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芹沢怜司の怪談蔵書「6.殺意の小刀」

 ガラガラガラ

 おや、帰ってきたようだよ。今回あの本を読んだ誰かは筆を執れたのかな。私も死ぬ時には本を読んで、できれば内容をこの世に残しておきたい。

 ああそうだ。つい先ほど知人からの電話があってね、明日の夜に本と曰くつきの小刀を持って来るそうだよ。そういうわけだから次は呪われた小刀の話をしよう。
 この話はどの本にも載っていない。私が独自で入手したある犯罪者のメモ用紙に書かれていたものだ。

【殺意の小刀】

 この俺が人を殺したなんて誰が信じるだろう。俺は自他共に認める穏やかな気性で、何をしても怒らない仏のような人だと称えられてきたのに、どうして……どうして家族を皆殺しにしてしまったんだろう。
 逮捕されるのも時間の問題だ。もちろん逃げも隠れもしないが、この小刀だけは隠さなくては。これは……呪われた小刀だ。

 全部全部全部こいつのせいだ!

 小刀を拾ったのは地元のお城跡地だ。有名ではない大名の居城で、相当な歴史好きじゃないと名前に聞き覚えはない。俺も歴史に興味を持つまではまったく知らなかった。
 歴史物に大ハマりしてからは各地の有名なお城を見て回った。有名どころを制覇した後に、そういえば地元にも跡地があったなと思い出して訪れたのが全ての始まりだ。

 前日に雪が降ったせいで人はいなかった。濡れてぐちゃぐちゃになった土に足を取られながらもお城があった場所に到着し、写真を撮ったり僅かに残った城壁に触ってみたりして楽しんでいたら、ふと、視線を感じた。

 振り返っても誰もいない。なんとなく写真を撮ろうとカメラを構えた。別に何かが写るのを期待したわけではない。本当になんとなくだ。
 ファインダー越しの世界は薄暗い。なのにハッキリと分かった。ほんの少し、土が盛り上がっている箇所があった。普通なら気付かない。場所を教えても見つけられない人は見つけられないだろう。それぐらい微小な違いだった。

 靴先で土を掘ったら小柄の一部が見えてきたので引っ張り上げる。
 
 小刀だ。

 土の中にあったにもかかわらず錆一つなく綺麗な刃文がある。最近作られたもので誰かが落としたのだろうか。

 警察に届け出よう。そう思って最寄りの交番に行こうとした。

 行こうとしたのに……俺が向かった先は我が家だった。

 道中の記憶はない。意識をなくしているような感覚だ。

 足元に転がっている家族の体。執拗に喉を裂かれている。

 俺ではない! 俺がやったんじゃない! そんな叫びを口にしても許してくれる人はいない。
 分かるのは全ての原因が小刀にあるということだけ。これは元の場所のもっともっと深いところに戻さなくてはならない。そこら辺に投げ捨てて誰かに拾われると同じ惨劇が起きる。



 少しだけ、落ち着いてきた。メモはこのままでいいだろう。べつに誰も信じないだろうし。キチガイの作り話として処理されるだけだ。


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