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【小説】DOPPELGANGER

 エイジはマンションの階段を上がり鍵でドアを開けると、玄関に散らかった自身の靴をいくつか蹴り飛ばしてフローリングの床を滑るようにすり足で進んだ。
 多忙とは言え掃除の手を抜いている床は細かいゴミが散らばっていて、何を踏むか分かったものではない。先日は乾いたコメの塊を踏んだし、その前は乾ききった冷凍のコーン粒だ。乾いたそれらは薄い靴下を通しても痛い。剣道部だった事もあり、エイジは自然とすり足で部屋を歩く癖がついた。
 さっさと部屋の掃除をするか、業者を呼んで部屋を綺麗にしてもらう事を考えるべきだ。そんな事はわかっている。だが掃除も、業者を調べるのも、今は面倒だ。

 エイジはソファに座り込んでテレビを点ける。音を消した画面の中で、恐らく流行りの若手芸人が何かを大声で叫んでいる。エイジはそれが誰か知らない。ここ10年の芸人はみんな同じ顔に見える。芸人に限った話じゃないが、それは自分が歳を喰ったと言う事なのだろうとエイジは考えている。
 つまり、すでに立派な老害と言う事だ。
 うんざりするが、人生に於いて若者である期間は異様に短い。大半はおじさんの期間だし、そのおじさんの期間に於いて遅かれ早かれ老害をやる事になるのだ。エイジはそれが平均より少し早い、と言うだけだろう。
 同じ顔、か。今時の若者が同じ顔に見えるが、若者だってエイジと他のおじさんの顔に区別などつきはしないだろう。テレビはすぐに消してしまった。

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