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「ダイヤの切っ先」の目が眩むような輝き:読書録「ギリシア人の物語Ⅲ 新しき力」

・ギリシア人の物語Ⅲ 新しき力
著者:塩野七生
出版:新潮社

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「アレクサンダー大王」の生涯を追ったのが本書。
「全戦全勝」であれよあれよと言う間に大帝国を築き上げ、流れ星のように去っていった若者(死んだのは「32歳」!)の人生は、驚きと輝きと、一抹の哀しみに彩られていますが、読み終えて思うのは、
「なんと輝かしい!」


「アレクサンダー大王」ってなんとなくネガティブイメージだったんですよ。
基本的に「独裁者」ってのに対していいイメージがないってのもありますが、
暗殺された父親との関係やら、過干渉の母親の存在やら、何やらホモソーシャルな気配の濃厚な人間関係やら…
そんなこんなで、「傍迷惑な若者(バカもの)」のイメージが…。


でも本書を読むと、そういうネガティブイメージは何だったんだろう、と。
いや、そういう事実はある。
あるんだけど、そういうのを全部覆い隠すような、圧倒的な「輝き」がアレクサンドロスにはあります。


戦闘において常に「先頭」に立つアレクサンドロスを評して、「ダイヤの切っ先」と言います。
本書では古代における名将ハンニバル、スキピオ、カエサルの「架空対談」が想像されます。
圧倒的な才能と成果に恵まれた3人の武将たちは、自分たちを超える天才としてアレクサンドロスを評価する(これは史実のようです)。
それでいながら、「ダイヤの切っ先」に立つことはなかった。
なぜか。
<「なにしろ彼は、若かったからね」>


「若さ」故の「鮮烈な輝き」

それは確かにあります。
それでいて、例えば「源義経」に見られるような「危うさ」は少ない。
しっかりと前を見据えつつ、足元も固めながら、とんでもないスピードで駆け抜け、そして突然姿を消す。
その「死」は「ダイヤの切っ先」であり続けた代償でもあると考えられますが(満身創痍であったとのこと)、しかし「そうでしかあれなかった」のがアレクサンドロスその人なのでしょう。
「帝国を築いた」という実績ではなく、その生き方の「鮮烈さと輝かしさ」。
これはまあ、欧米の人たちが自分の子供の名前につけたがるのも分かりますわ。


塩野さんは本書で「歴史書」の著作を終えるつもりらしく、終章に若い人向けの文章をつけています。
最後の題材として「アレクサンドロス」を取り上げるとき、あらかじめこのことも考えてたのかどうかは分かりませんが、これまた「響く」締めになってます。


本書の出版は2017年12月。
出版されてすぐに購入して、3年近く「積読」w。
直近にユーラシアの歴史を読んで(「遊牧民から見た世界史」)、「歴史もの」が読みたくなって、本書を引っ張り出してきたんですが、
「何でもっと早く読まなかったんだろう!」
…って。
まあ、それは「Ⅱ」を読んだ時も思ったんですけどねw。


個人的にはやっぱり「カエサル」のような懐の深いリーダーに惹かれます。
だけどまあ、ここまで鮮やかだと、そりゃまあ好きにならずにはいられませんな、アレクサンドロスw。
良い意味で「考えを変えさせられた」一冊、となりました。


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