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いい歳した大人がバレンタインに振り回される話。
「結論から言って。」
Rくんは私にこう言った。
バレンタインの夜だった。
私は先日、Rくんは女性という生き物をよく理解していて、どうしてほしいかをわかっていて、対応が完璧だ。と書いた。
でもそれは彼が今までの環境や経験から学んで、優しさと努力でそうしてくれているのだということを、私はよく忘れてしまう。
我ながら馬鹿だなと思う。
今思えば、あの日あれを書いていた時に、私はすでにどこか変だったのかもしれない。(いつも以上に)
今振り返れば、いい歳をして何をバレンタインだ何だかんだと言っているんだ、と思う。
けれどあの日の私は、絶対に今日Rくんと会わなければいけないと頑なだった。
わざわざ不機嫌だと公言しているのに折れない私に彼が折れる形で家に来てくれたのは、日付が変わる少し前だった。
チャイムが鳴りドアを開けると、珍しく疲れを隠さずテンションが低いRくんがいた。
『うぃっすー。』
いつも通り彼は言った。
紅茶を淹れながら、他愛もない話を少しした。
明らかに疲れた表情をしながらも努めて明るくいようとしてくれる彼に、今更申し訳なくなった私は「どうしても今日会いたいとか大人気なくてごめん……これ。よかったら食べて。」とすぐに目的を果たした。
『えー!ありがとう!めっちゃうれしい!今開けていい?わーすげー!うまそー!』
大したものはあげていないのに、いつも通りオーバーなくらい喜んでくれた。
続けて『毎年悪いね。仕事激務の時期にたいへんだから、もういいからね。』と言った。
彼の純粋な優しさだとわかっていた。
それなのに私は「一日中これでもかってくらいチョコ貰いすぎてうんざり?」と返す。
『そんなことないよ?』
「いいよ気遣わなくて。バレンタイン嫌いって言ってるのに、不機嫌で疲れたって言ってるのに、無理矢理呼び出してまだチョコ渡されなきゃならないの?って思ってるよね、ごめんね大人気なくて。貰っても嬉しくないものを私の気持ちだけで押し付けて。」
………
『……確かにさ。』彼が言う。
『確かに、貰ったよ。これでもかってほどではない、少し。でも、人間の嫌な部分がいっぱい見えて、おれは疲れる。こんなことなら義理チョコ文化なんかなくなればいいと思うよ。』
「…私はお返しとか求めてない。必要ないから。」
『そんなこと言わないでよ。どうしても今日って気持ちがうれしかったよおれは。』
「もう気が済んだから大丈夫。わがままに付き合ってくれてありがとう。」
こうして書いていると、我ながら何この態度と思う。
彼の一日を想像して勝手にイライラした私の八つ当たり。
そんなわがまま女を、今日の彼は見逃してはくれない。
『何なん。察してとかおれは無理だから。』
珍しく語気が強い。
『うんざりなんだよバレンタインも女も。めんどくせえ。
ほしいものがあるなら先にそう言え。お返しで人を量るな。
お返し目当てにチョコなんか配るなよ。ひまなの?そう思わない?
姉さん(私)に言ってるんじゃないけど。』
……
『…ごめん。でも、来た時からなんか言いたそうだよね?濁さないではっきり言って。結論から言って。』
結論から言って、か。
私のめんどくさい過程や言い訳や感情論は一切いらない、と彼は言っている。
いつだって私のめんどくさい部分に寛容なのは、彼の優しさと我慢と努力。
いつも平然とやってくれるそれらができないくらいに彼は疲れていて不機嫌で、そうなると彼はこうも男だ。
「…別にいい。もう用事済んだから帰っていいよ。」
やっぱり私は変だった。
彼も私もひどく疲れていた夜だった。
To be continued.
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