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世界を旅したバックパッカーの、みゆきさんが北葛西2丁目の住宅地でやっている、ワールド感覚あふれるインディー系おそうざい屋さん。(木・金限定営業、朝11時開店売り切れ次第ごめんなさい。しかも不定休。)

西葛西・行船公園から西へ業務用スーパーマーケットのジェイソンの方へ歩いて、まったくの住宅地にあるジェイソンのその対面につましい住居があってどうやら総菜屋さんのようです。ぼくにとってはたいてい日が暮れてからジェイソンにFRONTERAの安赤ワインを買いに行くコースゆえ、みゆきやさんはいつも締まってる。店の窓には今月の営業日カレンダーと、エスニックふうの料理写真が貼ってあって。いったいどういう人がこの店をやっておられるかしらん、とぼくは興味を持つようになった。


たまたまきょう金曜日、めずらしく昼下がりに昼酒調達にジェイソンへ行った帰りに、好奇心に負けて、ぼくは店の引き戸を引いた。「こんにちは。お店を覗かせてもらっていいですか?」笑顔で迎えてくださったのがみゆきさんだった。DIY な手作り空間。テイクアウトがメインのお店ながら、カウンター2席もあって。時刻は午後1時半過ぎだったゆえショウケースのなかには、ヨーグルトマリネしてからオーヴンでローストしてある「タンドリー鯖」、「しらすとキャベツのフリッタータ(イタリアンオムレツ)」、「自家製醤油麹にマリネした鶏手羽のソテー」、「ヤムウンセン、春雨サラダ」などがあって。他にも多くの料理があっただろうけれど、売り切れてしまったことがうかがえます。しかも、各種パンは完全予約制ゆえぼくは食べることが叶わなかったけれど、すばらしい仕上がりの欧風パン各種が予約者の来店を待っています。壁には、どなたかの作ったかわいい手作りアクセサリーが格安価格で販売されています。





みゆきさんが好奇心旺盛で料理好きであることがすぐにわかります。ぼくは訊ねた、「他の日はなにをやってらっしゃるんですか?」みゆきさんは答えた、「わたし出張料理人をやってるんですよ。依頼をいただいた方のお宅に訪問して、ご希望の料理をわたしが作ります。今後は出張料理人になりたい人に、必要なことを教えてさしあげるようなこともやりたいな~とおもっています。」ぼくは言った、「なるほどね~、いいアイディアですね、だって店舗を構えて飲食店商売するのってギャンブルで、一日4万円売り上げるのでさえも大変ですものね。それに対して訪問料理人はみんなによろこばれてリスクも少ない。いいですね~。いったいどこで調理を覚えられたのですか?」みゆきさんは答えた、「ぜんぶ自己流です。」ぼくは驚いた、「パンの焼き上がりなんてプロ級じゃないですか!」みゆきさんは答えた、「ありがとうございます。あれね、れんこんパウダーで作ったパンなんですよ、もちもちの食感なんですよ。」ぼくはつぶやいた、「へぇ~、料理も世界各国にまたがっているし、いったいどんな人生を生きてこられたんですか?」





みゆきさんは答えた、「わたしね、学生時代からサーファーだったんですよ、バリとかハワイとか何か月も行ってました。それから旅そのものも好きになって、バックパッカーとしてタイ、インド、UAB(アラブ首長国連邦)、シリア、ヨルダン、トルコ、イスラエル、サウジアラビアのメッカなど行きました。」ぼくは驚いた、「へぇ、すごいな。あのね、ごはんてありますか? 定食作ってもらえませんか?」



みゆきさんは快く、盛り合わせ定食を税込み1000円で作ってくれた。ごはんは古代米と五分つき米のお赤飯ふう。そのまわりに前述の料理すべてと五種の豆のチリコンカンが盛ってあります。味つけは穏やか味で、料理好きの人がおかみさんであるところの民宿の料理みたいな感じ。さまざまな外国料理をアイディアにしつつもしかし着地点は〈ちょっぴりエキゾティックなニッポンのお惣菜〉になっています。




民宿の料理みたいと言う意味ははないはなしが、銀座ろくさん亭とか赤坂菊乃井さんとかまたはたまたアーンドラグループのラマナイア・シェフのような過酷な料理人人生を勝ち抜いて来た超絶料理人の料理の凄みはないけれど、しかしだからといってコンビニ弁当とかチェーンの弁当屋の自称「料理」、スーパーマーケットのそうざいに比べればみゆきやさんの総菜の方が一億倍すばらしい。なぜって、みゆきさんの料理には好奇心と冒険と善意と誠実があって、しかも化学調味料不使用で、味つけの調子に穏やか味のトーンが揃っていて、それがみゆきさんのお茶目な人柄とあいまって、それが好きなお客たちはみんなほのぼのくつろいでリラックスしてチルアウトした時間が持てる。みゆきやさんが北葛西のマダムたちのたまり場になっている理由もよくわかります。しかも、ぼくはまだ食べてないけれど、欧風パンの仕上がりは見るからにプロ級。おもしろいでしょ、みゆきやさんって。


おもえば旅は人をたくましくするもの。なぜって異国の地では人は履歴や帰属先や肩書や業績に頼ることができない。母語さえも通じない。誰と出会うかも偶然であり、そのとき会った人を信用していいかどうかの判断も自己責任。どこの国にもたかりもいればスリも置き引きもいる。もちろん女好きのスケベな男たちもまた。危険はいたるところにある。しかし同時に親切な人もおもいやりのある人もまたいるもの。さらには、そのときその瞬間、どうしても相手に好印象を与え、相手からの信頼を獲得しなくてはならないときもある。旅人はカタコトの異国の言葉、身振り手振り、笑顔、しかめっつら、ときには絵を描く。あの手この手でコミュニケーションをとらなければならない。しかし、そんな危なっかしい毎日にもしかしいつのまにか慣れてゆく。そりゃあ人間力が鍛えられるわけですよ。ぼく自身はチキンゆえみゆきさんのようなハードな旅をしたことはないけれど、しかしそれでもそんなぼくもみゆきさんの魅力の源泉を理解できるような気がします。


北葛西周辺住人でかつまたぼくのようなタイプの好奇心のある人にとってはみゆきやさんは心のオアシスでありえます。いくらか好みの分かれそうなお店だけれど、ぼくはみゆきやさんの世界が好きな人が好きだ。


東京都江戸川区北葛西2-8-10

090-2458-7034

西葛西駅より徒歩17分。
または船堀駅からならば、
都バス「西葛西駅行き」などに10分ほど乗り、
区立自然動物園前、
あるいはは北葛西2丁目下車。

ただし、木・金限定営業、不定休です。

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