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あなたも(あの呪文のような)フランス料理名を読めるようになる。

「ウナギのグリエ(=グリル)、ウナギのジュとジャパニーズ・サケ・ソーテルヌ"ミリン"とソイソースを半量まで煮詰めたソース、そしてブレゼした暖かいライスサラダ、サンショパウダーの清楚な香りとともに。」
さぁ、みなさん、いったいこれはどんな料理でしょう?
あ、あああ・・・アホか、それ、ウナ重だろッ!


正解です! フランス人は料理名を、食材、加熱法、ソース(そして副菜)の構造で書かずにはいられません。「鴨のロティ(=ロースト)、オレンジソース」というふうに。「鱈のポワレ、レモンバターソース」というふうに。いいえ、たしかに例外はありますよ、たとえばポトフ。ブイヤベース。はたまたホタテの水泳(コキーユ・サンジャック・ア・ラ・ナージュ)。フライドポテトは新橋(ポンヌフ)なんて呼ばれますね。「じゃがいもの賢夫人(ボム・ファム)ふう」なんてのもある。ただし、どちらかといえばそれらは家庭料理~ビストロ料理です。


それに対してレストラン料理は、〈食材、加熱法、ソース〉の構造で料理名が書かれることが多く、かつまたシェフの料理を考えるときもこの構造で考えます。しかも、この加熱法がなんと十種類以上に細分化されていて、厳密きわまりない。


●グリエ 英語のグリル。グリルパンを用いて、焦げ目の筋をつけながら焼く。焦げ目がアクセントになって、赤味のレアに焼き上げた部分がいっそうおいしく感じる。


●ロティ(=ロースト) おもに肉の塊をオーヴンによる包み込む熱で焼き上げること。


●ソテー フライパンで強火で、炒める、中国料理の 炒 と同じです。


●ポワレ フライパンを用いて、おもに魚の切り身に、油をかけながら、皮目はカリッと脂を飛ばし、身はふっくらジューシーに焼き上げること。


●ラグー 煮込み シチューなど。強火で煮立てて、弱火でじっくり・・・


●ブレゼ 蒸し煮 鍋に肉の塊を入れ、ワインや煮汁など少量の液体を入れ、蓋をして、その鍋をオーヴンに入れ、蒸し煮すること。


●ブイイール 茹で煮。水煮、もしくはスープ煮


●フリール 揚げる。フライ。


●グラティネ(=グラタン焼き)あらかじめ茹でるか焼くかして調理したものをソースであわせ、
パン粉か、チーズを降って、焼き色をつける。


●ヴァプール 蒸す 鍋に蒸し台を置くなりして、
おもに魚を、水、もしくはだし汁、白ワイン、シャンパーニュなどで蒸す。


●エテュヴェ おもに野菜を無水調理で蒸し煮して、そのまま冷やしたもの。


凄いでしょ。さすがフランス人、明晰を重んじ理屈を詰めて詰めてゆきながらにじり寄るように狂気に至るって感じ? なるほど、このスタイルで料理名を書けば、料理はひじょうに的確に説明できて、便利で重宝ではあって。いかにフランス人が哲学だの構造主義だのが好きかがよくわかります。


しかし、ウナギのグリエからはじまるバカ長い寿限無をおもいだしてくださいな。たぶんたいていの日本人は「うな重」でいいよっておもうでしょう。インド人だってそうですよ、アル(じゃがいも)とゴビ(カリフラワー)でアルゴビ。日本人はもっとすごい、肉とじゃがいもで肉じゃがですよ。肉はなんだっていい。支那料理にいたっては、麻婆豆腐なんて豆腐と一緒にばあさんが登場しちゃって大事な挽肉は料理名から消えちゃってる。どこの国だって料理名は符丁ですよ、ふつうはね。


しかし、フランス人だけは違います。なにせ、明晰ならざるものフランス語にあらず、ってお国柄の人たちですもの。たしかに明晰ですよ、呆れるくらい。しかもこれだけ厳密に加熱法を分類するくせに、そんなフランス料理には1980年代まで〈蒸す ヴァプール〉が存在しなかったんだもの、笑っちゃいます。


その後ぼくはこんな記事を書いた。

Eat for health, performance and esthetic
http://tabelog.com/rvwr/000436613/

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