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【小説】魔魔03~少年Aの場合~

 机の上を照らすライトが白い。
 小さなフォールディングナイフで机に彫っていく願いに影が落ちる。みんな死ねばいいのに、と思う。細かな不愉快さが募っていく。思い出す度に神経がささくれ立っていく。鉛筆で書きこんだ机の文字が光る。それをナイフで彫っていく。
 別に大したことじゃない。イジメと言うには甘い。だがイジリと言うには。
 悪意と嘲笑。
 削られていく机。細かな木片がたまっていく。鼻息で揺れる。開け放った窓から入る風が木っ端は部屋中に散らばった。
 それが公園の先にある墓地を越えたあたりにいると見たのを思い出した。
 インターネットで見た怪しい話だったけれど、神頼みよりはマシかも知れない。

 玄関でスニーカーを取った。
 夜中。家は眠っている。父親も母親も眠っている。
 机の上でスニーカーを履いて窓から外に出た。乾いた風が通り過ぎていく。とりあえずで手に持った呪詛を書き連ねたノートは無意味かも知れない。全員死ね、その願いは心許ないほどに軽い。
 真夜中の道は昼とは全然違う。道すら眠っているようだった。その道を時々通る車が踏んでいく。色んな家が眠っている道を歩く。まだ電気のついている部屋はまだ起きているのか、それとも今しがた起きたのか。想像のつかない生活や世界がある。
 派手な音を立ててバイクがが通り過ぎていく。紫色のスクーターはシートの脇に拡声器を下げて、そこから流行りの音楽を流していた。音は割れていた。
 道の反対側を老人が散歩していた。その老人が立ち止まり月を見上げる。つられて月を見上げてみる。黄色みを帯びた白い満月だった。

 公園の脇を歩いていくと底知れぬ怖さが背中を覆った。
 誰もいるはずのない深夜の公園と言うのが異質だ。そこを歩いている自分も異質だ。もっと言えば反対側を歩いている老人すら恐ろしい。今まで聞いた様々な怪談なんかを思い出して身震いした。
 街灯は頼りなく、次の街灯まで遠いのがまた怖かった。その先の墓地を通らねばならない、と思うと帰りたくなってくる。
 それでも、と呪詛ノートを握りしめた。
 その怖さを我慢してでも全員死ねばいいのに、と思うと足は止まらない。全員でなくてもいい、誰かひとりでも死んでくれたらいい。
 公園の横を通り抜けて墓地に差し掛かると夜風はいっそう冷たくなった。
 遮るものが無い道を細い風がどこまでも寂しそうに抜けていく。

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