「きっと導かれている、そうと気づかぬだけだよ」

「偶然の出会いって信じるかい?」と」聞かれたときに僕は「信じる」と答えるタイプだ、これは特にバー探しやお酒に関してもその傾向が強く、自分の「あ、ここ良さそう」でフラっと一見のお店に入ることも多い。

今日はそんなお話。

3年前の年末、僕はお休みを利用して東京に遊びに来ていた
高速バスで朝方に東京に着いて、日中にお目当ての観光も済ませてホテルで少し休憩してから東京のバー巡りへ向かう。

いつもは特に当ても無くフラフラしながらお店を探すのだが、この時は実は目当てのお店は決まっていた。
大阪のバーテンダーさんから「東京の新宿に僕を上回る(技術の)変態バーテンダーが居る」と聞いたのでそこを目当てに行くことにしていたのだ。

そのお店の名前は「Bar ベン・フィディック」

新宿の歌舞伎町とは反対側にある薬草系のお酒にとても造詣が深いお店でマスターも非常に面白い方だと伺っていたのでそれを楽しみに夜の新宿へ繰り出した。

表に大きな看板も無くビルの中のお店なので探すのに少々苦労したが、見つけた
このビルだ

さっそくドアを開けて「すみません、一人ですが大丈夫ですか?」と聞くと、どうも満席のようで同じビルにある系列店でお待ちいただけますか?と言われた
出鼻を挫かれた感じもあるが予約を入れなかった自分が悪いので仕方ない、そこでしばらく待つか・・・
と向かった先は同じビルの中にある「Bar B&F」というお店。

入ってみるとそこも繁盛しているようだったが、運よくカウンターの一席が空いていたので明るいが非常に礼儀正しいマスターの案内で滑りこむことができた。
さて、この「Bar B&F」は全国にも珍しい「フルーツブランデー専門店」とのこと
この時点で僕はブランデーというものはブドウのブランデーしか飲んだことが無く、どちらかというとウイスキーが好きな人間なので「フルーツブランデー」と言われてもリンゴの「カルヴァドス」やイタリアの「グラッパ」の名前を知っている程度だった。

それに「とりあえず本命のお店までの繋ぎだし軽く飲む程度にしよう」と思っていたのでそこまで気持ちも入れずに「じゃあカルヴァドスで軽めに炭酸入りのカクテルをお願いします」とオーダーした。

カウンターだったのでマスターのカクテル作りを見ていたのだが、すぐに目を見張った

動きが凄く綺麗なのだ

派手さは無いがそれだけで「腕が良い」と思えるぐらい惚れ惚れするぐらいの所作で、カクテルを作っていく・・・
出されたカクテルはリンゴの爽やかさが口の中に広がる非常に美味しいもので、その一杯で「このお店とマスターが好きだな」と思えるくらいだった。

そのあとはアルマニャックを使ったサイドカーを頂き、ブランデーのお話を少しづつ聞かせて頂いていると、「パーリンカ」というハンガリーのフルーツブランデーがあると教えて頂いた。

パーリンカとはハンガリーで作られるフルーツブランデーで、果物を発酵しそれを蒸留することで作られるブランデーで非常に香りが良いものだと伺い、このお店にあるということなので早速カシスのパーリンカを頂くことに・・・

専用の少し形の変わった小さいグラスに注がれたパーリンカは透明な色をしていた、これはウイスキーのように樽で熟成するのではなく金属製の樽で作られるからとのこと。

一口飲んでみると・・・

衝撃が広がった!

飲み口はすこしドライな感じなのに、鼻から抜ける香りが濃縮された「カシスそのもの」なのだ、目を閉じて香りを嗅げば目の前にカシスがあるのではないかと錯覚するんじゃないかと思うぐらいに果物の香りが豊かなのだ。

こんなお酒が世の中にあったとは・・・
いやはや、偶然とはいえお酒の世界とは広いものだ・・・

それ以来、僕の中に「パーリンカ」という一つのジャンルが確立された

しかし残念ながらこのパーリンカ、現在日本で飲めるのはこのマスターが神楽坂で独立してやっているお店でしか飲むことが出来ない様子


でも、そこにわざわざ足を運んでも飲む価値のあるお酒だと断言できる。
それほどまでにあのパーリンカは一度飲んだものを魅了して止まない魔力がある、東京の神楽坂にあるそのバーの名前は

「Bar パーリンカ」

非常に小さなお店だが、日本で唯一の「パーリンカを専門に扱うバー」だ

今でも東京に遊びに行った時には必ず立ち寄るお店で、なんとマスターはハンガリー政府から任命された「パーリンカ騎士団」の一員、お酒に関する知識は深く、バーテンダーとしての腕も一流なことは僕が保証する。

また、マスターは「良いお酒には良い服を着せてあげないと」というポリシーがあるらしく、カクテルを出してくれるグラスがどれも非常に綺麗なのも目にも嬉しい。

まだまだ日本では知る人の少ないハンガリーのブランデー「パーリンカ」
これを読んで少しでも興味を持ったら神楽坂に向かうのも良いだろう。

そこはまさに「フルーツの園」
様々なフルーツやそれを使ったお酒と非常に礼儀正しく楽しいマスターが出迎えてくれる、自分の知らないフルーツブランデーの世界と綺麗な所作で作られるカクテルの世界に是非とも酔って頂きたい。

パーリンカとマスターの松沢さんとの偶然の出会いに感謝を。

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