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七夕の夜に 2

ネイビーのラバンは街中をトコトコと走って、街の中央の小高い山のふもとの駐車場に滑り込んだ。
駐車場から一の鳥居を超えて、石段を莉帆と並んで歩く。
七夕のお参りはカップルが多いのかもしれない。まぁ、恋愛成就の神社でもあるし、デートスポット的にも人気があるのは知っていた。
石段の途中で莉帆が私をおいて、トントンと登っていく。このあたり若いな…と思ってしまう。
24になる私には、仕事終わりにこのペースはしんどい。石段を駆け上がるより、マイペースで石段を登っていった。
「おねぇちゃん。早く早く…」
残り4~50段位の石段で莉帆の声に正面を見上げる。先に登り切った莉帆が振り返って手を振っていた。
見あげると莉帆のプリーツのミニスカートは下から覗けてしまっている。
私は、あわてて石段を登り切った。
少し息が上がる。
「莉帆、スカート短いんだから…もう少し気をつけなさい。」
「えつ、ほかに人いないし…男の人いたら気をつけるよ。」と舌先をチロつと出して笑う。
「そういうことじゃなくて…女の子は常に意識するもの…」
「でも、男だもん。」とここで男アピールするのかよ。
ニヤニヤしながら話を続ける莉帆。
「それとも、お姉ちゃん覗いて見ていたの?今日の下着は、何色だぁ?」
「覗かないわよ…覗かなくたって、苺のショーツは何時でも見れるし…」
「あぁ~。やっぱり覗いてる。」と笑った莉帆の笑顔に私は心が和む。
中学の時に虐められていた経験の莉帆が、こんな風に笑ってくれるようになったのはうれしいものだった。

カーン
鐘の音が響く。
莉帆と一緒に鐘の音の方を向く。
地元じゃ縁結びの神様で有名。
恋人の聖地として恋人の鐘が設置され、カップルで鐘を鳴らす人もいる。横に南京錠がかけられるようになっているのは、二人は外れない…という、ご当地あるある。
そんな鐘をならしているカップルが見えたし、莉帆と二人顔を見合わせて笑う。
互いに、『後で鐘ならそう』と言っている気がした。
莉帆が私の手をとり、歩き出す。
「あっ、七夕の短冊飾りがある。ねえねえ、お姉ちゃん短冊書こうよぉ」本殿手前横に短冊が吊るされていた。
「後でね。先にお参りしなきゃ」
そう諭すと、私は本殿に向かった。
莉帆も一緒についてくる。
本殿で、お賽銭を投げ込み、一礼二拍手…
横で莉帆も丁寧にお祈りしている。

(この子とずっと一緒にいられますように…)

なんか、無意識にそんなことを祈っていた
良縁に巡り合えるように…とお祈りする人も多いと思う。
まぁ、私の場合は既に莉帆と巡り合えてるから…縁結びはほどけないように…という気持ちだけを大切にしたいかな。

莉帆はどんな願いをしていたのだろう…
私と同じなら、嬉しいとも思える。

二人でおみくじを引いたところ、私のおみくじは小吉。
心静かに過ごし流れに身を任すこと。されば全て良き行いとなる。
恋人 迷うことなかれ、良き人は側にいる。
まあ、恋人は側にいる…ということで私の側にいるのは、莉帆だけなのは間違いない。

「お姉ちゃんは何が出たの」と私の手の中にあるおみくじを覗き込む莉帆。
「小吉…莉帆は?」
「大吉。」してやったり…という、どや顔で答える莉帆が可愛い。
「見せて」
「ダメー見せない。」
「減るものじゃないし…」困った顔をしながら、小声で呟いたけれど、莉帆の耳には聞こえていたようだ。
「ご利益が減っちゃうもん。」
そう言って、莉帆が境内のはずれの枝におみくじを結び付ける。
手の届く範囲の枝は他のおみくじでいっぱいであり、結ぶところが残っていない。
少し背を伸ばして高い場所の枝に括り付ける莉帆。
「莉帆。パンツ見えてる…」プリーツのミニスカートは少し動くとショーツが覗いていた。これが、わが弟かと思うと、こっちが恥ずかしくなる。
「もう、お姉ちゃんたら…また覗いてるの?」
「じゃなくて…女の子はもう少し行動に気をつけなきゃ…」莉帆は生まれて17年。本格的な女の子としての生活を教えてきたのは、ここ2.3年である。
もともと、他の男の子とは性格も行動も違っていたし、心の底は女の子だったのだと思う。それでも、男としての喜びと女の子としての喜びを、同時に感じられる莉帆は、時々行動がぎくしゃくしてしまっている。
それが治らないと、将来生きづらくなるのじゃないかな…なんて心配しながら、ちゃんとした躾をしなきゃと思ってしまう。
「できた。ねえ、さっきの短冊に願いを書こうよお。」
そういうと、小走りに社務所に向かう莉帆。

短冊を目の前に、しばらくフリーズしている莉帆。
「何?」
「いっぱい書くことあって、どれにしようか悩む」ペンを持ちながら真剣に悩んでする様子。
「もっと可愛くなれますように…とか?」私はそう言いながら莉帆の顔を見る。
「それもあるかな…お姉ちゃんはなんて書くの?」
私は無言で短冊に書き込んだ。
『莉帆がずっと笑顔でいられますように…』
書き終えると、莉帆と目が合った。
「それは大丈夫だよ。だって、お姉ちゃんいるから♡毎日楽しいもの」
「そう?まぁ、それなら…」
話の途中で莉帆が短冊にペンを走らせた。あたしはその一字一字をじっと見ている。
『お姉ちゃんのお嫁さんになれますように…』
「はぁ?莉帆はお婿さんじゃないの?それ、お願いする?」
「良いでしょぉー。ウエディングドレス着たいしぃ」
莉帆のウエディングドレス姿を想像する。確かに可愛いかもしれない。
ちょっとニヤケてしまう。
「じゃぁ、私がタキシードなの?」
「お姉ちゃんもドレス。二人でドレスの結婚式♡」
確かに、最近じゃ同性婚でドレス二人の結婚式があるのは知っている。
そんなイメージなのかもしれない。
でも、男と女でドレス…なんか理屈じゃ頭の中、こんがらがってくる。
しかも姉と弟…のドレス姿(笑)
まあ、それも莉帆となら楽しそう。
「短冊、付けに行くよ。」莉帆がそう言って、短冊が並んでいる場所に向かう。
『莉帆がずっと笑顔でいられますように…
そして、ずっとそばにいてくれますように…』
横に書き足して、私は莉帆の横に短冊を吊るした。
「あぁ~増えてる。」莉帆が笑いながら指さした。

二人で恋人の鐘を見上げると
「いつ、せーいの…」と莉帆と言葉をあわせて鐘を鳴らした。
莉帆の笑顔につられて、私も笑ってしまう。
莉帆が横に並んでいるハート形の南京錠にかかれている一言を眺めながら手にする。
【いつまでも一緒だよ…】【結婚します】【また、二人でここにこようね】【○○love】そんな文字が並んでいた。
「これ、外れないよね…ハート可愛いな…」
「そうね…」
私は、ハートの南京錠を見ながら、一瞬莉帆を拘束することを考えていた。
後ろ手に鎖で拘束し、身動き取れない状態で…
もしくは、首輪を外せないように…
歪んだ弟への愛情が私のドロドロとした欲として頭の中を駆け巡っている。
そんな私の考えに気づいていない莉帆が私の手を握った。
ビュースポットとして少し開けている場所まで、手を繋ぎながら歩いた。
眼下に広がる街並みをボーと眺めている。
平野に続く街並みは遠く霞んでいた。
というか、東の空がうす暗くなっている。
神社自体がライトアップの灯りがあったので、あたりはうす暗くなりかけていたことに気づいていなかった。
間もなく夜になる。
頬を抜ける風が心地良い。
二人は無言で街並みを見下ろしていた。
「お姉ちゃん…ありがとうね。」
「何が?」
「お姉ちゃんが、お姉ちゃんでいてくれて…あたし、幸せだよ。」
そう言って、莉帆が私の頬に唇を近づけた。
ちゅ♡
「もう…」私はそれだけ言うと、莉帆を抱き寄せハグをする。
辺りを見渡すと、たまたま誰の人気もない。
私は莉帆と唇を重ねた。
「あ…ぅ」一瞬こぼれた莉帆の声を塞ぐ。
柔らかい唇…
近づく足音に二人離れた。
「えへっ」
「うふふふ…」
どちらともなく、目と目で笑いあった。


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