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2023.3.16 大森靖子『超天獄ツアー』名古屋(Zepp Nagoya)

2023年3月16日。
私がずっと楽しみにしていた日にち。

なぜなら、敬愛する大森靖子さんのライブがあるからだった。しかも会場はZepp Nagoya。私はまだ、人生でZeppに行ったことがなくて、楽しみを通り越して少し緊張までしていたくらい。

私はこれまで、大森靖子さんのLIVEに友達と来たことは無かった。私にとってあまりにも大切な存在である超歌手大森靖子を、「分かってくれる」と思った友達に理解されないのが怖かったのだ。理解されないなら、教えない方が良い。落胆するくらいなら、期待しない方が良い。大森靖子さんのライブに通い始めて5、6年が経つが、必要以上に友達に布教しなかった理由がそれだった。

しかし、今回初めて、大学時代の友達に自分から声をかけてみた。ディズニーの映画やミュージカルで感動の涙を流すほど心の清らかな人で、なおかつ人に気遣いができる優しさがあり、頭も良い彼女。彼女なら、分かってくれるかもしれない。彼女が抱える生き辛さ、大森靖子なら救えるかもしれない。そう思ったのだ。

友達は二つ返事でOKしてくれた。とても休みが取りにくいお仕事なのに、休みも取ってくれた。

私も彼女に超歌手大森靖子の世界に没入して楽しんで欲しくて、プレイリストを作ったり、曲の解説をしたりした(余計なお世話)。

12月に名古屋と大阪のライブが延期になった際、大森靖子さんはインスタライブをやってくれたのだが、それを見た友達はとても感動したみたいだった。中でも『マジックミラー』を気に入った様子。

そうして今か今かと待ち望むこと3ヶ月…

ようやく名古屋でのライブ当日だった。

会場の外には、アルバム『超天獄』のジャケット写真に使用されている"超天獄の輪"が存在感を放っていた。私たちはもう、超天獄に足を踏み入れているのだった。

超天獄の輪

私たちの席はF列。Zepp初心者の私はF列というものがどれくらいの位置づけなのか想像がつかなかったのだが、到着してびっくり。めちゃくちゃ近い!しかも運良く、真ん中のゾーン。さらにさらに、私たちの前の2席はなぜか空席。背の低い私には嬉しい、超良席だった。(空席がある、というのは演者的には悲しいことだけれど…)

バックドロップには大きくて目を引くピンクの超天獄の文字。ステージの上で待っているナナちゃん。ようやくここに来られた。私たちのセーブポイントへ。

バックドロップ

入場時に配られる、会場ごとのナナコレシール。今回はこちら。

ナナコレシール

大森靖子整いマップ2の特典もしっかりゲット。

ちなみに私は、友達に作ってもらった「せいこちゃん」の文字入りの痛ネイルをして、ナナちゃんスウェットを着て、ペンライトの電池も確認し、やる気満々である。

せいこちゃん痛ネイル

友達とそわそわしながら待つこと数分。
19:00。
暗転。

轟くようなベースの音が会場に響き渡り、空気を引っ掻き回す。いつもの大森靖子のライブとは違うことをもう既に見せつけてくる。

『VAIDOKU』でスタート。

ステージ下手から、大森靖子さんの登場。顔は髪で隠れて見えない。まるで何かを引きずるように蠢きながら歌い出す靖子ちゃんを見て、頭がぷるぷると震えた。私は毎回毎回、靖子ちゃんに会えたという感動だけで泣いているので、もうこの時点でテンションはぶち上がり。気付けば両目に涙が滲んだ。

『VAIDOKU』が終わると、隣で友達がハンカチを取り出し、目頭を拭いていた。それだけでとても嬉しかった。1曲目から泣いてしまうほど泣き虫な私たちなのだった。

『VAIDOKU』に引き続き、『ひらいて』『魔法使いは二度死ぬ』と、『超天獄』のアルバム曲を次々と魅せてくれた。

私は、『魔法使いは二度死ぬ』のモデルになった"何の役にも立たない超かわいい棒"を作っているmillnaさんという作家さんが大好きで、なおかつ『魔法使いは二度死ぬ』の歌詞が大好きなので、「やって欲しいなぁ」という願いを込めて、millnaさんの作品である"カミソリレターブレスレット"を着用して来ていた。

カミソリレターブレスレット

「音楽をやれってことだよ」

人生をかけて、全身を使って音楽をやって届けてくれる超歌手大森靖子の覚悟をよく表している曲なのだと思う。

そして代表曲『ミッドナイト清純異性交遊』。
それまでは数人しか立っていなかった客席が、バッと一斉に立ち上がる瞬間は気持ちよくもあった。桃色のペンライトが揺れるこの場所で、私もアンダーグラウンドから靖子ちゃんの指まで届いているのだろうかと思うと切なくなる。

ギターを持った靖子ちゃんが、「皆様の人生をお見せします」と言った時、「来る…!」と思った。ギターをジャカジャカと引っ掻き回す。友達が聞きたがっていた『マジックミラー』だ!

思わず私は自分の右手に持っていたペンライトを、友達の手に押し付けた。今日この曲は、この子のために歌われるのだ。
「この歌あたしのこと歌っている 気持ちいい」になって欲しかったのだ。

念願の『マジックミラー』を聞けた喜びで再び涙を流す私たちを休ませる暇なく、『生 kill time 4 you、、』『子供じゃないもん17』と、ポップなミュージックへ。

そして「感謝したくなってきませんか?」のMCで、みんながカチカチとペンライトを緑色にチェンジ。『×○×○×○ン』の時間だ。声出し解禁したからこその盛り上がり方だった。この曲を楽しみにしてきたオタクもいるのではなかろうか。

その後を繋いだのはMAPAの『蒼夜ミルキーロード』。今回のツアーはコーラスとしてMAPAの宇城茉世さんが参加しているので、今回のツアーならはでの選曲である。ステージ上でスカートを翻しながら舞う2人のシルエットと青い照明が美しかった。

『VOID』『アルティメット♡らぶ全部』と続き、「もう1回ヤらせて」というシャウトが響き渡る。どちらも女の子のヒリヒリした感情がむき出しになる曲で、オタクたちのペンライトの振りにも力がこもっていた。

続いて再びMAPA曲『怪獣GIGA』。強くて弱くてでも強い、涙を隠して笑う怪獣の咆哮。新しい曲なのでライブで見たのは初めてだったが、これは没入して聞いたら心を持っていかれると思った。

そして静寂の中でアカペラでの『ファンレター』。静寂すらも自分のものにするのが大森靖子なのである。『ファンレター』を全て歌いきることはなく、『ドラマチック私生活』へ。まよちゃんとのガトーショコラに関するセリフのやりとりも楽しませてくれた。

しかしその後に続いた『えちえちDELETE』から、どこか空気感が変わった。『夕方ミラージュ』へと繋がり、女の子の時間、妻の時間、母の時間、私だけの時間へと導かれる。

そして「猛れ 猛れ 猛れ…!」の囁き。
『Rude』だ。
『Rude』が大好きな私は息を飲んだ。

「綺麗なだけじゃ 価値は無いさ 猛れ 猛れ 猛れ」

今日この日までボロボロに生きてきた私が、ここでようやく肯定される。私事だが、大学を卒業した去年の3月から今年の3月まで、本当に全てがうまくいかなくて辛い1年間だったのだ。そんな泥臭くて綺麗に生きられない私が、ここで大森靖子によって抱きしめられるのだった。涙が溢れて止まらないままバンドメンバーと超歌手が立ち去り、終焉。

なんて盛大な終焉なのだろう。

席に座って落ち着いて、涙を拭って平気なふりをしているうちに、すぐにアンコール。

sugarbeansさんがピアノに座り、「さんはい!」の掛け声で、客席全員での『オリオン座』が合唱だ。

前回この『オリオン座』合唱をしたのはもう何年前のことであろうか。まだマスクなんてしていなくて、私も楽しい大学生で、まさかその数年後にこんな世界になるなんて思ってもみなかった頃。

コロナ禍になってから、私の人生は転落した。(私の転落人生は今に始まったことではな無いが)

大学に通えなくなり、せっかく手に入れた学生生活を半分奪われ、居心地の悪い家に閉じ込められ、まわりの人達がどんどん成功していく中で私だけ就職も決まらず、挙句の果てには治ったはずの鬱が再発。アルバイトすらまともに行けない身体と心になってしまった。

本当に辛かった。悲しかった。悔しかった。

でも泣くと母親に、「コロナで辛いのはアンタだけしじゃない」と怒られた。それはまるで、「お前だけじゃないんだから我慢しろ」と言われているようで、もはや呪いだった。

だけど靖子ちゃんだけは、「私が」辛かったという気持ちを見つめてくれる。「みんなが」じゃない、「私が」辛かったかどうかが大事なのだ。

『オリオン座』を歌いながら声が引き攣った。でもちゃんと歌い切りたくて、必死に息を整えた。それでも涙が溢れていく。

「血を流すこと 平気なるなと 抗った」

そうだよね。私、辛かったよ。別にその気持ちを無理矢理無かったことにする必要ないよね。辛かった。悲しかった。惨めだったよ。情けなかったよ。

でも今日ここにいて、今、靖子ちゃんと歌っているよ。

今日までなんとかやってきて本当に良かった。ここまで続いた先の見えない暗闇に、ようやく光が刺した気がした。そう思わせてくれる、今までで最高の『オリオン座』だった。

もう一度立ち上がり、『TOBUTORI』『超天獄』でアルバム曲を続け、このツアーの集大成を見せてくれた。

コロナ前までお決まりだった「靖子が1番かわいいよ」「お前が1番かわいいよ」のやりとりから、『絶対彼女』。このやりとりも数年ぶりにやることができた。オタクたちの声も嬉しそうだった。

そうして最後に持ってきたのが、『最後のTATOO』。

手拍子をしながら心地よいグルーヴ感を生み出し、会場が1つになった。「大森靖子!」と叫ぶ姿はまさに超歌手。この会場は、超歌手大森靖子が作り上げた、最高の超天獄であった。

ライブが終わり、Zeppを出た帰り道、私と友達は「あぁー」「いやぁー」「ああぁー」と繰り返した。物凄いものを見せつけられて、言葉が出なかった。

友達はとても感動してくれたようで、「1曲目から泣いてた」とのこと。「また機会があったら誘っても良い?」と聞くと、「ぜひ!」と強く頷いてくれた。

分かって貰えないことが怖くて、誰にも見せてこなかった"大森靖子"という宝物を、彼女に見せて本当に良かった。彼女は私の宝物にベタベタと触らず、「わぁ、綺麗だね」一緒に見つめてくれる人だった。そんな友達がいることに、改めて幸せを感じた。

私にとってこのZeppツアーは、間違いなく忘れられないものである。もうすでに、次の現場はいつだろうと考えてしまうくらい、脳内が大森靖子で埋め尽くされているのであった。

自分の書いた言葉を本にするのがずっと夢です。