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多文化主義はUKクラシック音楽を幸福にしますか?

ぼくは在日日本人であり有色人種の才能がスポットライトを浴びることをよろこびこそすれ、(原則的には)とやかく言うことはなにもない。ぼくは小澤征爾を尊敬し、小澤征爾と大西順子との共演に喝采を送り、内田光子の演奏にすげえな、とおもう。韓国にもすばらしいクラシック・ピアニストは多い。かつてZubin Mehtaがニューヨークフィルで振っていた頃はかれがインド系であることに好意を寄せた、ぼくはインド料理が大好きだから。 黒人ピアニスト Awadagin Prattを渋谷Tower Record で発見したときはぼくもアルバムを買い求めたものだ。


しかし、UKの首相が(東アフリカからUKに移住したインド系両親の下にロンドンの南西で生まれた)Rishi Sunak になる遥かにまえからUKクラシック音楽の世界はあまりにも絶讃多文化主義である。いまLondon Shimpony Orchestra の指揮者は、ヴェネズエラ出身の Rafael Payare(b1980)で、かれはMahler の5番を見事に振っていて、その音楽はすばらしい。またロンドンのブリクストンでインド人とジャマイカ人のハーフとして生まれたNadine BenjaminがPoggy and Bess を華麗に歌い上げるさまは感動的だ。


しかし、 ジャマイカ系英国人の Ayanna Witter-Johnson(b1980)が、UKクラシック音楽の殿堂バービカン・センターでPolice の'Roxanne'をチェロ弾きながら歌ったことを知り及び、ぼくは椅子から転げ落ちた。
https://www.youtube.com/watch?v=zZY6mMfqpW4
いいえ、 ぼくだってバーのプロジェクターで流れてるならばAyanna Witter-Johnsonを楽しく聴くでしょう、しかし、まさかあろうことかUKクラシック音楽の殿堂バービカンセンターである。


おもえばかつて アメリカの白人弦楽四重奏楽団 Kronos Quartet がJimmi Hendrixの Purple Haze を演奏したときはいわゆる硬直したクラシック音楽へ向けた皮肉と冗談があったもの。https://www.youtube.com/watch?v=4dE65iTuG4Yしかし、 Ayanna Witter-Johnsonの 'Roxanne'は悪い冗談だ。たしかに彼女のチェロ演奏は巧いけれど、やることが違うだろ。


いまや欧米の多文化主義は「ぼくたち白人はこれまで山ほどごめんなさい主義」に限りなく近づいていて。在日日本人のぼくとしても、広島、長崎をおもえばかれらが罪を認めた(?)だけでも評価に値するとはおもう。しかしヨーロッパ人にとってクラシック音楽はあなたたちの ēthos (文化基盤)ではないか。ジャマイカ系英国人がチェロを弾きながら歌う、夜の街でセックスを売る哀しい女の歌によろこんでる場合ではないはずだ。しかもPolice の原曲の方が何億倍もかっこいいぞ!


しかし、Ayanna Witter-Johnsonはみずからのおこなう挑発の可能性に賭け、Sting に倣ってバービカン・センターで堂々と歌いあげる、

Roxanne
You don't have to put on the red light
Those days are over
You don't have to sell your body to the night


ぼくはおもう、
たしかに Those days are over だ。
UKクラシック、終わったな。


Eat for health, performance and esthetic
http://tabelog.com/rvwr/000436613/

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