアルタイムのことを書くことが多かったから、久しぶりに昔の記憶を辿ってみる。


まだ私がピチピチ、Rくんがイケイケチャラチャラだった頃の話。
(死語が過ぎる)

それは私がやっと暗闇から這い出てきたような時期で(表現が貞子)友人が私を心配して、色々な場所に連れ出してくれていた。
その気持ちが嬉しくて、行けば元気を貰えて、私の足も少しずつではあったが外に向いた。


そんなある日、友人が富士急ハイランドに行こうと誘ってくれた。

元々乗り物は苦手な上、聞けばまあまあの大人数。
大勢の人と接する勇気がまだなかった私は断ろうとしたけれど、Rくんも行くよ!との誘い文句に悩む、現金な私。

Rくんと遊園地かぁ。

こんな機会二度とないかもしれない…そう思った私は、ちゃっかり参加を決めた。


あっという間に当日になり、自分で決めたにも関わらずみんなの高いテンションについていけず、私なんかがいたら気を遣わせてしまう…とネガティブまっしぐらで遊園地に着いた。

みんなで何乗る?と盛り上がっていて、苦手だとは言い出せなかった。

愛想笑いで誤魔化していると突然、
「おれ絶叫乗れないんすよー!」
困ったような笑顔でRくんが言った。

何だよお前ー!(笑)
富士急来ておいて!(笑)
などと言われながら、彼はアハハと笑って私の方を振り返り、
「姉さん一緒にメリーゴーランド乗ってくれない?」
と言った。


わざとだ。

咄嗟に分かった。

一瞬で、泣きそうになった。
うん。と頷くのが精一杯だった。

しょうがないなー!(笑)
Rと乗りに行ってやって!

みんなもわかっていたに違いない。
私はこの友人達の、下手な芝居と大きな優しさで生かされていたことを実感した。


絶叫に向かう皆んなを涙目で見送り、Rくんと二人きりになった私は、声を上げて泣いた。
彼はあたふたしながら、「ハンカチとか持ったことない…」と言った。

可愛くて優しくて、泣きながら笑った。
彼はずっとあたふたして、また困った顔で眉毛を触っていた。

彼は困ると必ず眉毛を触る。
ずっと触っているのが彼の困り度合いの大きさを表していて、申し訳なくて泣き止んだ。

そんな私に彼は、
「そんなにメリーゴーランド嫌な人いるって知らなくて…無理に乗せたりしないからもう泣かないで…」
と言った。

私の気持ちを瞬時に察知して、気を遣わせないようにあんな芝居まで打ってくれた彼が、私が泣いている理由をメリーゴーランドが嫌だからだと思っていた。

どこまで可愛いねん。
天然と言うか、なんと言うか。

メリーゴーランドが嫌で、20代がわんわん泣くと思うの?(笑)

「嫌じゃないよ。ごめんね。乗ろうか!」と言う頃には私はすっかり可笑しくなって来て、みんなにありがとうの気持ちと共に、Rくんと二人きりになれて嬉しいなどと呑気な事を考えていた。

Rくんは、泣くほどメリーゴーランドが嫌だと思っていた年上女がケロッとメリーゴーランドに向かうもんだから、わけがわからないといった顔で横を歩いていた。


子供の頃以来にメリーゴーランドに乗った私と、酔うくせにメリーゴーランドが大好きな彼は、周囲がドン引きするほどはしゃいだ。

彼に至っては、颯爽と白馬に乗り込み、「姉さん!白馬に乗った王子様が迎えに来たからにはもう安心だ!」などとよくわからない設定の台詞を恥ずかしげもなく言いながら、ゆ〜っくり上下していた。

自分で王子様って恥ずかしくないんか。
本物の王子様は自分の事王子様とは言わんやろ。

心の中で何回ツッコんだかわからない。


人混みでわんわん泣いた女の黒歴史を、一瞬で上書きしてくれた王子様。

私にとってそれは素敵な、白馬に乗った王子様だった。


※Rくんは当時10代でした。
現在ではないということだけは強く。(笑)


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