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じいちゃんに届け!線香の香り【小説 1204文字】

祖父が亡くなった。

私にとっては
お義父さんだった方。

大好きな祖父が
他界した事がショックだったのだろう。
しばらく小学生の息子は
落ち着きがなかった。


私と違って、身近な人の死を
受け入れる事は、まだ難しいだろう。
しばらく様子を見る事にした。

四十九日が終わったが、
それでも、息子の表情は
まだ少し暗かった。

まもなく1回忌になる頃
息子が
「オレ、じいちゃんに線香買いたい」
と言った。

もちろん、1回忌には
参加するし、線香なら持っていっても
迷惑にもならないだろう。

早速買いに行く事にした。
娘をベビーカーに乗せ
スーパーへ向う私に
「ママ、線香は巣鴨で買うんだよ」
と言う息子。

多少戸惑ったが息子は
テレビで、巣鴨にお年寄りが多いのを見て
線香は、そこにしか売っていないと
思ったのだろうか。

スーパーにも売ってると
言いかけたが、せっかく息子が
祖父にプレゼントを送るのだから
納得の行く所で買わせてあげたい
と思い巣鴨に行く事に決めた。


電車で巣鴨へ向う。
テレビで見た事がある商店街に、
私は少しテンションがあがっていた。
一方、息子は真剣な表情で
商店街を見つめていた。

買い物前に
とげぬき地蔵尊 高岩寺へ向かい
洗い観音では、
「ばぁちゃんが、
腰が痛いって言ってたよね」
と言いながら息子は、
お地蔵様の腰を懸命に拭いていた。

周りから、「偉いね」「良い子だね」
との声が聞こえたのだろう、
少し息子は照れているように見えた。

しばらく商店街を歩き
線香のある店を探した。

思っていたよりも
食事所やお土産、
おしゃれなカフェやパン屋が多かった。

それでも何店舗か見ながら
息子の納得のいく線香を見つけた。

財布を出した私に息子は
「オレがじいちゃんに買う」
と言い、ペリペリと音をたてて
財布を広げ、お札を差し出した。

店の人も笑顔で対応してくれて
私は少し目頭が熱くなっていた。


1回忌も無事終わり
親戚の方々も皆帰って行った。
私達は、泊まっていく事になっていたので、お義母さんと夕飯を食べながら
お義父さんとの思い出や
子供達の様子などの話題で
盛り上がった。


私が食器を片付けていると
息子がお義母さんに
「じいちゃんに線香あげていい?」
と買ってきた線香の入った袋を見せる。

「もちろん。じいちゃん喜ぶわ」
お義母さんの笑顔。
私も娘を抱き、一緒に仏壇へむかった。

ロウソクに火をつけていると、
ゴソゴソと息子が
紙袋から買った線香を取り出す。


『リラックマ線香  2つのおいしい香り
(ホットケーキの香り、
トロピカルジュースの香り)』

見た事もない線香に
キョトン顔のお義母さん。
わかります。
私も見つけた時に
同じ顔しました。

そんな顔の2人を尻目に
箱をスライドさせて私達に
線香を配ってくれた。

お義母さんが息子を
抱き上げ、1番最初に
線香に火をつけてくれた。

紅く火の灯った線香を供える
手を合わせる息子。
私達も線香に火をつけて
線香を供えた。


甘いホットケーキの香りに
包まれて、みんなで笑った。

きっとお義父さんも
笑ってくれただろう。

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