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スリップ図鑑・第3回

久しぶりとなりますが、第三回。今回は中小取次を利用している出版社のスリップをご紹介いたします。

その第一段は、「夏葉社」と「港の人」という出版社、そして「JRC」=(旧人文・社会科学書流通センター、正式社名「株式会社JRC」)という取次会社です。(↓下の写真です)

微に入り細を穿つコーナーですので、一社ずつ今後も続いていく予定。

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まずは取次会社についての前置き(=復習)から始めましょう。

出版業界では、トーハン、日販(=日本出版販売)、楽天ブックスネットワーク(=旧「大阪屋栗田」)という「大取次・総合取次」の3社で殆どのシェアを占めています。

数字としては、この大取次3社で8割以上になるかと思います。このあたりの業界話については、内沼晋太郎著『これからの本屋読本』(NHK出版、2018年)をぜひ参照してください。

ちなみにですが、皆々様(note を含めて)ネット上で本の紹介をされる機会がありましたら、リンクには Amazonよりも「版元ドットコム」の利用を是非是非オススメいたします。市場の公平性を考慮すると、せめて Amazon 単独は避けて下さると、リアル書店員の一人として嬉しいです。

ただ今回に限っては、著者の内沼さんが「note」でなんと全文を無料公開されていますので、下記を参照することができます。

https://note.com/numa/n/n37a46621e875

本題に戻りましょう。取次会社の話です。小規模な出版社の場合、大取次とは契約(= 口座開設)をしないで、中小取次または専門取次と言われる会社と取引をしている例が割と多くあります。

その場合でも、実際には「仲間卸」という取次会社同士での流通が可能となっており、ほぼ全国どの書店でも購入することができます。ただし、出版社→ 小取次→ 大取次→ 書店、という経路を辿りますので、ルートの分だけ時間は余分にかかります。

それでは、スリップの写真を見ていきましょう。

まず、ボウズ(=上端から飛び出している半円)の部分に「JRC」という文字が印刷されている点が特徴です。これは、発注者とは異なるスタッフが現場で品出し・返品作業をする場合などに、一目で「扱い注意=大取次ではない」ことが分かるようにしているのだと思われます。

次いで、「主役」である書名が中央にどーんと記されています。何と言っても、どの本が売れたのかパッと見て分かることが大切。スリップ束を手にした書店員に「売れたよー!」とアピールしてくるわけです。(少なくとも、私はそう受け取っています。笑)

そして、タイトルの右側に出版社の名前が位置しているのが目立ちます。

注目はその下。再び「JRC」の文字と、電話・FAX 番号が記載されています。さらに一番下を見ると、こちらには出版社の電話・FAX 番号番号が書いてあります。この、ダブルでの記載が最大の特色です。その意味するところは、スリップを見てすぐに追加発注をする時など、「どちらに出しても良いですよ」ということです。

というのも、電話注文不可(=FAX のみ受付)であったり、「注文はすべて取次へ」という出版社も(ごく一部ですが)あるからです。文句を言うわけではないのですが、時と場合によっては、電話で出版社に在庫確認だけして、それから FAX で取次会社に発注、という手間がかかることも・・・。

最後になりますが、上部に本のジャンルが表記されているのも特徴になります。これは端的に、出版社から書店員へのメッセージですね。

①商品の入荷時。取次の倉庫で箱詰めされた段ボールにはあらゆる書籍が混載されますので、開封したスタッフが頓珍漢な仕分けをしないように、という役割を果たします。「ビジネス書っぽいタイトルだけど、私は文芸書です。間違えないで!」という具合。

この場合ですと、本そのものをパラパラとめくって判別することも出来るので、あくまで補助的な任務となります。それ以上に役立つのは、

②実際に本が売れた後です。(上記の写真を例にすると)佐藤文香『君に目があり見開かれ』が売れました。タイトルで文芸書だというところまではすぐに分かったとします。ただ、スリップだけでは(=現物が見られないので)はて、小説だったかエッセイだったか、いやいや短詩型だったはず、でも短歌だったか俳句だったか、・・・、そこまでは覚えてないな、という思案を経るところが、即座に「正解は句集(俳句)でした」と判明するわけです。素晴らしい!

③しかも、振り仮名まで書いてあるおかげで、電話注文の際には「サトウフミカさんの○○は在庫ございますか?」といった恥をかかなくて済むのです。何という親切心でしょう!とても助かります。

今回はここまで。「だからなんなんだ」という声も聞こえてきますが、「これぞミクロストリアではないか!」とうそぶいて終わりといたします。読んでいただき、ありがとうございました。


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