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互いしか知らぬジョークで笑い合うふたりに部屋を貸して下さい / 野口あや子

野口あや子さん。彼女に出会って初めて歌人という職業を知った。
短歌って平安時代の文化でしょう、57577のルール遵守な難しい文学でしょう、と思っていた私の無知さよ。

アクリルの白いコートを汚す雨 好きってそういう意味じゃなかった

これは彼女が10代の時に詠んだ歌。

まず共感した。大人になるとウールやカシミヤのコートを選べる私たちだが、あの頃は確かにアクリルのコートを着ていた。汚れないよう大切に着ていた白いコート。せっかくめかし込んで出かけた日に、「好き」な人とかみ合わなくて泣いてしまった少女を想像すると胸が痛む。冬の雨なんて悲しすぎるよ。

そしてアクリルという言葉。平安時代には無かった単語だ。彼女の歌にはメール、マカロン、椎名林檎といった平成令和時代の言葉が登場する。この歌に出会って、私は短歌が自由な文学であることを知った。全然古臭くないじゃん。

他にも現代的な言葉が登場する歌を書いておこう。

ネクタイを留めた指から蝶々が湧きでるような恋だったこと
焦点の合わぬレンズの輝きのようなあなたに会いにゆきます
互いしか知らぬジョークで笑い合うふたりに部屋を貸して下さい

ここに書ききれないくらい好きな歌が沢山あるので、また記事にしたいな。

野口あや子(のぐち・あやこ)
1987年岐阜県生まれ、名古屋市在住。
「未来」短歌会会員。2006年、「カシスドロップ」にて第49回短歌研究新人賞を受賞。第一歌集『くびすじの欠片』にて現代歌人協会賞を最年少受賞。ほか歌集に『夏にふれる』『かなしき玩具譚』『眠れる海』、詩人・三角みづ記との電子書籍に『気管支たちとはじめての手紙』。作品ほか散文、コラボレーション、朗読、レクチャーなどジャンルを超えて活動を行なっている。

※彼女の書いた歌(ミュージック)の歌詞も見てみたいので、タグつけとこ
#いまから推しのアーティスト語らせて

私は作品を通じて「生きながら生まれ変われる」ことを証明したいのです。そのためには「命のありか」と「心のありか」を解き明かさなければなりません。2020年は自分の子宮の音を録音する予定。いつか子宮コンサートを開きたい。頂いたサポートはそれらの研究費用とさせて頂きます!