【即興短編小説】反転学校
中学生ヤンキーの大山は、教室の前のほうの席で教科書を読んでいた。
すると担任教師が教室に入ってきて、大山の教科書を取り上げた。
「こら、大山、また遊びもせず教科書なんか読んでいるのか?」
大山は教師を睨んで言った。
「センセイ、返してくださいよ。今から始まる授業に教科書は必要でしょ?」
「バカ者、学校はなんのためにあると思ってるんだ?」
「そりゃ、勉強するためでしょ?」
「おまえはそんなんだから、テストでいい点数しか取れないんだ。ほら、優等生の出来杉を見ろ。女の子たちと楽しそうに遊んでいるだろう」
教師は出来杉に言った。
「おい、出来杉。おまえの今月の目標を言ってみろ」
出来杉は教師のほうを振り返って言った。
「はい、教室でふたり以上の女子とキスすることです」
教室はどよめいた。
「おぉ~、さすが出来杉君だ。言うことが違うな~」
「ふたり以上の女子とキス、しかも教室でって発想が優秀だよな」
生徒たちはこのように口々に言った。
ヤンキーの大山は言った。
「けっ、やってらんねえよ」
教師は言う。
「じゃあ、帰れ帰れ。学校で真面目に遊べない奴は来るな。どこへでも行って、勉強していろ。将来、出世しても知らんぞ」
大山は思った。
「くそ。センコーの言いなりになってたまるか」
大山はスマホを取り出した。
教師はそれを見て言う。
「なんだ?大山、今度はスマホで勉強か?」
「違うっすよ。エロ動画見るんすよ」
「本当か?」
「中学生がエロ動画見ちゃいけないんすか?」
「いや、おおいに結構。よ~く見なさい」
大山はスマホの中は教師に見えないと思い、ネットサーフィンで歴史について調べ始めた。
すると教師は言った。
「大山、音量は上げてるか?おまえはイヤフォンをしていないが、そんなんでエロ動画を見て楽しいか?音量を上げなさい」
大山は鞄からイヤフォンを取り出した。
教師は大山のそのときの反抗的な表情を見て言った。
「あやしいな」
教師は素速く大山のスマホを取り上げて、その画面を見た。
「こらぁ!なんだ、これは?古代ローマの政治体制について書かれたウィキペディアじゃないか。おまえこんなものをこっそりと見ていたのか?おまえは隙があれば勉強したがるな?もう、スマホは没収だ。教育に良くない」
大山はキレて教師に掴みかかった。
「返せよ。俺のスマホ。教師だからってそんな権限があるのかよ」
「ああ、ある。おまえをやりたい放題の遊び人にするのが先生の仕事だ」
「教師が勝手に俺の人生決めんなよ」
「なんだ?貴様は出世したいのか?」
「ああ、そうさ、出世してやるよ。おまえら教師の思うようにはさせねえんだよ」
大山はスマホを奪い返し、教室を出た。
「こら、大山、どこへ行く?」
「どこでもいいだろ?」
「まさか、貴様は、図書館に行くつもりじゃないだろうな?あんな不良の行くところにおまえは出入りするのか?」
「わりいのかよ」
「そんなとこに通って、お母さんは泣くぞ」
「知らねえよ。それに俺の母ちゃんは、大学を出てるんだよ」
「そうか、子が子なら、親も親だな」
すると、大山は振り返って、ダダダと走って教師に掴みかかり、拳を振り上げた。そして、相手の顔に自分の息がかかるほど顔を近づけて言った。
「おい、先公。もう一回言ってみろ?」
教師は胸ぐらを捕まれ、ズレた眼鏡を直して言った。
「ああ、何度でも言ってやる。親がろくでもなけりゃ、子もクズだな」
大山は教師の胸ぐらを掴んで振り回した。
「ああ?おまえが俺の母ちゃんのなにがわかる?てめえも大学出てるんだろうが」
「バカ者、だいぶ前に、学習指導要領が変わったのを知らないのか?革命だ。価値観の転倒だ」
「知らねえよ。そんなもん。俺はそんな学習ナントカに縛られて生きるのが嫌なんだよ」
すると、出来杉が割って入った。
「やめたまえ、大山君。君はなぜ、ひねくれて勉強なんかしようとするんだ?真面目に遊べないのか?僕たちは君が真面目に遊ぶのならば仲間に入れてあげるよ」
大山は出来杉を睨んだ。
「てめえ、俺は先公の言いなりになるてめえみたいのが大っ嫌いなんだ」
大山は教師から、手を放して大きな声で言った。
「おい、俺と図書館に行く奴、いるか?一緒に行こうぜ」
すると、細川という小柄な男子と、剛田という大柄な男子が立ち上がった。
「大山、俺も行くぜ。こんな学校なんかで遊んでられるかよ」
「俺たちの行く場所はやっぱり、図書館だよな」
こうして三人は教室を出た。
教室の中から、教師の叱責する声が聞こえた。
「そんなに勉強したいなら、勝手にするがいい!偏差値の高い高校に行って、大学を出て、いい企業に就職し、せいぜい出世しろ!今、遊べない者は、将来も遊べないぞ、わかっているのか?出世して世の中のためになることがどれだけ価値がないか、おまえたちはまだ若いからわからんのだ!いつか後悔するぞ。あのとき先生の言うことを聞いて遊んでいれば良かったと!」
(了)
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