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Vの宴2023かんそうぶん

(※極めて個人的かつ不確かな記憶を手繰り寄せて書いたものになります。ご了承ください。)






Intro


雨は降らなかった。

快晴というわけでもなかったけれど、去年のようなずぶ濡れでの入場とならずに済んだことをまずは喜んでいた。

煌々と賑やかな川崎の街、どちらにしろその夜空には、星の瞬きなんて望むべくもない。


開場1時間前に現地に着くと、既に想像を遥かに超える長さの列が出来上がっていた。

前回は開場直前まで2列とかだったのに……と悲喜こもごもの感情をこねくり回しながら、4列目に合流する。

見覚えのあるTシャツ、キャップ、サコッシュにキーホルダーにリストバンド。

どこを向いても目に入ってくるそれらが、地図も看板も見なくたってここが目的地だと教えてくれていた。


背の高いDJさんが観客の脇を通り過ぎるのを横目で追ってから、今日のタイムテーブルを改めて確認する。

自分にとって一番の目玉は、WHITEの欄を隙間なく埋めるあの人たちだ。

前回と違って、全員の名前を知っている。

どんな音楽を作っているかも幾らかは理解しているつもりだったけれど、「どんなライブをするか」は知らない出演者が多かった。


けれど不安とか心配とかそんな感情が浮かんでくることは掛け値なしに一度も無くて、ただ期待だけが大きく大きく膨らんでいた。

胸に溢れ返るそれを少しも遠慮する必要がなかったのは、それだけでとても幸せなことのような気がした。






OPEN


開場後、greenとredで酒を1杯ずつ飲む。

greenのブース奥に慌ただしく運び込まれる脚立に既視感を覚えて、1人で笑っていた。

階段の上も下も良い音楽で、加えて今の自分にはたくさんの曲がこれと分かって、これでようやく宴を楽しめるかなと思ったりした。


日付が変わると、鼻息を荒くした観客たちが、すし詰め状態だったエントランスからステージ前まで一気になだれ込んだ。

white内のバーカンが開いていないのを確認し、この高密度なTTのどこで補給するか頭を悩ませつつ、人の波に乗る形で比較的前方に身を置く。

それからは「楽しみ」の他は何も考えずにフロアに突っ立っていた。


そしてついにこの部屋でも、長く短い宴が始まった。






TAMU


「あの」アタック映像が流れ出して、瞳孔がぶわっと広がるような感覚とともに、足元から頭のてっぺんまで鳥肌が立つ。

自覚すらなかった2022の鮮明な記憶が皮質の奥深くから溢れ出して、この曲を大好きだって気持ちとせめぎ合い、ひとつに合わさって目頭を焦がしていった。

いっぺんには処理できない感情の奔流をどうにか押し返そうとして、気づけば両手をステージに伸ばして歓声を上げていた。


TAMUさんの1発目が「chantして!!!!!」だったことがあまりに嬉しくて、手加減しながらじわじわ温めてこう、なんてこれっぽっちも考えてない選曲に思いきりノっかった。

聴きたかった曲ばかりが続いていき、早くも全力で叫んで、跳ねて、最後は「Step up Super Star!!」で〆……と思いきや、おかわりの2曲。

「Stellar Stellar」に「Sky High」は急遽間に合わせたと言うには完璧すぎる、少なくとも自分にとっては120点の回答だった。

VJさんもこれにピタリと合わせられるのは、まさに職人芸だ。






haju:harmonics 


次のアクトのことは——、申し訳ないが、ほとんど覚えていない。

いや。確かにhajuさんの歌を聴いていたのだけれど、どうしてもあれを現実の記憶として取り出すのが難しい。夢だと言われた方がずっと容易く受け入れられる。

あの時、あの空間、あの姿とあの音を言葉で?無理だ。怖くてできない。


——そうだ、怖かった。怖いくらいに緻密で、耳が痛くなるくらいの音量を浴びせてきているはずなのに静謐で。

あの場所がクラブという特殊な空間でなかったら、もしhajuさんがあの日たった1人の演者であったなら、きっと19分の間息をすることも許されなかった。

それほどに気圧されていて、緊張にのぼせた思考をまとめようとした頃には、彼女は既にその美しいパフォーマンスを終えていた。


後になって、今回がhajuさんにとって初のライブだったと知った。

そのときは思わず笑ったとも。今から次が楽しみでしょうがない。






YSS


続いてはYSS。生でライブを聴くのは丸1年ぶり、前回のVの宴以来だ。

昨年に引き続き出演しているライブアクターは僅か4組、その1がこのユニット。それだけで窺える部分がある。

そして間違いなく、その期待を裏切らないアクトだった。


1曲目の「Beyond Our Dreams」。

ひとつ前の出演者が誰であっても通る気がする曲。一息で会場の空気を掴み、観客を巻き込む魅力がある。

2人を好きになったきっかけであり、同時に一番ライブで聴きたい、ノりたい曲でもある。

全人類、現場で一緒に踊ってみて欲しい。めちゃくちゃ楽しいから。


全体としてはここ半年の間に発表された楽曲中心のセトリで、前回からの変化を見せつつも「YSS」の良さをはっきりと押し出していく。

増していく激しさ、力強さ。それでいてどこまでも爽やかなサウンド——。

YSSの好きな部分がたっぷり詰め込まれた、幸せな時間だった。






長瀬有花


そして次は長瀬有花さんのターン。俺は「fake news」の半ばで、水分とカフェインを摂りに抜け出した。

驚くほど穴のないTTで、どうしてもどこか1枠、必ずいいものと分かっているそれを犠牲にしなくてはならない状況に唇を噛み、歩きながらも軽くリズムを取り続ける。

スクリーン上でマイクを握って揺れ踊る姿の可愛さに後ろ髪を引かれつつ、熱気のこもったフロアをあとにした。


バーカンの列はwhiteの入り口付近まで連なっていて、結局10分ほど耳と手足を休めることになってしまった。

早く戻りたい一心で、会計にお礼を言ってプルタブを上げるなりレッドブルを胃に流し込み、歩きながら空き缶を短パンのポケットに突っ込んでwhiteの最後列に再度合流した。


ようやく画面に目を向けると、ラス曲「宙でおやすみ」が耳に流れ込んでくる。

ついさっき飛び出したときとは様変わりした、心地よく緩み切った空気が漂うフロア。

歌いながら腕をふわり、優雅に揺らす姿に見惚れながら、音に全てを預ける。会場全体が幸せのベッドにもたれかかる。


優しいのは確かで、けれどあの日はただ労わるだけではなかった気がする。もっと染み込んで侵し溶かすような、音の粒に意識を削られるような。

CITTA’の環境と相まってそんな、いっそ攻撃的なほど優しすぎる音楽になっていた。

もう少しお酒と疲労が入っていたら俺も寝かしつけられていたかも知れない。うん、入れておけばよかったかな……。


(長瀬さんは翌日の夕方に別の次元での出演があり、そちらはフルで見ることができたので、それで今回の口惜しさの分を幾らか賄えた気がして……ない。やっぱり離れたくなかった。喉の渇きくらいあと4時間は我慢できたんじゃないですか……?)






ワニとコウモリ


5組目はワニコーだ。ワニとコウモリ。

ワニコーのライブも1年ぶりで——翌日(当日)大騒動なのに、彼らは何故このTTに載ってるんだろう。ありがとうございます。

オープニングから実に巧いというか、どうすれば俺たちがアガるかを熟知しているというか。


ゲストも入り乱れて最高の連続。somuniaの聞いたことないくらい舞い上がった声が、会場の狂気を帯びた盛り上がりを裏付けていた。

高坂さんの命を削るような、感情をそのまま音にするような歌い方が心臓にぶっ刺さっていて。

どうしてか、俺は残りの記憶の大部分をあの弾けるような、幸福な日曜日に置いてきてしまったらしい。






龍ヶ崎リン


龍ヶ崎リンさんの1曲目は「Twilight Stream」。

彼女の1st singleで、chillにアクセルを踏み込んでいった。

彼女について事前に知っていたのは「歌が良い」ということくらいだったのだけれど、その一点すら理解が遠く及んでいなかったことを初っ端から思い知らされてしまった。


MZMの「Bite me.」でゆったり揺れたかと思えば、somuniaとの「今夜はブギー・バック」でさらに深い夜へと引き摺り込まれていく。

こんなに甘く流れる時間の中を、こんなに楽しく、燃え上がるような心で泳いでいけるものかと思いながら、肺を絞るようにして深く、深くため息を吐いた。


高く積まれたブラウン管テレビ、壁に浮かぶネオンサイン。

どこか切ないムードの溶け込んだその光を背景に、たった4曲で「龍ヶ崎リン」をこれでもかと食らわされてしまった。






そして、ここで折り返し。






somunia


後半戦の一番手であるsomunia。彼女が本当にやってくれた。


アタックが開け、視界に飛び込んできたのは数世代前の某RPGゲームのような画面。可愛すぎるアバターがトコトコと「かわさき」を歩き回る。

既に何かを察して笑い混じりに歓声を上げる観客たち。ベッドに腰掛けたほんのり解像度の低い彼女は、その期待を裏切ることなく歌い始める。

あれだけ導入で遊び倒してからの1曲目、そりゃもうキマっていた。


次曲「Connected World」も大好きな曲で、正直卒倒してもおかしくないくらいテンションが沸騰した。

映像の演出も相まって、somuniaが「somunia」としての影をどんどん濃いものにしていく。

彼女がいるのはスクリーンに映る画面のさらに向こう側。だというのにあのフロアにおけるその存在強度は増していく一方だった。


ただ、そう。

whiteの全ては直後、崩壊した。






「「INTERNET YAMERO」」






そのイントロがほんの僅か、まつ毛の先ほどまで顔を覗かせた瞬間から、0.1秒。

全身を巡る血液は跡形もなく蒸発し、研ぎ澄まされた聴覚と視覚以外のすべての神経が焼き切れ、オタクたちの欲求は理性というしがらみから一切解き放たれ、脳が現実を受け入れるより先に腹の底から雄叫びを上げていた。

何を言ってるんだと思うかも知れないけど、これが実際にこの両目に映った、マジでアツくてヤバい光景だったんだ。分かるか?分かんないよな。いいんだ、あれは俺たちだけのものだから。


この曲はドラッグで、ODで身体が壊れるのは明らかで。でも今のシーンにおいてこいつにしか開けない扉があるのも確かだった。

somuniaは間違いなく、それも躊躇いなくインターネットの天使となり、或いは元々天使だったのかも知れないけれど、刹那あのフロアには1000人近い規模の宗教が開かれてしまった。

思い切りはっちゃけた映像の中で踊り続ける彼女。ゲストの「twinkle night」のとき以上に熱に浮かされた彼女の声が、フロアを隙間なく埋め尽くし、共鳴するようにオタクも声を張り上げる。

この最高のインターネットをやめるなんてあり得ない。一瞬だって、手放したくない。だから叫んで叫んで叫んで叫んで、もっと——。






続く「Wish」の幻想的な、宙を漂うような浮遊感。

さらにgaburyu氏の「ウォーターマーク」cover。

これ以上ない良い音たちが丁寧に丁寧に、だらしなく解けた灰色の糸を撚り合わせていく。


そして「last night」、その柔い指先が鼓膜を揺らして、彼女の声に初めて触れた夜とこの夜とがひとつに繋がる。

終わらない宴はない。

嫌というほどそれを分かっていて、それでも願わずにはいられない。

手を、伸ばさないわけには。






yosumi


時刻は2:50。

ここまでの質の高いアクトの連続に痺れながらも、深呼吸をして気合いを入れ直す。


yosumiの出番だ。


サコッシュからリストバンドを取り出して、手探りで装着する。

また現場で使えるとは。それだけで嬉しい。


交代からあまり間を置かず、彼女独自のオープニングが観客の瞳を青く照らし出す。

毎度のことながら美しい景色に、「yosumi」の世界へと観客の心が攫われていく。

黄色い光を投げ返して、お前のファンがここにいるぞと見せつけながら、1曲目。

そうだ、1曲目だ。


「for good(VIP)」。

リリースから1年と少し経った冬の時分、彼女が出演した暴年WHATS。

あの夜asiaを混乱の渦に陥れたあのアレンジver.が、ここで再び日の目を見ることになった。






————ああもうほんっと、最高だよ!!


オリジナルに心臓を鷲掴みにされた。

彼女の声に、[ahi:]の音に心底惚れ込んだ。


そんな曲が、この「宴」に絶好の装束を纏って現れたんだ。そりゃアガるし、叫ぶし、飛び跳ねるさ。


ド派手かつ爽やかな4つ打ちに同期して、弾んでいく鼓動。

酸欠の脳みそなんか知らん顔で声を絞り出して、指の先が焦げ付くくらいに全力で手を振り続けた。






次、そう次だ。

まだ終わりじゃない。

たった1曲で彼女のターンが終わってたまるか。MCなんて二の次の最高かつバカみたいなセトリを組むキョンシーだぞ。


前曲に浮足立った俺たちの心に、氷点下の刃を突き立てるようにして、まずは「Rebellion」が始まった。

とにかくデカい音で聴きたい曲の一つ。本人もそれを分かっているのだろうか、ライブでもしばしば選曲され、その度に洗練されていくようで。

フロアに差し込む荒々しい光の束が、低音に揺れ、銀色の歌声に乱反射して、視界を埋め尽くしていった。


続く2曲「synerzy」「syzygy」。急ハンドルで最大級のkawaiiをぶつけてきた。

ここまで音圧に圧倒されていてまともに堪能できなかった彼女の生きた姿を眺めながら、ポップな曲調に体を浮かせる。


今まで見られなかった振り付けが何ヶ所にも加えられていて——は?何これ。めっちゃかわいい。

腕くるくる回すとことかヤバくない?さっきまでバチバチにかっこよく歌ってた人がやっていい動きじゃなくない???

そんな思わぬ感情の発作に胸を締め付けられながらも、なんとかリストバンドを振りかざし続けた。


yosumiの立っているステージ。四方を囲む無機質な打ちっぱなしが、彼女の実在を印象付ける。

whiteのスクリーンと彼女の背中のスクリーンの二層構造が面白いくらいに機能していて、「そこにいる」にも関わらず瞬きの間に消えてしまいそうな、美しい輪郭を帯びた蜃気楼が踊っているかのような、そんな不可思議な景色だった。






19分。

それは彼女がこちら側の世界に影を落とすことのできる、限られた時間。

そんな時間の最後に、あの曲を響かせてくれてありがとう。


彼女の音楽を、「yosumi」という世界を誰よりも大切にしているのは本人で。それはファンとして本当に、何より幸せなことで。

だからこそあれほど優しくて暖かい曲をこの宴の夜に歌ってくれて、ありがとう。

これ以外にはなかった。そう思わせてくれて、ありがとう。


「for good」に始まり、「parabola」で終わる。

こんなにも激しく、贅沢で、楽しい時間をくれて。


心の底から、ありがとう。






BOOGEY VOXX


この日の宴は、一つ大きなイベントを内包していた。

今考えても仄かに鬱屈とした気持ちが湧いてくる。本当に嫌だ。


BOOGEY VOXXとしてのラスト出演、それが2ヶ月も前から分かっていたのにまだ受け入れられない。

いや、本当はもう飲み下してるんだ。ただ嫌だ嫌だと駄々をこねる、彼らを好きな自分に陶酔してるだけだろうに。

本気で、そう思ってた。最後までそれを信じたままだったらどんなに楽だったか——。






本日8回目のアタックが流れ出し、これが言葉にならないくらい良いムービーで、たった15秒の後、一瞬音が止む瞬間には、歓声を上げながら、会場の全員が同じ方向を向いていた。

見逃すわけにはいかない。少しだって聞き漏らすまいと耳を澄ます。


2人がスクリーンに現れると同時に、曲がかかる。

Fraさんの呼びかけに応えて、観客はステージとの距離をギリギリまで詰める。こんなに隙間があるなら最初からもっと前行ってくれよとは思うけれど、違うんだよな。多少無理をしてでも近づきたくなるよな、そりゃあさ。

だって今から流れるのは他でもない、今日オープンからさんざん期待させられてきたこの曲なんだから。


『Y'all, y'all, y'all!!!』

whiteに立っていた誰もが、腕を掲げて高らかに叫ぶ。

このライブが持つ意味、そんな余計なことはあとで考えれば良い。2人の声が痛いくらいに背中を叩いてくれたから。

だから俺たちはひたすらに、前だけを見つめようと決めて声を張り上げた。


続いてCiちゃんが「Bang!!」を歌いだした辺りで、もう口角が上がったまま縫い付けられてしまった。

あまりに容赦のないラインナップに妙な反骨心が芽生えて、こんなところでヘバってたまるかと尚更アツくなる。

爆発する感情で理性のリードを断ち切り、隣でこれまた笑顔になってる連中と息を合わせてこの世で一番デカい歓声を返していく。


彼らの音を生で初めて聴いたのも、ほんの1年前のあの日。振り返ってみれば大した時間も経っていなくて、これだけ熱くなっといてそんなものかと自分でも呆れてしまう。

けれどその1年は特別なんだよ。今までぼんやりと過ごしてきた22年、そのどれとも明らかに違う1年だった。月並みだけれど、本当に生まれ変わったような気分だったんだ。

そう思わせてくれた人たちの名前の中に、【Fra】と【Ci】の2つも確かに刻まれていて、だから、だからさ。






「Never Run Away From Love」「ラブリースタンプデリバリー」と少し意外な曲が立ち並び、驚きと喜びに震えて会場の盛り上がりが一層増した。

幅広いレパートリーから、シーンに合わせて満点以上のセトリを組み上げてくれる。あの寒い日のお台場が何となく脳裏に浮かびあがって、ほんとに良いユニットだよなと改めて噛み締める。

続く「Re:Credits」、聴けるのかこれも……。

こんなに良い曲、これから何回も、何十回もライブで聴きたい。そんで全力で、笑顔で飛び跳ねたい。

——それなのにここで「もう1回」を歌うのはズルいんじゃんか。


灰色の影を落とす思考を急いで払いのけて、次なる神曲のイントロに首を振る。

何十回、何百回聴いてきたその音に否応なしに揺れ始め、ここまでで一番ゆったりと彼らの声に耳を傾ける。

かっこよくて、かわいくて、死ぬほど華やかで、それでいて品があって。2人の歌声のそんな完璧なバランスに聴き惚れて、ずっと元気をもらってきたんだ。


さらに次の曲、「GOLDEN BATS」が流れ出して。

もう、何も分からなくなった。


手足の感覚はとっくに持っていかれて、ただ魂で揺らしている。

どうしたらずっとこのままでいられる?どうしたら朝が来るのを止められるんだ?

音に反応して生まれた感情が、続く音に弾き出されていく。


——ああもう、楽しい。

結局それだけが残って、ひときわ増長し、割れるような頭の痛みすらも甘美で刺激的な脳内麻薬に変えて、勝手に呼吸をし、勝手に腕を伸ばして、あの部屋の輪郭も、朝も昼も夜も、光も音も、自他の境界すらも、全てが曖昧に溶けていった。

酔ってるだけ?それも良い。

“BOOGEY VOXX”ってのはきっと、この世で一番美味い酒の名前だ。






最後の曲。


これを聴きに来た。これで踊りに来た。これで叫びに来た。

なあ分かるだろ。誰でもいい、街角で取っ捕まえて朝まで語り倒したい。

2人がくれたこの曲が如何に良いかってことを、伝えたい、知って欲しい。


いや違うな。要らないんだ、時間はそんなに。

たった4分、スピーカーの前に立っていてくれ。それで分かる。それで楽しくなるから。






ああ、始まっちまう。

もう喋らないでくれ、やめてくれ。そんなこと言わないでくれ。

『歌って!』だってさ。聞いたかよ。

泣きながら聴くんじゃなくていいのか。ただ黙ってその瞬間を受け入れることも、許してくれないのか。それでも楽しめって、そう言うのか。






ありがとう。

ありがとう。






俺たちは箱が割れんばかりの大合唱で、その呼びかけに答えを返した。

BOOGEY VOXXに貰ったすべての感情の、そのアンサーだ。今を逃していつ投げるって言うんだ。

全員がたった一つの「好き」を共有して、この場所に立ってる。それがどれだけすごいことか。

きっとあの2人が誰よりよく知ってるだろ。

ならひとつの欠片も取り零さず、伝え切りたいじゃんか。


手を叩いて、飛び跳ねて、叫んで。

この日何十回目かのそれを、今までで一番の力で。






もっと酔わせてくれ。ここで終わっていいんだ。本気なんだ。

純粋な「楽しい」「好き」なんて、そう簡単に
手にできるものじゃない。

色んな打算がどうしたってついて回るし、それを受け入れないと大人にはなれない。

分かってるんだ、そんなことは。

でもその先を諦めなくて良いって、こんな幸せな時間もあるんだってことを、彼と彼女は教えてくれた。今もそうだ。

だから好きになった。だからその音を愛してた。


なんで終わりなんて言うんだ。

こんな、こんなにもアツくなってる観客がこれだけいて、なんで「今度」が無いんだ。

次をくれよ。もっともっと先をくれよ。

そうさ、わがままだ。それも分かってる。

分かってて、それでもまだ夢を見ていいだろ。「足りない」を叫ばせてくれたのはBOOGEY VOXX、あんたらじゃないか。

なあ。頼むよ。






——ああもう、最後の最後までかっこいいなこの2人は。

俺が想像すらできないほど、今まで積み重ねてきたんだ。

こんなにも俺たちを盛らせておいて、疲れなんて少しも見せずにキレッキレに歌ってみせる。


俺だってまだ喉は嗄れちゃいないんだ。まだ応えられる。

ただ、情けないくらいに声が震えてるんだ。


なんでだろう、楽しいのにな。笑ってんのにな。

なんで、泣いてんだろ。俺は。






『 『 『 D.I.Y.!!!』 』 』


そう叫んで、酸欠でフラフラになりながら、なおも向け続けた視線の先。

スクリーンに流れる弾幕、その文字列。


見覚えがある。そう気づくより先に叫んでしまう。

あちこちから言葉にならない、もはや歓声とも悲鳴ともつかないな叫び声が飛んで。

それから数秒と待たずに、white全体が狂喜の声で満たされる。


あまりに粋で最高の演出にため息を漏らしてから、両手で目元を拭い、最後の瞬間までレスポンスを返し続けた。

アウトロに差し掛かって、BOOGEY VOXXとしての最後の台詞を叫ぶ2人。その顔を見つめながら。


ほんと、大好きだ。

ありがとう。


BOOGEY VOXXを愛してる。






——————————。






気が付くと、greenの2階にいた。

誰かが思い切り零したスミノフを、ガラスの破片ごとペーパータオルで拭き取っていた。


床には飲みかけの瓶もあって、どうやらそっちは自分のみたいだった。

区切りがついたところで一緒に片付けた相手に挨拶をして、DJブースを見遣る。

いつの間にかNemonoikaさんのターンになっていて、それも嬉しい曲ばかりが続いていた。


好きなDJさんだったから初めはなんとか前まで揺れに行こうとしたのだけれど、どうにも力が入らなかった。

結局仕方なく階段の手前まで行って、壁に寄りかかりながらぼうっと音を聴いていた。


宴にいて、クラブにいて、こんな気分になったのは初めてだった。

あのアクトからしばらく放心していて、今ようやく、僅かに癒されてきたところだった。


時刻は既に4:30を回って、イベントも終わりに近づいている。

気持ち程度の酒を片手に聴く明け方のDJがあまりに素敵で。今度は万全の状態であの人のセトリに浸りたいと、そう思わずにはいられなかった。


そして体力の限界を感じながらも、最後、あの背の高いDJのいるwhiteへ再び向かうため、両足を踏ん張って立ち上がった。






DJ WILDPARTY


人の隙間をするりと抜け、フロアの中列まで出ることができた。

もしかしたら今すぐ帰路につくというのも、選択肢としてあるのかも知れない。

けれど彼なら、DJ WILDPARTYなら、この説明のつかない気分をどうにか、どうにか咀嚼させてくれるんじゃないかと、そんな余地をくれるんじゃないかと思ったのだった。


この夜最後の演者がステージに立って、tempuraさんからバトンを受け取る。

曲が流れ出し、いつも通りの手短な挨拶からエンディングが始まった。


今見返しても最高のセトリだ。

一曲目にMidnight Grand Orchestraから「SOS」を持って来て、思わず笑みがこぼれた。

朝日南アカネcoverの「ラグトレイン」。良い。ほんとうに。イベントでかかる度にどれだけ沸いたか。

かなえぼしの「チューリングラブ」はもはや定番となりつつある気がする。良いよな。何なんだこの絶妙な噛み合い方は。

kzさんremixの「Maple Dancer」。クラップが楽しすぎる。毎度ほんとに良い。この曲は。

「hand in hand」だ。リゼ様cover、良い……。


「夏を待ちわびて」「Overdose」で今日の演者たちの歌声が聴ける。彼女たちのアクトを振り返ってももう、ヤバかった、くらいの語彙しか出てこない。もう5時を回っただろうか。

そういえば今年もワイパさんアレやってて良かったな。前に出てきてスマホ見せて回るやつ。「リトルハミング」のときだったかな。


それから遅めの「3時12分」が少し流れて、緑の「君になりたいから」が流れて。

「とろける哲学」に終わりが近いことを悟って。

「また明日」にクラっと来たり、「エイリアンズ」に心臓ごと持っていかれたり。


そうしてついに音楽が止んで、TAKUYAさんがステージに上がった。

最高のイベントだったと、俺たちは本心から叫ぶ。

それから正真正銘最後の1曲がかかり、それもいつしか終わりを迎え、拍手の後眩しく照らされたフロアをあとにして、俺の宴は終わった。






終わりに


富士そばを啜りながらワニコーのアクトを振り返ろうとしたけれど、寝てしまわないように耐えるのが精いっぱいでどうにも上手くいかなかった。

川崎から品川まで、そして品川から千葉まで。1時間と少しの旅路をひたすら眠りこけ、バスへ乗り継ぎ、自宅に辿り着く。


玄関の戸を閉じるその瞬間まで泣き崩れずに済んだのは、きっと最後のDJのおかげだった。




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TAMU
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haju:harmonics | ハユ
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YSS
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長瀬有花
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YACA(ワニとコウモリ)
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高坂はしやん(ワニとコウモリ)
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龍ヶ崎リン
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somunia
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yosumi
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BOOGEY VOXX
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キョンシーのCiちゃん
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Fra
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Nemonoika
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DJ WILDPARTY
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TAKUYA
youtube (VTuber Music DJ's): https://www.youtube.com/@VMDJ
twitter: https://twitter.com/selecta_takuya

(敬称略)


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