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首筋のセクシーゾーン

髪の毛を洗うのはいいけど、乾かすのが大嫌いだ。いや、嫌いじゃない。面倒くさい。面倒くさいから嫌いだ。だがしかし、その面倒くさいを凌駕することがある。

地元の夏のお祭りだ。

毎年、そのお祭りにむけ、年明けから髪を伸ばす。肩を越え、肩甲骨近くまで伸びた髪をアップにし、お気に入りのかんざしや自作のつまみ細工の髪飾りをぶっ刺し、豆絞りをつけ祭りに出る。盛大に楽しむ。

お祭りの時期だけ集合するメンバー。かれこれ10年経つが、一年に一度の逢瀬でも、昨日も話してたかのような違和感のなさ。今年入った新人さんには「今どきのコ」対応で褒めて伸ばすを心がける。しかし何をどーしても褒める箇所がみつけられないこともある。リズム感、音程の欠落である。20年以上その体で生きてきて、なぜ向き不向きが自分でわからんのだ。なぜそれでお囃子に入ってきたのだ。本人も辛いだろうがこちらも辛い。しかしそういう子に限って、めちゃくちゃ一生懸命練習するもんだからなんとかしてあげたい。でも見に来るお客様にとっては一生に一度しか見られないお祭りかもしれないのにこんなひどいものは見せられない。でも一度くらいは、と、隣に先輩がつき、すぐ後ろに交代要員がスタンバイし、屋台の下から先輩たちが声でリズムを取り伴走する。「もしかしたらこの子もこの経験が最後かもしれないしな」なんてことも思いながら(大体無理だと気づくからね。)涙ぐましい努力は報われてほしい。

そんなこともありつつ、10年来の方々とは一年分あったんじゃないかというくらい、笑って笑って笑いすぎて泣いて、悪口言って恋バナ聞いて、美味しくないごはんも美味しくなるくらい最高の時間を過ごす。

大人になってから真剣に練習して、どんどん上手になる新人さんを見ると、いくつになっても人って成長するんだなぁー。人に「教えてください」って言えて素直に吸収できることの大切さを再認識する。そして、祭本番の、お客様たちのキラキラした顔!私ごときが手を振っても最高の笑顔で手をブンブン振り返してくれる。夜空に灯るロウソクの光を見上げて「ご先祖様たち。今の日本はどうですか?あなた達の思い描いた日本、郷里になっていますか?今、私達は元気です。ありがとう。」「うちの犬たちー!ママはここよー!腹いっぱい食べて幸せに遊んでるかーい?」「大好きな馬たちー!元気に走り回ってるかー?」などと、騒がしい祭りの中で静かに一人、想いを飛ばす時間でもあり。無形民俗文化財という伝統の中にいると、過去から歴史を紡ぎ今があって、未来へつなぐ。日常があることのありがたさをしみじみ感じる。

そして祭期間終了と同時に、たくさんの想いと時間を共に過ごした髪の毛を、バッサリ切るのだ。それが私のルーティーン。なんなら一気に刈り上げまで行ってほしいのだが、大体の美容師さんは「本当にそんなに切っていいんですか?」と言ってヒヨってそこまで切ってはくれない。鏡を見せられては「もっと!」「もうちょっといってください」と言い続け生え際ギリギリくらいまでは切ってもらう。

首筋が顕になった髪型に、「急にセクシーになったね」と毎年言われる。(毎年なんだから見慣れろよ)パソコンなどしてる横から見た耳から首筋のラインや、ちょっと前かがみで首を伸ばし気味のときがそうらしい。かくいう私も、男性の首筋は大好物で、特に耳の後ろあたりのにほひをスンスンしたい。(突然のカミングアウト。)しかし、パートのおばちゃんに言われる。

「アンタ、首のとこから湿布見えてるよ。」

そう。祭のあとは満身創痍なのだ。肩は上がらないし腰は痛いし足もパンパン。年齢を重ねると共に復活には相当の時間を要するのだ。練習時期はもっと湿布だらけだったよ。。。連日の疲れで顔もヨレヨレ。。。今までは髪の毛が隠してくれていた真実が顕になる。

首筋がセクシーな頃、肩の湿布は見え、引いたアゴは二重なのだ。

愛おしい夏の終わりの恒例。


首筋のセクシーゾーン。

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