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彼女の弁当【1804文字】 #呪いの臭み #毎週ショートショートnote 


こちらのロングバージョンです。

彼女in俺 #呪いの臭み #毎週ショートショートnote  


文化祭の後、ずっと好きでした。
と彼女から告白された。

まっかな顔で必死な感じがして
オレは木にうれしかった。

少しぽっちゃりめの
静かな印象の彼女は眼鏡と
黒髪ロングヘアーが似合う
可愛い子だった。

俺に彼女が出来た。
しかも、彼女は料理が得意で
俺はがっしりと胃袋を捕まれてしまった。

彼女と過ごす時間は凄く楽しかった。
彼女は、俺の事を一番に考えてくれた。
そんな彼女を大切に愛おしく思った。
「ずっと2人でいよう」
と、お互いの額を合わせながら言うと
彼女は、真っ赤な顔になった。

俺に抱きつきながら
「ずっとずっと一緒だよ」と
言う彼女が可愛いかった。

料理上手な彼女は、
毎日弁当を作ってくれた。

俺のリクエストも聞いてくれて
どれも美味しかった。
煮こみハンバーグ、黒ごま衣の唐揚げ
混ぜご飯のおにぎりなど、
毎回工夫してくれて
バリエーションも多かった。

健康を気遣って、ひじき煮が
毎回入っているのが嬉しくて
特に美味しかった。

大学が別々になったのを機会に
同棲を始めた。
痩せて綺麗になっていく彼女。

食事は彼女が、朝食、弁当、夕食
すべて用意してくれた。
夕食にのイカスミパスタで2人の歯が
真っ黒になって、笑ってしまった。

俺が料理を手伝おうとしても、
「私が作ってあげたいの。
食べてくれるのが凄く嬉しいの♡」
と可愛く言われてしまった。

喧嘩もなく、同棲は続いていたが、
ある日、TVでみた女優を俺が可愛いと
言ったら彼女が怒ってしまった。
つい女優の髪型が可愛いって
言ったんだよと誤魔化したら、
彼女は安心したようだった。

ただ、次の日家に帰ってきた彼女は
昨日の女優と同じ
柔らかいウェイブヘアーで、
髪色も明るくなっていたのは驚いた。

黒髪も似合っていたが、
痩せてスタイルも良くなった
彼女は、このヘアスタイルも
よく似合っていた。
結局、俺も彼女にベタぼれ状態だった。

翌日から、弁当の中身も
唐揚げや、ハンバーグの色が
明るい色に変わっていった。
ただ毎回入っていたひじき煮が
きんぴらゴボウに変わった。

日々だんだんと、彼女の束縛が
強くなってきた。
コンパはもちろん仲間たちとの
飲み会に参加しても、
彼女が迎えにくるようになった。

相変わらず作ってくれる料理は
美味かったが、弁当を待って行く事を
断ってから、しつこく朝食と夕食は
家で食べてと強く言われるようになった。

俺の口にするものは、全部自分が
作りたかった。と言う彼女に段々と
管理されている様な感じがして鬱陶しく
思ってきた。
束縛の強さにも、うんざりしてきた。

俺から別れたいと伝えた。
喧嘩になったが、俺の気持ちは
変わる事は、なかった。
喧嘩した夜、俺は気まずくて
友人宅に泊めてもらった。

翌日、夕方に部屋に戻ると
ショートヘアの彼女がいた。
机の上に弁当箱が置かれていた。

彼女は、俺に気づくと
「ずっと貴方の中にいたのに」
そう言って手渡された弁当箱は
いつもより重かった。

「最後にお弁当作ったの。私との
思い出に食べてほしいの」
彼女は涙を浮かべながら俺に言った。

「最後」という単語に俺は、
自分から別れを告げた罪悪感で
弁当箱を受け取りテーブルに置いた。

弁当箱を開けると
いつも以上に、張り切って作って
くれたのだろう。俺の美味しかったと
言ったおかずが詰まっていた。

ロールキャベツも、大きめな唐揚げも
どれも美味そうだった。
目の前に座った彼女は、
俺の事をじっと見ていた。

彼女の視線を受けながら
ハンバーグに箸を伸ばす。
口にいれると、いつもの味で安心した。

俺の食べる姿を見て
彼女に笑みが戻った。
「ありがとう」
そう言った彼女の瞳が潤んでいるのに
気づいた。

ロールキャベツを噛み切ると
違和感を感じた。
歯に何かが詰まった感じがする。
半分になったロールキャベツを
弁当箱に戻し、片手で歯に挟まった
何かを掴むと取り出した。

俺の指はウェーブのかかった明るい
髪を摘んでいた。

俺は彼女と指先に絡む髪を交互にみて
彼女が作る料理の意味を知った。

俺は今まで
呪いの臭み漂う料理を食べ続けていた。

「細かい髪の毛って、消化されずに、
ずっと胃に刺さって残ってくれるんだって」
笑顔で呪いの言葉を紡ぐ彼女は、
うっとりとした表情で俺を見ていた。


【毎週ショートショートnote】『ショートショート書いてみませんか?』お題発表!9/17|たらはかに(田原にか)



#呪いの臭み  
#毎週ショートショートnote

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