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結局二人はカンボジアを救うことを放棄したってことかなぁ:読書録「ゲームの王国」

・ゲームの王国<上・下>
著者:小川哲
出版:ハヤカワ文庫(audible版)

1956年から2023年まで、カンボジアを舞台に、ポル・ポトの隠し子ソリヤと、数学の天才ムイタックの錯綜する人生を追いかけた作品。
出版は2017年ですので、後半は「近未来」を描いていることになります。(「SF」なのはそれだけが理由じゃないですけど)


作品の上巻は、カンボジアの革命前からくクメールルージュ時代が舞台になっていて、かなり辛い展開が続きます。
マジックリアリズム的なところもあって、土を使って戦ったり、輪ゴムが未来予想をしたり、あるいは世代間のわかりあえない行き違いなんかのやりとりが笑えたりもするんですけれども、クメールルージュ時代の歴史の重さが全体として物語を覆っています。
(人口の1/4、200万人が虐殺されてという時代ですから…)
終盤でソリヤがクメールルージュの一員としてムイタックの村を壊滅させることで、二人は決定的に対立することになります。


下巻は近未来の話。
野党のトップを目指すソリヤと、大学教授て脳科学科学を研究しながらゲームを開発するムイタックの対決が主軸となります。
ムイタックが開発するゲームがなかなか面白くて、そのゲームを通じて再会するソリヤとムイタックの対決が物語のクライマックスとなります。




クメールルージュ時代にひとときだけボードゲームを一緒にしたソリヤとムタック
そのゲームの一緒にゲームをした楽しい記憶が結局のところ2人の運命を決定づけています。
あらゆる非道な手段も使いながらも、トップを目指すソリヤは、政権を奪取した上で、ゲームのルールのような公平性に基づいて運営される政治を密かに目指しています。
ムイタックの方はクメールルージュ時代にゲームのルールを使った村の自治を経験しており、その失敗からゲームのルールのように世の中動かしていく事は困難であることを悟っています。
クメールルージュが目指した政治の中にも、ある種のゲーム性のようなものはあって、そうしたゲームのルールと、村にある呪術的な世界観や多様な欲望を抱えた人間たちの関係性が、対立し、せめぎ合いながらドラマを展開させます。
長いんだけど、退屈は全然しませんでした。



政治をゲームのように公正なルールで行うことができるのか


作品の大きなテーマはこれなんでしょうが、その根本には主人公二人が一緒にプレイしたゲームの幸福な記憶があり、ムイタックの作ったゲームで<再戦>した二人はそのことに気づきます。
だから悲劇的なラストも、もしかしたら二人にとっては…


でもまあ、取り残されら人々にとっちゃ、
「ええ?」
って話かもw。
なんか美しい話にしてるけど、僕らはこのカンボジアの現実に置き去りやん!
恋愛ってそんなもんかもしれんけどね。
壮大な歴史物語が語られながら、煌めくような一瞬でその全てを捨て去るところに「SF作品」としての冴えがある…とも言えるかも。
主人公二人はカンボジアの土着的で呪術的な考え方に対抗する論理的な人間なんだけど、その彼らが「ゲーム」の呪術的な時間に取り込まれているという構図。
傍迷惑な話だけど、惹かれるんだよな、困ったことにw。


とにかくパワーがあって、読み応え/聴き応えのある作品なのは確か。
「地図と拳」も読むかなぁ。
あれも長いんだよなぁ。
…と逡巡してるとこです。
audible 待ち?w


#読書感想文
#ゲームの王国
#小川哲

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