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スリップ図鑑・第四回(復活編)

今回はふと思いついて、復活編と題してみました。廃止されたスリップが、思わぬ形で活用された事例です。(尚、私は呑気に書いていますが、出版社にとっては由々しき事態であり、全く笑えない話であることをお断りしておきます。)

一年半くらい前の話です。ちくま新書の一冊として『スーパーリッチ』という本が出ました。ところが発売直後に「不備」が発覚し、回収(= 即返品)扱いとなりました。一度店頭に並んだ商品が(売り切れではなく)全国一斉に、姿を消したことになります。

こういった事例は、実は、それほど珍しいことではありません。理由は様々ですが、参考文献の記載不備や、付録の欠陥(雑誌等)といった、関係各所、とりわけ購入者に著しい不利益が生じる場合に起こります。他方で単純な誤植ならば、重版時の訂正等で処理され、回収には至りません。

今回の原因は、5行前後に渡る本文の欠落でした。重大ですが、内容不備ではないため「絶版」扱いではなく、刷り直す(= ニ刷)ことでの修正・訂正となりました(下記画像は公式 HPより)。 

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とはいえ、既に流通してしまったわけですから、良品と不良品が店頭で混在する事態を避けねばなりません。現場で書店員が作業する際の区別も必要となります。

ここでスリップが登場しました!版元が二刷の本にスリップを挿むことで、目印としたのです。ちくま新書のスリップは随分前に廃止されていますので、書店としては分かりやすい措置だと思いました(ただ、発売されてすぐに購入したお客様が気付くかどうか。又、ホームページ等で交換対応について掲載しても、どこまで伝わっているか。など、問題は残りますが)。

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ちなみに、元々のちくま新書のスリップは白でしたが、赤い用紙での「復活」でした(上の画像参照)。

それを見て思い出したのですが、「スリップの色を変えることで不良品と良品を区別する」ということ自体は、昔からありました。なので今回、筑摩が「発明」したのではありませんが、スリップレスの時代だからこその「使い方」と言えるでしょう。

もう一件、ご紹介。

スリップの写真はありませんが、中公文庫でも同様のケースがありました。2020年9月に発売された、柚月裕子『盤上の向日葵』(下巻)に誤った表記が多数含まれていたのです。この時も初版(スリップレス)は回収となり、訂正した二刷以降の商品には薄ピンクのスリップが挿入されていました。

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ちなみに、「誤表記」の内容は非常に珍しいものでした。将棋が題材の小説で、本文中頻繁に駒の記号が登場します。先手と後手を白と黒で表記しているのですが、なんと100箇所以上もの誤りが判明したのです。

これには驚きました。将棋に詳しくないと一見では分かりませんし、不運?なことに上下巻のうち片方だけの誤植でした。人気作家で、かつ文庫です。相当な部数ですが、下巻のみ速やかに回収し、訂正版のみを流通させなくてはいけません。ここでもスリップが目印として活躍したわけです。私の立場では、スリップにこういう使い道があるのかぁ、ふむふむ、などと考えるだけです。その一方で、関係者が顔面蒼白になったであろう場面を想像すると、恐ろしさに震えてしまいます。(画像は公式サイトより)

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本日はここまでです。最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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