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サイゼリヤのロシア人給仕に、作家ブーニンを勧められた。

ぼくはサイゼリヤ神保町店で、給仕の青年にキャンティの赤、アスパラサラダ、キャロットサラダ、モッツァレラ、プチフォッカを注文した。かれの胸の名札にはディマとある。ぼくは訊ねた、Where are you from? かれは答えた、ハバロフスクです、わたしはロシア人です。


ぼくは言った、日本の近くだね。ぼくはね、ロシアの作家ではニコライ・ゴーゴリが好きだよ、絶望の底が抜けて笑ちゃうしかないって感覚。しかもあの理不尽に受難な人生!


ディマは微笑んだ、「わたしはいま太宰を読んでます、人間失格。」
ぼくは言った、「太宰は女にモテようともって文章を書いてるからね。いまだにおもしろい。あと太宰は、書き言葉としゃべり言葉のバランスがいいね。次は漱石を読んでください。」
ディマは言った、「ゴーゴリの他にロシアの小説はなにが好きですか?」
ぼくは言った、「チェホフも少し読んだよ。ドストエフスキーは苦手。あとね、ナボコフも好きだけれど、でも、ロシア人はナボコフ嫌いな人が多いよね」
するとディナは言った、「ドストエフスキーは読んで欲しいなぁ。また、ナボコフも良い作家ですけど、じゃあ、ぜひ同世代の作家、ブーニンも読んでください。」


ぼくはブーニンなる作家をまったく知らなかった。ぼくはかれともっともっとおしゃべりたかったけれど、しかし仕事中のかれをこれ以上引き留めることもできない。食後ぼくは東京堂書店でブーニンの本を探した。さすが東京堂、群像社という出版社から作品集が出ていて、何巻かを持ってらした。ぼくはそれぞれ開いて軽くつまみ読みをして、けっきょくぼくは3巻の『たゆたう春/夜』4巻の『アルセーニエフの人生 青春』を買った。『アルセーニエフの人生』はこんなふうにはじまる。「ものごとは、もし書き留められざれば、闇に覆われて忘却の棺にゆだねられるが、書き留められるれば、あたかも生けるものの如く・・・」どうです、この魔術的なふんいき、読んでみたくなろうというもの。他方、ディナはいま太宰の『人間失格』を読んでいるのね、そうおもうとおたがいのことが、なぜか奇妙におかしい。



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